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#40 後ろめたさ

 

 夏目さんの家からここまで徒歩10分程度

 遠い遠くないの捉え方は人にもよる。俺と彩華にとっては談笑するには適切な位置関係


 他愛もない話題で広がった会話で時間の経過すら忘れ、何となしに前方に顔を向ければ既に目的地


 コンビニの自動ドアが開いて、ふっと暖かい空気に包まれて暗闇から光ある場所に移動


 外の冷えた空気から一息つきながら、明るい店内に足を踏み入れると、棚の整った商品が静かに迎えられる


 雑貨などは必要としないため脇目も振らず菓子コーナーへ直行し、彩華も俺に追従


 〜


「チョコ、麩菓子、ガム⋯⋯ううん、なかなか多いな」


 バリエーションに富んだ菓子コーナーを目前にし、先程までのスピード感は瞬く間に消失


 指定された飲み物は当然として、そこから何を買っていくべきか悩ましい所

 何分商品の量が膨大で、かつ夏目さんや時雨の好みも把握していない


 予想としては、昼飯から何も口にしていないので小腹はすいてそうか

 となると晩御飯もあるし、そうなればお腹に膨れる物は避けたいな⋯⋯


「決まらねぇ⋯⋯」


 俺が差し入れの内容で小首を傾げる横で、彩華が突如としてひとつの菓子を指を指す


「あれとかどうかな?」


 ⋯⋯ん?


