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王都へのお供

ロゼール山の屋敷に来て3カ月が過ぎ、ロランドはルルと屋敷の近くの湖まで朝の散策に来て、鴨たちが旅立って行くのを見送った。

ロランドの腕は怪我をする以前と遜色ないほどにすっかり回復していた。

「冬の終わりも近い。そろそろダルメディア城に戻って、王都に行かねばならないな」

春になるまでに、全国の領主は王宮へ参勤して陛下に一年の報告をするのが義務である。

ダルメディア領は各村の村長が持ち回りでこれを行っていたが、この冬からは領主となったロランドの務めだ。


マリウスは、ダルメディア城に戻ったロランドとともに参勤の準備に追われていた。

「え、ルルを連れて行くんですか?」

「あぁ。陛下へのご報告は一日で終わるし、ちょっと王都でルルと行きたいところがあるんでね」

「何を企んでいるんです?」

「人聞きの悪い言い方をするな」

「否定はしないんですね」

「……王都には数日滞在して戻ってくる。留守を頼んだぞ」

「はいはい」

ロランドは村長たちの用意した報告書を携え、ルルを愛馬の前に乗せるすっかり二人の定番となった移動スタイルで出発した。帯刀して王宮入りすることはできないので、領主様から贈られたルルの剣はダルメディア城の宝物庫に置いてきている。

「ルルは私の護衛だが、王宮には王族以外、自分の護衛を伴って入ることはできないんだ。だから名目上は従者ということにするからな」

「わかりました! お供させてもらえるだけで嬉しいです」

領主様と一緒に王都へ、しかも王宮へ行けるだなんて、ルルはそれだけで胸がいっぱいだった。この季節の空気はまだ冷たいが、馬の背で領主様のマントに一緒に包まれている体はポカポカと暖かい。

途中の町で宿をとりながら3日目に王都に到着した。

王宮へ向かうと、ロランドの顔を見ただけで侍従がすぐに滞在用の部屋へ案内した。

「父さんは参勤のために王都に宿を取ってたけど、領主様だと王宮に泊まれるんですね」

部屋が用意されていたのは陛下のおぼえめでたいロランドだからこその特別待遇だが

「私は他の領主みたいに王都の邸宅を持っていないから、陛下が不憫に思われて泊めてくださるんだろう」

と本人はとぼけている。

「陛下はお優しいんですね」

ルルが無邪気にそう言いながら荷解きをしていると、開けたままのドアがコンコンッと叩かれた。

振り返ると黒髪を綺麗に後ろに撫でつけ、きっちりと正装に身を固めた男がにこやかに立っている。

「ようこそ英雄殿。陛下への謁見は今日の午後一番だ。それに夜は陛下と夕食をご一緒するように」

「モルガン! なぜ宰相が伝令役をしている」

「どうせ英雄殿に挨拶に来るつもりだったからついでだ」

やって来たのは、ふた月前に宰相に就任したばかりのモルガン・フォール。

マリウスと同じくロランドとは上級学校の同学年で、騎士科と文官科ではあるが、ロランドを将来有望と確信していたモルガンは、学生時代から熱心に話しかけて繋がりを持とうと努めていたので、言葉を交わす仲であった。

優秀で根はそう悪くない男だが、上昇志向が強すぎる点はロランドとは相容れない。しかし若くして騎士団長まで昇りつめたロランドを自分と同類で出世欲旺盛と思い込んでいるらしかった。

