#5 過去との決別
昨晩は真海の本心を探ると言う話題をひたすら話し込んだ。
彩華に押し倒されて以降、不思議にも彩華とはそう言った雰囲気にはならなかった
流石にどうかしていたと、あれから彩華は二言目には謝り何度も俺に頭を下げてきた
⋯⋯そのせいで次の日になっても、俺に流れてきた彩華の唇の感覚は忘れられない
幾度となく昨日の出来事を思い出しては1人で赤面してる自分がつくづく嫌になる
⋯⋯流石に童貞が過ぎるってな
でも悪い事だけじゃない。
彩華がいなかったら、今頃傷心で学校を休んでいた頃だろうよ
彼女と話せば話すほど、凄まじい速さで沈んでいたメンタルが元に戻っていったのは大きかったな⋯⋯
今、こうして────彩華と肩を並べて登校できているんだから
「お〜い?ゆうく〜ん」
「んあっ!?な、なんだ?」
「なにボケっとしてるのかな〜って?もしかして昨日の事で色々悩んでくれたり?」
昨日の帰り道みたく、登校中にでも彩華は俺をからかってくる
告白後も毎日、真海と登下校をしていたが今日は違う
失恋したのはめっちゃ辛いけど、でも今の隣には俺を想ってくれる彩華がいる⋯⋯
彩華と登校する以上、真海との遭遇は避けておきたくて少し早めに家を出た
思った通り、真海はもちろん。周りにはいつも歩いている生徒達の姿はない
「⋯⋯⋯」
昨晩は夜遅くまで作戦会議。外が真っ暗になっている事を知らずに話し続けていたせいで、真海以外の女の子を初めて男一人の家に泊まらせる羽目になった⋯⋯
無論、部屋は別々だ
話し合いの末に導き出した答え、驚愕したその方法
俺は彩華に上手く丸め込まれ、結局⋯⋯
「もうっ!表向きの関係だけど、ゆうくんは晴れて私の彼氏になったんだしもっと気張ってくれなきゃ困るよ!」
────なんやかんやで、こうして付き合う事になってしまった
いや、厳密には真海に見せつける為の表づらの関係ってだけで、正式には付き合ってはいないんだが。
彩華にはこれも作戦の一環だと説明された
そしてその作戦の第1ステップは『イチャイチャを見せつけて真海の反応を観察する』
名付けて『真海ちゃん嫉妬確認大作戦』ってのだ⋯⋯ネーミングが際どいのは突っ込まないでおいたが
その代わりに言わせてもらおう
恋愛経験のない俺からしたらいきなりハードルが高すぎる⋯⋯
本当に高すぎて頭を抱えちまう⋯⋯
「そ、そんな事言ったって急に決まった事だ!上手くやろうにも出来るわけないだろ!」
「ま〜たそうやって弱音吐いてぇ!私の彼氏ならもっとこう⋯⋯彼女を守ってやるぞっ!って気概を見せなきゃ真海ちゃんにバレちゃうよ!」
「全く、強引に話を進めた癖によく言うよ⋯⋯」
彩華が言うには段取りをつけて慎重に進めていくべきだと
具体的には真海の目の前でイチャイチャするのではなく、校内で俺達の噂を立たせるのが重要らしい
その万全を期した抜かり無さは、これまでにずっと考えていたかと疑ってしまうほどだ
真海の勘の鋭さは彩華も認める代物
もしもその勘が衰えず今も持っているとしたら一瞬で見抜かれ、今後の作戦に差し支えると持論を展開していた
わざとらしく目の前でイチャイチャするのはリスキーだからと、彩華は真海の側面を突くようなやり方を採用したらしいんだが、俺の頭脳じゃそこまでの事は考えきれん⋯⋯
女の子だからこそ分かるであろうその考察に俺は頭を縦に振るだけで声を挟む余地はなかったよ⋯⋯
「じゃあさ、練習の一環として恋人らしい事、してみよっか」
「えぇ、流石に登校中はまずいだろ⋯⋯お前、今日が初めての登校だろ?」
「今日転校してきた美少女がクラスカースト最底辺の男の子と手を繋いで登校⋯⋯物凄いスキャンダルになると思うよ?」
「悪かったなカースト最底辺で」
⋯⋯彩華め、俺が言い返せないって分かってて弄ってきてやがる⋯⋯
腹が立つ事に図星だ図星、クラスの中では陰キャ扱い。隅で男友達としか話さない俺にとっては彩華のような美少女は高嶺の花って奴だ
そんな場が目撃されれば瞬く間に噂になって広がっていくだろう⋯⋯
果たしてそれは俺達にとっていい事なのか
告白直後の真海の耳に入れば⋯⋯とも考えてしまうが、彩華はもう待ちの体制
