#6 転校生
身長について軽く補足しておきます。
裕介、170cm前後
真海、155cm前後
彩華、150cm前後
今回の新キャラ、180cm
彩華の力を借りて新しい一歩を踏み出すと、俺の気持ちに変化が来るのはそう遅くはなかった
ホームルームまでのスキマ時間ではクラスの隅で一人、スマホを見て眺めているのは"彼女"とのやり取り
校門をくぐった所で彩華と別れて彼女は職員室に、俺はそのまま教室に直行した
彩華は転校初日であるので教室ではなく職員室に待機
一緒に教室に向かえない事を終始嘆いていた彼女だったが、それでもなお『初めての彼女に浮かれすぎちゃダメだぞ〜』と、俺をからかってきたり⋯⋯
それからと言うもの、表面上だけであるのにも関わらず⋯⋯意識してしまっている自分がいた
『ねぇねぇ先生に聞いたんだけどさ!私達、同じ組だって!(^^)』
眺めていると彩華から新しいメッセージが届いて、思わず口元が少しだけ緩んでしまう。
続々と登校してくるクラスメイト達を横目に、俺は彼女への返信を入力
『それは良かった。クラスメイトとしても改めて、これから宜しくな』
〜送信
そっか、彩華と一緒のクラス⋯⋯嬉しいな
クラスの隅で隠居みたいに生活してたのに、これじゃ休み時間とかも騒がしくなるな⋯⋯
俺は彩華に対する返信を送信して、スマホの画面をひとつ前に戻した
そこにはズラリと友達の連絡先が並ぶ
そこでどうしても俺の目についてくるのが⋯⋯真海の連絡先
見れば今朝のALINEから特段真海からの返信はなさそうだが
彩華のおかげで真海への想いは概ね収まりつつある。だが数年思い続けた幼馴染を⋯⋯メッセージだけのやり取りで、"はいさようなら"なんて出来る訳もなく
「⋯⋯既読、ついてる」
俺の意志は弱く、ついつい彼女とのALINEを開いてしまうがやはり何も返ってきていない
⋯⋯アイツ、今どうしてるかな
返信する必要のない事への安堵、相手にされなかったと言う辛さ
何とも言えない感情が込み上げてくるが、このまま見続ければまたメンタルをやられるかもしれん
これ以上はいけないと、俺はそっとスマホの画面を閉じた
時間が経つにつれて俺のクラス、"3年2組"のクラスメイト達が集まってきた
時間的にホームルームが始まる
教卓前で集まり駄弁る一軍の男達も席につき始めたし、そろそろか
「⋯⋯それにしても、アイツ来ないな」
⋯⋯真海の奴、普段よりもだいぶ遅れてるけどまさか俺のせいじゃないよな⋯⋯
既読はついていたし、連絡自体は普段家を出る30分前には連絡したからそんな事は無いと信じたいが⋯⋯
もしこれで俺がアイツに文句を言われる事態にだけ、ならない事を祈るとしよう
陰口を聞いて面と向かって話せるほどのコミュ力はないし⋯⋯気まずすぎる
まぁいい、気にするだけ辛くなるし考えても仕方ない
あと僅かではあるがホームルームが始まるまで暇だし、少し写真の整理を──
「よっ、おはようさん」
俺が再びスマホの電源を入れ、フォトアプリを開こうとすれば、隣からは俺に声をかける人物が現れた
「おはよう、今日は遅刻しなかったんだな?」
俺は口角を上げて、声をかけてきた人物に少し弄りをかましてやった
彩華にやられた分の鬱憤をこいつに、って奴だ
「そろそろ日数がやべぇし真面目くんやるしかなくなってな。悪ぃが今日からお前の知ってる俺様じゃないんだぜ?」
全く誇る事でもないながらも得意顔を見せるコイツの名は『天童雅俊』
俺の前の席に座るコイツは、高校1年の頃からできた俺の親友の一人で、数少ない俺の話し相手でもある