「それにしても、これはまた、なんとも」

モルガンから無遠慮にまじまじと見られてルルは領主様の背中に隠れた。

「ダルメディアから連れてきた英雄殿の従者か。たいそうな掘り出し物を見つけたものだな。ほら、飴をあげるからこっちにおいで」

「え、飴?」

思わずロランドの背中から顔を出したルルに

「コラ、知らないオジサンにお菓子をあげるって言われてもついて行っちゃ駄目だって教わらなかったのか?」

ロランドは苦笑した。

「ルルという。私たちと同学年だったマリウス・クリューズの弟だよ」

「あの目の上のたんこぶ野郎の? 全然似てないな」

「なんだ、マリウスを知ってたのか」

「領主科のくせに文官科の私より文官からのスカウトが多かったヤツだから嫌でも憶えてるよ」

宰相様と知り合いだなんてマリウス兄さんはすごいんだな、とルルは誇らしく思いながら聞いていた。


領主様が陛下に謁見しているあいだ、ルルは一人で部屋で待っていた。

「ルル、陛下へのご報告が終わったよ」

侍従が届けてくれた贅沢な焼き菓子をテーブルに並べているところにロランドが戻って来た。

「おかえりなさい領主様、ちょうどお茶の準備ができたところです」

お茶を楽しみながら、二人で明日からの予定を話し合う。

「明日からは私もゆっくりできるが、ルルは王都でどこか行きたい場所はあるか?」

「ヨハネス兄さんに会いに行けたらいいなと思うんですけど」

「ルクルム商会に勤めているんだったな。私も久しぶりにヨハネスに会いたい。明日一緒に訪ねよう」

「ほんとですか!? 楽しみです!」

王都で領主様とヨハネス兄さんと3人で会えるというのが特別な感じがして心が浮き立つルルだった。

夜は領主様が陛下との夕食に呼ばれていたので、ルルは一人で部屋で食事を済ませ、明日の出掛ける準備をして待っていた。領主様が戻って来るまで起きて待つつもりだったルルだが、いつのまにかソファーで寝てしまっていた。

夜半過ぎにやっと陛下から解放されて戻ってきたロランドがそれを見つけ

「待ちくたびれて寝てしまったのか」

と抱き上げ従者の部屋のベッドに運ぶと、ぐっすりと眠るルルのおでこにキスを落として出て行った。


翌日、ロランドは朝から宰相の執務室に呼び出されていた。

「東の新興国の使節団?」

「たしかミン国とかいったな。辺境を多少まとめたから認めて欲しいってことだろ。あの地域はしょっちゅう勢力が入れ替わって国ができちゃ知らないうちに消えてるからなぁ」

「陛下への謁見を許すからにはちゃんと調べたんだろうな」

「あぁ、問題なかったよ。こういう小国からのご機嫌伺いはいつものことだからね」

「そこになぜ私が立ち会う必要がある」

「公の場に英雄殿が姿を見せると陛下のご機嫌がいいんだよ。私を助けると思って半刻ほど居てくれるだけでいいから」

モルガンに押し切られ、ロランドは部屋で出掛ける準備をして待っていたルルに

「申し訳ないが用事ができてしまって少し出るが半刻ほどで終わる。戻ったらすぐに王都へ出掛けるから待っててくれ」

そう告げて出て行った。


新興国の使節団の謁見に同席したロランドはその中の一人の男を目に止めた。装いは貴族だが歩き方が訓練された兵士のそれであり、違和感を覚えた。

取り越し苦労かも知れないが。

そう思いながら、陛下の近衛の死角となりそうな位置を監視するべくさり気なく移動する。

使節団の代表が口上を述べ、献上品の花器を差し出した。その染付の見事さに陛下も周りの者も気を取られた一瞬に、ロランドは件の男が腰元に手を入れるのが見えた。

馬車に轢かれそうになった王子を救ったときと同じように、考えるより先に体が動く。

キーンッと鋭い刃音が響き、その場の者たちは何が起こったのかも分からないまま気付いたときには、ロランドが陛下の盾となり、近衛から引き抜いた剣で男の刃を受け止めていた。

流れるような動きでロランドが男を取り押さえると、会場は蜂の巣をつついたような騒ぎとなり近衛たちが使節団を取り囲んで陛下を襲った男とともに引っ立てて行った。

「そなた……腕が治ったのか」

陛下が衝撃を受けたのは襲われたことよりもロランドが剣を握っていたことだった。

「恐れながら、ダルメディア領での温泉治療が功を奏したようです」

「なんという僥倖! 今日ここにそなたが居なければ余の命はなかったぞ」

「期せずしてこの身がお役に立ち幸いにございます」

謹厳な顔で頭を下げたロランドだが、心中ではさっさとここから抜け出しルルと王都へ出掛けたいと焦れていた。

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