「ほらほらっ、早く私の手を取って?」
「⋯⋯わーったよ」
差し出された彩華の手を渋々と握る。
「ん、ありがと!」
体温でほんのりと暖かく、でもどこか冷たい⋯⋯女の子の手ってこんな小さかったんだな⋯⋯
もしかしたら俺、また赤くなってるかもしれん⋯⋯
「⋯⋯⋯」
とまぁ、そんなこんなで彩華との気の抜けない波瀾万丈な生活がスタートする事になった訳なんだが
そういえば真海にALINEしとかないと、後々面倒になりそうだ⋯⋯
俺を振った彼女が今日も一緒に登校してくれるのかと疑う節もあったが、真海の事だ
振ったこととはまるっきり別と考え、変わらず家へ迎えに来るだろうな⋯⋯
「手を握ってくれたから少しは男らしくなったかなって思ったけど⋯⋯む〜、彼女と登校中にスマホとは感心しないな〜」
「わ、悪い。でも真海に連絡しとかないと⋯⋯」
スマホの画面、ALINEが彩華にも見えるようにスマホを持った。
「あ、そういえば登下校もずっと一緒なんだっけ⋯⋯」
なんだが彩華、すごく本当の恋人みたいな反応するなぁ⋯⋯
頬をふくらませて不満そうだが、流石に真海との事になると納得はしてくれた
⋯⋯う〜む
ALINEしようとは言ったものの、真海にどう送ればいいんだろうか
『彩華と登校する』は何だかあからさまだし、そもそも帰ってきてたの!?って反応する未来が見える
じゃあ『早めに起きれたから今日は1人で登校する』か⋯⋯?
いやいや、これも論外だ
俺は他人に起こされないと早めには目覚めない体質、今日だって予め彩華に起こしてもらった日だし、真海もその体質を理解してるはず⋯⋯
「くぅ〜!」
俺はスマホを持つ手で頭を大きく掻き、身悶えした
その横で俺を見ている彩華はふふっと口元を緩めていた
⋯⋯俺が初々し過ぎるのを見て楽しんでいるんだ
「ゆうくん、ここでは敢えて今日は1人で登校するってのはどうかな?」
反応を楽しんでいるのは分かっていた
ただ放置すれば今後にも関わるのでと、彩華は助け舟を出してくれた
「振られた翌日、その人と一緒には行きたくないって思うのが普通だし。変に事情を付け加えれば勘ぐられるかも知れないから、私は簡潔でいいと思うな」
⋯⋯考えてみればそれもそうか
俺からしても、真海からしても大いに納得の行く理由ではあるな
昨日の一件が起因してると真っ先に考えるはず
少なくとも俺ならそう考えるし、彩華の存在を知らない彩華からすれば、それ以外に考察材料はない
「よし、じゃあ⋯⋯」
スワイプ入力で、どんどんと文字を打ち込んでいく
彩華も俺が作る文を覗き込んでいる
『今日は一人で登校するから迎えは要らないよ。色々とありがとう、昨日は本当にごめんね』
こんな所だろう。変に気まずくなるから〜とか理由をつけるのも悪くはないが念の為⋯⋯
恐らく、真海とまともに連絡を取り合うのはこれが最後になると思う
それを見越しての謝罪だ
⋯⋯やっぱり俺の方から身を引くのも辛いが、今は彩華が居てくれる
彼女がいるうちに何とか今を乗り越えないと
〜送信
⋯⋯⋯
⋯⋯俺、遂に送っちゃったんだな
あぁまた涙、込み上げてきた
変に返事が来て考えるのも嫌だし、通知はオフにしておこう⋯⋯
「⋯⋯よく出来ました」
自分から真海と別れを告げて、俺は静かに涙を零した。
送信ボタンを押す俺の手は終始震えていた。真海との会話が⋯⋯嫌われているとは言えど幼馴染を自分から突き放すと言う事が、涙が出る程に辛いものであったから
鼻をすすりながらスマホの画面を閉じ、ポケットにしまう傍ら
「一緒に頑張ろうね」
彩華は俺の前に立ち、頬っぺにキスをしてくれた
⋯⋯精神的なダメージが大きいせいで昨日のような反応は出来なかったけど
そのキスは昨晩同様すごく柔らかく、心から安心させてくれる
胸を掻きむしるような焦燥感で過去と決別した俺は、重かった頭を上げて前を向き、彩華と一緒に俺達の学校へと向かう
────真海の本心を知る事が、俺の人生と価値観を大きく変える物であるとも知らずに。
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