雅俊の性格は、どちらかと言えば陽キャに近い物
ただそのコミュ力を持ってしても一軍とは馬が合わないようで、喧嘩を起こしては担任に窘められる場面が多い
⋯⋯あと、腹が立つことにコイツは彼女持ちである
「そういえば裕介の彼女が見えねぇけど、一緒じゃねえのか?」
「何度も言うが真海は俺の彼女じゃねえって⋯⋯色々あってな、今日を境に別々に登校する予定ではある」
「⋯⋯マジで?」
雅俊の目が見開いてる。呆然とした顔でどうやら俺の言葉が信じられないようだ
「大マジだよ。親友のお前だから話すけど⋯⋯昨日告白したんだが、振られてな⋯⋯」
口元を引き攣らせて、目を伏せる雅俊
俺に対して聞いてはいけないことを聞いてしまったと言葉を詰まらせる
「⋯⋯わりぃ」
「過ぎた事だし良いんだ。但し、心から悪いと思うなら今度何か奢ってくれよ」
「⋯⋯おう」
気まずそうに謝ってくれるが、振られた原因は俺にあるからこそ怒る気持ちも出てこない
今じゃ何とか持ち直せた方だが失恋直後の精神のまま、ふざけた口調でそんな事を聞かれれば親友とはいえ怒る所じゃすまなかったと思う
おっと⋯⋯気づけば担任がもう教卓に立っている
もはや2分前と言ったところか、席は例のひとつを除いて全てが埋まっているな
⋯⋯遅刻するのかな、真海
程なくして、予想は外れてその席が埋まる時がやってくる──
「「────!?」」
閉まっていた教室の扉から何かがぶつかるような大きな音がなり、一同がそちらに視線を向けた
すると、そこには俺が探していた真海の姿が
「す、すみませんっ!少し、遅れました⋯⋯!」
⋯⋯あんなになるなんて一体どうしたんだ?
「何かと思えば愛月か、お前が遅刻ギリギリとは珍しいな。早く席につけ」
真海の姿は普段とはかなり異なっていた
いつも整っていたはずの髪はかなりボサボサで、真海の清楚な雰囲気を引き立てていた制服も今となってはしわくちゃ
左右均等の長さであるニーソに至っても、長さが異なっており何やらすごく急いでいたという事が伝わる
⋯⋯俺のせい、じゃないよな?
大きく息を切らしていた彼女は担任に従い、真っ先に席へと向かう
「⋯⋯⋯」
その際、ジロジロと俺の方を見てきていたが目を合わせたくなかった俺は直ぐさまそれとなく視線を担任の方へと逸らす
「よし、では出席を取るぞ」
担任が教室を一望。
出席確認用のバインダーを持ち、一人一人の名前を読み上げていく
〜
続くように皆の出席確認が終わり、担任は次の報告事項へと移った
「さて、男子の殆どはもう知ってると思うが。今日はこのクラスに新しい仲間がやってくるぞ〜」
生徒達がヒソヒソと始めた事で、会話が波のように広がり教室が騒がしくなった
既に存在を知っていると特に反応を示さず呆けて話を聞いている俺の前では、雅俊が気分を踊らせていた
「なぁなぁ、新しい転校生って女の子だよな?」
続くように振り向いてきた雅俊から質問されると、一方の担任は転校生に教室へ入ってくるよう指示を出していた
「⋯⋯男子の中で噂になってるんだし、もう分かってるだろ」
そんな雅俊に前を向けと言わんばかりに目配せする
やがて教室の扉が開き始め、教室内の視線はすべてそちらへ向いた
そこから1人の美少女が姿を見せる
「すげぇかわよ⋯⋯!」
「お、おいっ俺⋯⋯惚れちまったかもしれん」
「何あの子、一軍の私達より可愛い⋯⋯だなんて」
教室は多種多様な反応を見せていた
彼女に惚れかけるもの、目を奪われるもの
嫉妬するものや対抗心を抱くもの
そして真海も例に漏れず、その美少女の姿を見ていた