「バウムクーヘンか?」


「ケーキに近いし無難だと思うよ?時雨ちゃんは出会ったばかりだから分かんないけど、夏目ちゃんは甘い物好きだよ!」


 ふむふむ、確かに女性人気は間違いない。8個入りで配分も申し分無いな、雅俊の分は⋯⋯最悪、俺の分を分ければいいとして


 バイトをしてない小遣いで過ごす俺の懐はなかなか寂しいもので、見栄を張る余裕は無いからな⋯⋯


「そんじゃこれでいいか」


「うんうん、後は飲み物?確かレモンティーとジュースだったかな?」


「おう、時雨は曖昧な注文だからそこはセンスだな」


 差し入れの品が無事決まったので、彩華に連れられる形で飲み物コーナーへ移動


 彼女の背中を眺めていると、思い浮かぶ

 ⋯⋯何気に、2人きりで買い出しに赴くのは実に数年ぶり

 交際関係を築いて2人でまともに出かけるのは、このコンビニが初めてか⋯⋯


 事態が収束したらデートとかしてみたいもんだなと、心の中で不確かな理想を思い描いてしまった


 ⋯⋯初めての彼女、だからなぁ


「え〜と、これと⋯⋯う〜ん、時雨ちゃんの好物っぽいのかぁ」


 僅かな妄想をしていると、10秒とせずに冷蔵庫の並ぶドリンクコーナーに辿り着く


 到着から間髪入れずに指定された飲み物を、素早く俺の持つカゴに入れ始めた

 夏目さんのレモンティー、恐らく雅俊に渡すであろう男受けの良いサイダー、そして、俺がよく飲む烏龍茶⋯⋯


 その選択には一切躊躇がなく、唯一迷いを見せたとすれば⋯⋯時雨に渡す飲み物ぐらいか


「あの子は結構、歪な物が好きそうな印象だけどな。フルーツオレとかどうだ?」


「おぉ、ゆうくんらしい凄く当たり障りのないチョイス!」


「それって褒めてる?」


 感心したのか、驚いたのか形容しづらい表情で俺はそれがどちらの感情かを迷う

 口ぶりから考えて⋯⋯まぁ、褒めてはないだろうなと、九割方は察していた


「ふふっ、どうだろうね?まぁ、それも凄く女子受けが良いのは事実だよ」


 案の定、軽く遊ばれていたか⋯⋯


 話は戻るが、抽象的な注文だから悩むのは分かる。型破りでありそうな時雨の好物を当てたいと言う、彩華なりの遊び心


 このこは心の声として遠慮なく言わせてもらう


 時間が無いから早くしろっ!ってな


 何故かと言えば、流石に差し入れした直後に解散は避けたいからだ。まだ次の動きが定まってないのもあるし、時刻は既に19時⋯⋯


 夏目さんの両親が帰宅するのが22時で、そのタイムリミットが迫ってきている

 彩華には門限が特にないようだし、俺の方も深夜を回らなければ親も心配しない


 雅俊に関しては彼女である有紗から小言を言われるぐらいで問題は──



『────しゃあねえだろ?家に最寄りのコンビニには売ってなかったんだからよ〜』


『だからって私まで駆り出す必要はあったのかしら?寂しいなら言ってくれれば喜んでいくのに⋯⋯』


 常識がない、この場を弁えない大きな話声。それは嫌でも耳に入った


 折が悪いな、拓哉と真海⋯⋯


「ゆうくん、あの声って」


「ああ、夏目さんとお前の目の敵の2人組だ。くっそ、どうしたもんかな」


 2人の死角になるよう、商品棚の端に隠れ覗き込むようにして様子を伺う

 傍から見れば万引き犯にも見えるが、いちいち気にしてる暇は無い


 真海の家からは相当遠いこのコンビニ。そうなると、拓哉と行動していて何かの拍子に寄った感じか


 このコンビニは40坪サイズで、店内は3列に商品棚が並び、4列目に冷凍ケースがある程の大きさ

 標準的なサイズより小さく、隠れる場所が少ないせいで、大胆に動けば直ぐに鉢合わせてしまう


「あのバスケ部エース、本当に懲りないね⋯⋯夏目ちゃんの気も知らないで」


「軽い性根だから浮気に染まるんだろ。真海も何でアイツを好きになったんだか」


 商品が入った買い物カゴをそのままにする訳にも行かないし、商品を全て戻そうとすれば必ず姿は視認される


 2人が買い物を終えて店を出ていくまでの間、身を潜め続ける他ない

 ぶっちゃけこのまま相対してもいいんだが、真海に余計な事をべらべらと喋られてはこちらも都合が悪い⋯⋯


『それで言うと元カノの夏目の方は誘っても、生徒会が忙しいとか言い訳を添えて頑なに来てくれなかったからなぁ』


『ぷっ!拓哉くん、それは夏目って子に冷められてたんじゃなくて?』


『ハハッ、言われてみればそうかもな!まぁ正式に真海と付き合えた上、()()()()()()な女と別れられたと考えれば一石二鳥だけどよ』


 恥も外聞もなくイチャつきやがって⋯⋯

 ましてや夏目さんをヒステリックだなんだと陰口まで叩いて、真海に至っては俺の言葉⋯⋯まるで響いてねぇ


 あらかたそんな予想はしてたが、流石に陰口の対象が多岐に渡ってしまっては、流石の幼馴染でも諭す気が失せる


「⋯⋯⋯」


 彩華⋯⋯力が加わりすぎて手が震えてる

 眉を顰めるまでして、本当に激しく嫌悪してるんだな⋯⋯


「────私、我慢できないや」


「えっ?お、おい」


 彩華が何かを呟くと、そこから堂々と物陰から身を出した


「そこ、動いちゃダメだよ」


 感情に突き動かされたのか、依然と人目をはばからずイチャつく2人に向かっていってしまう


 ⋯⋯⋯


 胸を張った振る舞いで、後ろ姿から強烈な憎悪を肌身で感じ取り、止めようにも声をかけられず、俺は陰から彼女を見守り続ける


「────真海ちゃん」


 少しして、彩華が2人の後ろへ立ち止まる

 至近距離であるにも関わらず気配に気づかない2人に声をかけ、それに2人は反応


「ん?何だ?」


「⋯⋯っ!?」


 初対面である拓哉には知らない女性が声を掛けてきた状況。彼は彩華の顔を見て、片眉をあげる

 一方、真海は彩華の突然な登場に後ずさった


「真海?何だよこの可愛子ちゃん、知り合いか?」


「え、えぇちょっとね⋯⋯」


 拓哉に知られてはやましい事もあるような振る舞いで、取り乱して冷や汗を流し、真海が言葉を濁す


 拓哉もなかなか察しが悪い男か

 その取り乱し方にも追求せず彩華の顔をジロジロと見やがって⋯⋯早く離れろよ


「ねぇ真海ちゃん。たまには幼馴染同士水入らずで話さない?」


「嫌よ。あんたと話す事なんか⋯⋯」


「ん?!真海、お前の幼馴染なのか!じゃあついでによ、俺も混ぜてくれねえか?!」


 都合の悪い言葉は流れて行ってしまうと考えてしまう程に会話の内容を都合良く解釈し、彩華に言い寄り始める拓哉


 ⋯⋯水入らずって単語、拓哉には聞こえてねぇのか?


