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4話




「わたしね。子供の頃から可愛いものが好きだったの。ぬいぐるみやお人形を集めて、自分で作った服を着せて遊んでた。でも実家が結構お堅いから両親からは良い顔をされなかったし、一時期取り上げられて禁止させられたわ。けど、人って禁止されると反動が凄くなるでしょ?妹の髪を結って化粧をしたり、最終的に自分を着飾る方向に行ったわ。ドレスを着て社交の場に出ようとしたから、両親の方が折れたの。人形遊びは好きなだけして良いがドレスは着るなと言われたわ。まあ、わたしは可愛いものを作ったり愛でるのが好きなだけで女装が好きなわけではないから、構わなかったけど」


「殿下の喋り方も、長年可愛いものを愛でていった結果です」


「喋り方も改めろと言われたけど、もう皆諦めて何も言わないわ」


はぁ、と昔のことを思い出したのかクリスが頬に手を当てため息を吐く。クリスの説明にメイドが補足してくれるので、鈴香もなんとなく彼の背景というものが分かってきた。ぼんやりと聞いている鈴香のことを不意にクリスが真剣な顔で見つめてくる。鈴香の背筋が緊張で自然とピン、と伸びる。


「それでね、わたしスズカを見た瞬間ビビッときたのよ。何この子可愛い…閉じこ…愛でて愛でて、愛でまくりたいって…だから迷惑だとか、そういうことを気にする必要は全くないの。恩着せがましい真似をするつもりも、一切ないわ。だから、ここを出て行くっていうの考え直してくれないかしら?」


「…可愛いとは…もしかして私のことを言ってます?」


やっと口を開いた鈴香から飛び出した疑問にクリスもメイドも呆気に取られていた。


「もしかしなくてもスズカのことよ。長い黒髪はサラサラだし目はパッチリしていて大きくて、宝石みたいに綺麗で肌も真っ白。何処からどう見ても可愛いじゃない、ねぇ?」


「はい、不躾ながらスズカ様が眠ってる姿はさながら絵画のような美しさでした」


鈴香を褒めるクリスにメイドも同調する。はぁ、と気の抜けた声を漏らす鈴香は2人が何を言ってるかよく分からなかった。


(2人とも、趣味が変わってるの?こんな()()私を可愛いなんて)


鈴香は異常なほど自己肯定感が低く、クリス達の言葉をそのまま受け取ることが出来なかった。ただ変わった趣味の人々なのだと、そう思い込んでいた。


出て行く気満々だった鈴香だが、こうも引き留められると意地を通すのも逆に失礼な気がしてきた。やはりクリスの言う通り、この世界に慣れてから仕事を紹介してもらうなり便宜を図ってもらうべきだと考えが変わりつつあった。


「あの…分かりました。お言葉に甘えて暫くお世話になります」


「!良かったわ〜暫くどころか一生居てくれても」


「スズカ様、殿下の提案を受け入れてくださりありがとうございます。紹介が遅くなりました。私、この邸で侍女をしておりますレイラと申します。スズカ様の専属になりましたので、これからよろしくお願いいたします」


「あんたね、主人の言葉遮るって無礼過ぎない?減給するわよ?」


不服そうなクリスに堂々とした態度のメイド、もといレイラ。主従関係のはずだが、とても気心知れた仲だという印象を受けた。これも冗談の一種なのかもしれない。


気持ちが落ち着いてきた鈴香が気になっていたあることについて、レイラに尋ねてみた。


「あの、レイラ…さん。さっきから殿下って…」


「はい、クリス様の本名はクリストファー・エルドバード、このエルドバード王国の現国王陛下の年の離れた弟君であらせられます」


「王族と言っても名ばかりよ。兄に子供が何人もいるから王位継承権も低いし。責務なんて殆ど果たしてないんだから、気楽にクリスって呼んでね」


鈴香は気絶しなかった自分を褒めてやりたかった。国王の弟、つまり王弟、お堅い実家とは要するに…。


(王族…上流階級どころか国のトップ!知らなかったとはいえ軽々しくクリスさんなんて…)


すっかり慄いた鈴香は弱々しい声で「殿下、とお呼びした方が良いですよね…」と申し出た。その途端、クリスの端正な顔が悲壮感に染まった。


「殿下なんて他人行儀すぎるわ!お願いだから名前で呼んでちょうだい!」


「他人行儀どころか他人ですよね」


「あぁ?てめぇ…んんん。あんた、良い加減本気で怒るわよ?」


クリスが必死で頼み込むので殿下呼びは辞めて、クリス様呼びに決まった。その流れで互いの年齢を教えることになったのだが、鈴香が24と知ったクリスがまたもショックを受けたように固まった。


「6つも下…やだわたしったら、完全におっさんじゃない…」


と口元を押さえて嘆き始めたので鈴香が(ついでにレイラも)慰める羽目になった。


(クリス様がおっさんだとこの世の男全員おっさんじゃない?というか30?見えない見えない、肌の手入れとかどうしてるの?)


鈴香より若々しく綺麗な肌をしているクリスに分不相応にも嫉妬していた。そんなやり取りのおかげか、鈴香がクリス達の間に作っていた分厚い壁が薄くなって行くような気がした。



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