多分彼女がかつての知り合いであると気づいていないのだろう。反応はあまりせず、ふ〜んと眺めて髪を整えているだけだったが
────桜木彩華
その歩みはまるで一国のプリンセスが歩く時と似たように、一歩一歩から気品がにじみ出ていた。
童顔や身長の低さも相まって、男子の人気は喋らずとも急上昇
「一週間前ほどからこの街へ引っ越してきました桜木彩華と言います。1年間と短い間ですが、これからよろしくお願いします」
彩華が教室内全員に頭を下げては満面の笑みを見せつける
「「うおぉ〜!!」」
一軍、二軍の男子達がその笑顔を見て急に騒ぎ出す
教室が騒がしいにも動じない担任はそれを咎めようとはせず、彼女の座る空き席を探していた
そして俺の前の雅俊の反応は有頂天と言った所か⋯⋯見ろよ見ろよ!と言わんばかりに俺に視線を向けてくるが⋯⋯俺はそれを無視した
一方の真海なんだが⋯⋯アイツはやっぱり驚いてる
空いた口が塞がらないのか、目も見開いて驚きの表情⋯⋯
⋯⋯無理もないだろう
桜木彩華は、彼女にとってかつて自分と遊んでいた昔の幼馴染
俺と彩華、そして真海の3人で遊んだ記憶は、見るに彼女の中にはしっかりと残っていたようだ
「そうだな⋯⋯桜木、あそこの小鳥遊って男子の隣の席に座ってくれ」
⋯⋯おぉうマジか。
俺の隣の女子、3年であるのにも関わらず何故だか不登校になって転校して行ったんだが⋯⋯その席を使うみたいだ
こう改めて隣に来るとなると、少し照れちまうな⋯⋯
「よろしくね、小鳥遊くんっ」
俺の隣の席についた彩華がこっちに挨拶
一際口角が上がった笑顔
俺は頬を赤らめ目を逸らし、その挨拶を返した
「お、おぅよろしく」
流石に登校初日、知り合った関係で話し合うと展開が早すぎるからか彩華は初対面と言う体で声をかけてきた
⋯⋯うわ、男子からの視線がえぐい
頼むから偶然席が隣になっただけの俺に牙を向けないでくれよ
あと、真海も未だに俺の方をジロジロと見てきている
しかも、どういう訳か先程よりも真海のその視線は強くなっており、物凄く痛い⋯⋯
これからの学校生活、色んな意味で退屈しなさそうだな⋯⋯
〜
一限を終えて合間の休憩時間
「彩華ちゃんって〜!」
「ねぇねぇ俺と連絡先交換してよ!!」
「その髪型すごく可愛いなぁ〜!」
隣の彩華は男子から絶え間ない質問攻めにあっている
一軍、二軍⋯⋯このクラスにいる底辺カースト以外の男子は全員この場に集まってる
クッソやかましいことこの上ない、静かにしてくれ⋯⋯
「えへへ、質問なら順番に聞くよっ」
そして彩華
俺に見せつけているつもりなのか、はたまた助けを求めているのか⋯⋯いや、それは無いな
チラチラとこちらを見てくるが、俺はそれには構わずスマホを眺め続ける
⋯⋯彩華の奴も俺が助けられるとは絶対に思っていないだろうよ
ふと俺は彩華ではなく、真海に視線を向けた
気がつけば彼女の乱れていた姿は元に戻っている
クラス内で1番と言われていた美女の真海は、今じゃ全く相手にされていない
彼女は、そんなのどうでもいい周りが煩いだけと言っていたがやはり思う節があるみたいだ
⋯⋯めっちゃイライラしてるって、周りから漏れ出る負のオーラから感じ取れる
────途端に勢いよく立ち上がる真海
⋯⋯立ち上がった
現状に業を煮やしたのか?行動理由は不明だがジロジロと俺達の方を見ているけど⋯⋯
何だ何だ、アイツこっちへ向かってきてる?
一触即発の状況
かつて幼馴染だった2人──クラス1、2を争う美少女同士の戦いが始まるのかと唾を飲み込む
しかし、真海の目的はそれとはまるで違った物だった