「ちょっと拓哉くん⋯⋯!」


 真海は下手に踏み込まれないよう拓哉を制止。そんな拓哉を、彩華は愛想笑いで軽く流し続けてるが、それは見るに堪えない


 なるほどな、下心丸出しで⋯⋯ありゃ屈指の浮気性

 あれを見ると余計、夏目さんと真海がアイツに惚れた道理が分からなくなる⋯⋯


「いいじゃんか!幼馴染ってんならその彼氏の俺も打ち解けなきゃならんだろ?」


 真海の制止も聞かず彩華に夢中

 美女に目がないのか目を輝かせ、舐め回すようにして彼女を見ている


「きゃっ?!」


 あろうことか、半ば無理矢理に彩華の腕を掴むまで至った

 ここまで言い寄られるとは思っていなかったのか、それに対して彩華が強く抵抗


 その甲斐あって彩華は拓哉の手から逃れる


「そんな嫌がらなくてもいいじゃんかよ?」


 彩華には動かないでと言われたけど⋯⋯手をこまねいて傍観すれば、拓哉が面倒な行動を起こしかねない


 そして何より、あの男に彩華が触れられる事に猛烈な嫌悪感に駆られ、直ぐさま買い物カゴを手に持ち、3人の場に移動────


「行くぞ、彩華」


「ゆ、ゆうくん?」


 拓哉と真海。2人には目もやらず、歩きながら彩華の腕を優しく掴んだ

 戸惑う彩華を強制的に連行する形でレジ前へ向かうも、それに逸早く反応したのは拓哉だ


「てんめっ、あん時はよくも⋯⋯!」


 俺の肩は拓哉の手に乱暴に掴まれた

 言葉も交わしたくない俺は腕を払うだけして、レジに買い物カゴを置く


 そして、その隣の真海が声にならないまま口だけを動かす

 表情に心做しか悔しさが垣間見えるも、興味が無くこの場を早く切り抜けたい俺は、それにも構わない


「シカトこいてんじゃねぇぞっ!」


 後ろで怒号を飛ばす男を見て、店員も喧嘩か何かかと対応に困っていたが、俺が一言、大丈夫ですと伝える事で、店員にはまごつきながらも会計を始めてもらった


「す、少し落ち着いてよ」


 夏目さんとのデートの時といい、コイツは人目を気にする気配が微塵もない


「拓哉くん、もういいって⋯⋯」


 ヒートアップし続ける拓哉を見かねて、流石の真海も人目を気にし始めた⋯⋯


 ようやく彼女(交際相手)らしい振る舞いを見せて、彼の腕を掴んではやめようと言葉をかけていた


「離せよ!真海もコイツに泣かされただろうが!」


「それとこれとは話が別よ。嬉しいけど、今は堪え──」


 耳障りのために、2人の会話内容は途中から聞き取る気が無くなる


 真海の彩華や拓哉に対する態度や物言い

 それは随分と挙動不審だった

 見た感じ、俺と彩華が絡んだ揉め事は総じて伏せてるっぽいな


 じゃなきゃ今みたいに拓哉を止めたりはしない。何か彼女にとって後ろめたい事がある表れと考えるのが筋


 コイツらと対面するのは真っ平御免だけど、偶然の産物で有用な情報が得られ、2人の関係を窺い知れたのは収穫


 真海と改めて話す良い機会ではあったな

 拓哉の存在が邪魔でそれ所じゃないけど⋯⋯


 どのみち家が目の前なんだし、話す機会は訪れるだろ。とにかく今はさっさと会計してこの2人とはおさらばと行きたい



お読み頂きありがとうございました!


既に2人の対立が明確になったので、これからは全登場人物を含めた学園編が始まります!デートなどがある、学園物を彩る一番の展開になります!

これまでは夏目がメインになりがちで、真海と彩華が二の次になっていた傾向がありますが、3人の関係が学園編で大きい展開を見せ始めます!


続きが気になる!面白い!など思ってくださればよろしければ評価、リアクション、感想やブックマークをいただけますとすごく励みになります!

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