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#9 抑えられない思い

 

「彩華⋯⋯?」


 驚いてから休む間を見せず、駆け寄ってきた彩華に突然強く抱きしめられ、息が苦しくなる

 身体を起こし、彼女を宥めるように背中をさするが、それだけでは力が多少緩んだだけで離そうとはしてくれない



 本当によかった──


 彼女はそう一言だけ口にしてくれた


「俺は大丈夫だ。だけどその、こう見えても結構恥ずかしいから⋯⋯落ち着いたらでいいから離れて欲しいな」


「ん⋯⋯ごめん、でももう少しだけこのままで居させて?」


「⋯⋯あぁ」


 彩華は涙を制服の袖で拭った

 その仕草にドキッとし、思わず俺は顔を逸らす


 内心、俺の心臓はバクバクだ

 抱きつかれた事で、次第に取り戻せてきていた思考は一気に真っ白になり、体温も一気に上がった


 自覚はできてないけど、おそらく鼻の下も伸びて今頃はすっげぇだらしの無い表情をしてると思う


 数時間前からの強烈な()()()のせいで感情が鈍麻し、何故か精神は高揚し切れず冷静を保ってるが、いずれこの虚無感も消えてくれるはず



 3分ほど時間が経った時だろうか、彩華はようやく落ち着いたのか、抱きつくのをやめて離れてくれた

 今はベッドの上に座り、鼻をすすっていて、まるで親を失った子犬のように身をすくめている


 話すなら⋯⋯このタイミングしかない



「俺、真海と話をつけてきたんだ」


「えっ」


 彩華の目が丸くなる。


「一限終わり、真海に呼ばれてたのは気づいてたか?」


「う、うん。その時は男子にまくし立てられてたから⋯⋯。でも真海ちゃんがゆうくんを何処かに呼んでたのは聞こえてたよ」


 彩華が言った直後、何かを思い浮べたのか、まさかと言った表情で、彩華が眉間に皺を寄せていく


「ああいや、アイツに何かされたとかそんな訳じゃない。だからそんな怖い顔しないでくれ」


 彼女の顔が一瞬で硬直したかと思えば険しくなると、周囲の空気が一変

 彼女の瞳の奥は光を失っていて、顔全体が凍りついたように見えて⋯⋯俺の背筋が同じく凍った


「⋯⋯ほんと?」


 信用されてないのか、覗き込むようにして俺の顔色を念入りにチェックしてきてる⋯⋯


「こんな嘘ついてどうするんだよ」


「ゆうくん、優しいから真海ちゃんを庇ったりするかなと思って」


 ⋯⋯俺の性格を持ち上げ過ぎだ

 流石に何かされて黙ってられるほど人間ができてる自信なんて俺にはないよ

 現に昨晩、彩華に俺の弱音を全て吐露したし⋯⋯


「それなんだが、もう庇う所か真海と話す事は無いと思うんだ」


「そっか、じゃあ昼休みに?」


「うん、家事手伝いや登校時の付き添い⋯⋯真海がしてくれていた物は全部断りを入れておいた。今までありがとうってな」


「やっぱり⋯⋯辛かったよね?」


 大丈夫だと伝えてもやはり不安なのか、伏し目がちに俺を見て気にかけてくれる

 そっと俺の手を握ってきては、俺の手が彼女の温もりに包まれた


「まぁ、泣きもしたしそのせいでぶっ倒れたからな⋯⋯」


 それを優しく握り返し、頭の中でこれからについてを少し考えていた


 俺がこうやって保健室に来てしまった理由を教えれば、彩華は硬直した顔を崩し、ふふっと口元に小さな笑みを浮かべる

 続けて『ゆうくん』と、俺がギリギリ聞き取れる程の声で呟いていた


「⋯⋯⋯」


 ⋯⋯ぶっちゃけ、俺は少し幼馴染の真海に頼り過ぎていた節がある

 それは俺の友達が皆、一斉に頭を縦に振ると豪語できる程だ


 しかしこうして別れを告げられた今、自立するのには絶好のチャンス⋯⋯

 幼馴染の姿が俺の家からなくなるのは辛いし、寂しさも勿論あるが


 だけどいつまでも真海の脛をかじっている訳にも行かないし、真海の負担も1人分減るので、俺ら双方WinWinの関係だろう


 手始めに今日の晩御飯は何にするかと、足りない頭で必死に考えていた時、彩華が口を開いた


「じゃあさ、提案」


「ん?」


「私、真海ちゃんの代わりになる」


「は?」

 

 提案と言って出てきた突然すぎる出来事に頓狂な声が出てしまった

 自立しようと意気込んでいる今の俺には、その言葉の意味はよく分かる


 つまり、家に来て色々してくれるって事だよな⋯⋯


「真海ちゃんがしてた事ぜ〜んぶ私が引き受ける。家事、洗濯、お買い物⋯⋯ゆうくんだったら下の方の処理だって──」


「待て待て待て勘違いするな!そこまではして貰ってない!!」


 ⋯⋯突然何を言い出すんだコイツは


 クソッ、こいつ反応を見て悪戯っぽく笑ってやがる⋯⋯

 俺が童貞で取り乱しやすいのをいい事にお構い無しかよ、真面目な話の途中だってのに⋯⋯!


「えへっ、ゆうくんったら少し期待しちゃった?」


「う、うるさい!」


 冗談の一環なんだろうが、まだ可憐な美少女がそんな事を言うんじゃない!と、心の中でツッコミを入れておく⋯⋯


 突然の危ない発言にかなり気を取られてしまった


 ⋯⋯とはいえ、真海の代わりになる⋯⋯か

 そればかりは冗談じゃないと思うが、そう言って貰えると結構嬉しい物だな⋯⋯


 だけどせっかくの自立のチャンスでもある

 俺の意思の弱さは折り紙つきだ

 正直に言うと、随分と悩んでしまっている⋯⋯



「勿論幼馴染としてじゃなく、1人の恋人としてね」


 何だか彩華からのアプローチがより積極的になっているのは気の所為だろうか

 昨晩とは違って、今日の彼女恥じらいを見せず堂々としてる


 彩華の小悪魔的な笑みを見ても真に受けてしまっていた俺は頬を赤くし、彼女(彩華)に不満を垂れる


「またからかいやがって⋯⋯」


「でも〜冗談じゃないよ?」


「⋯⋯どういう意味だよ?」


 意味を問うと、途端に彩華の顔が近づく────


 今にでも唇を奪われそうな距離感

 肌が触れそうな至近距離で、他人であるはずの彩華の息遣いも分かる


 やばい、ドキドキが凄い

 心臓の鼓動がどんどんと早まって⋯⋯


「もし真海ちゃんの本心を知って、全てが終わって⋯⋯もしそれで吹っ切れた暁にはさ?」


 逃がすまいと手を握る力が更に強くなる

 でも昨日とは違って、彩華は押し倒して来ない


「よかったら⋯⋯私を表面だけじゃない、本当の彼女にして欲しいなって」


 言って、唐突に手を離して俺から距離を取る彩華


「ご、ごめんっ!私また⋯⋯!」


 どうやらまた理性を失いかけていたようで、急に我を取り戻して俺に頭を下げてくる


「⋯⋯⋯」


 何とも言えねぇ感じになっちまった

 あんなことを言われて、俺は彩華に何て声を掛ければいいんだよ⋯⋯

 何もかもが中途半端で切り上げられ、不完全燃焼だ⋯⋯


「あの、答えは全部終わらせてからお願いします⋯⋯その時に改めてゆうくんの気持ちを聞きたいな⋯⋯」


 流石の彩華も勢いに任せすぎたようで、その場で恥ずかしがり、俺に顔を見られないようにそっぽを向いてしまった


 その微妙な空気感の中でも、俺の胸の高鳴りだけは治まらない

 一方で何と声をかければいいか分からない、この何とも居心地の悪い雰囲気⋯⋯


 まるで床の模様を熱心に観察するかのように、俺と彩華は視線を彷徨わせる


「とりあえず⋯⋯帰ろうぜ」


 体調は彩華に抱きつかれて感情が高揚したおかげか、気がつけばあの気持ち悪い感覚は消えていた


 流石にこの微妙な空気感のまま、ここに居座るのも嫌だし⋯⋯


 バツも悪いし日も暮れてきているので、俺は勇気を振り絞り、続いていた静寂を破った


 程なくして彩華はそれにコクコクと頷き、俺が立ち上がったのを確認してから、彼女も腰を上げた


「ゆうくん⋯⋯手だけでも繋いでもいいかな?」


 互いに赤面しているが、それでも彩華は手を握りたいと言い出す


 意識しちゃって、めっちゃ恥ずかしいんだが⋯⋯


 流石に面と向かって手を繋ぐと、ドキドキでどうにかなりそうなので、俺は顔だけは合わせず彼女の前にそっと手を差し出す



お読み頂きありがとうございました!


力関係としては、裕介<真海<彩華です。

2人が特別力が強いと言うよりかは、裕介が貧弱って感じです。彩華も普通の高校生には勝てないぐらいの強さで、ちゃんと女の子してます。


また、3人が幼馴染2人にどう言った心情を向けているのかを表現する為に同じ展開となりましたが、それとは別に彩華と真海視点を導入してみようかなと考えています。


ですがNTR物でヒロイン視点は必要なのか?と葛藤していまして、宜しければ感想やリアクションで皆様の意見を聞かせていただきたいなと思います。

2人の視点が欲しければ"赤面"のリアクション、主人公視点だけでしたら"爆笑"のリアクションをいただきたいです!よろしくお願いします!


続きが気になる!面白い!など思ってくださればよろしければ評価、感想やブックマークをいただけますとすごく励みになります!

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ぜひ読みたいところです
NTR(ざまぁ)物において、新旧ヒロイン視点は ネタ晴らしというか、物語の核心に迫る部分なので、 答え合わせor展開の進行という意味で不要という事はあまりないかな。 だからこそ使い勝手というか、タイ…
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