#39 トラウマ
いつからだろうか、真海があんな高飛車になっちゃったのは⋯⋯
彩華が不在だった中学生の歳では凄く優しく、思いやりのある女性だった
八方美人と形容し毛嫌いする人もいたにはいたんだが、かつての真海の人柄の良さは類稀な物で、胸の奥から滲み出る包容力もあってか憎まれ口を叩く人は自然と居なくなった
⋯⋯だけど今はどうだろう、それこそ同級生に笑顔を振りまく八方美人なのではないか?
今になって深く考えれば、大きく変わり始めたのが高校生になってからだ
それでも変貌の要因は謎に包まれてる⋯⋯
彼女の身辺で彼女に影を落としてしまった出来事があったんじゃないかと俺は考えたが、所詮は憶測
彩華との対立に加え、度の過ぎた所業に及んでるから、これからも手心を加えたりするつもりはない
いずれにせよ彼女の真意は知りたい所存だ
ただ正直、煮え切らないんだよな⋯⋯
彼女の性格がどう言う理由で大きく変貌を遂げてしまったのか、彩華の過去を照らし合わせて色々調べ上げてみたい
仮にも幼馴染ではあるから⋯⋯
⋯⋯まぁ、それは収束が見え始めた頃にする話として、今は真海の行いに何か手を打つ必要がある
現在、彩華が提供してくれた時雨の情報をもとに対抗策が練られてる
新聞部の時雨と言う女の子を情報の媒介として、真海の流した捏造話の内容を軒並み正す方針
新聞部の影響力は凄まじく、情報においては生徒会にも勝る勢い
当初は厄介な人間に目をつけられたと考えたものの、時雨の存在のおかげで真海に対抗しうる磐石な備えが整ってきた
今は夏目さんの家に到着し、予定通りに夏目さんと彩華、そして俺と時雨の4人でリビングで作戦会議中
そしてあの時ボヤいた雅俊は案の定、蚊帳の外でスマホゲーム中⋯⋯
彼にはいざって時の人員。俺と一緒に男手として活躍してもらうとして、今後の動きを取り決めている
「はぁ⋯⋯」
夏目さんと時雨が新聞記事に掲載する内容について意見を出し合うその隣、ため息を吐く彩華がいた
先程まで屈託なくと振る舞っていた後の変わりよう、心配になった俺がどうしたんだと声をかける
「うん?いやぁね?友達から返信がまるっきり来なくって⋯⋯」
「学校終わりなんだし放課後遊んでるとか、そこら辺じゃねえのか?」
「それでも既読はしっかりとついてるんだよね。多分、噂の影響かなって」
「⋯⋯なるほどな」
真海の手回しが遂に彩華の友達にまで⋯⋯
立場を巧みに利用して、彩華を孤立させようとしてやがるな⋯⋯
カースト上位の真海の言葉を鵜呑みにした連中に訴えかけたところで、例え友達であっても効果は薄い
真海の表の顔による力も根強く、成績良好の真海の頭は俺達より優れているのが厄介
心理学についても流石で、人間は先に得た情報を信じる傾向があるのを完璧に理解してる⋯⋯
「真海ちゃんを白日のもとに晒すには犠牲が付き物だし、友達との関係が悪化するのは想定内だったんだけどね⋯⋯」
先程の不安や疲れから来る浅い溜息とは打って変わり、今度は心を静めるための深い息を吐く
「現状を前にするとやっぱり心に来るもんなんだな〜って感じちゃってね?この場に真実を知ってくれる人がいるだけで、全然気持ちの持ち方が違うって実感してさ」
「それ、俺が失恋した時と同じだな⋯⋯いわゆる心の拠り所って奴か?まぁ、いずれアイツの悪事は学校中に知れ渡るから張り詰め過ぎずに行こうぜ」
「そうだね⋯⋯ありがとう、ゆうくん」
俺はほんの僅かに微笑み、大丈夫だと軽く頷く
時雨の新聞記事を用いて、行ってきた物、これから起こすであろう様々な所業を暴露するのが最終目標
しかし相当数証拠も必要で、今直ぐに実行しても一時的な人気の落ちこそ狙えはするものの、望ましい成果は得られないと確信してる
そこで彩華が己の身を囮として使い、真海には存分に暴れてもらう⋯⋯
現在、呑気に作戦会議で手をこまねいてるのはそれが俺達の作戦に不可欠な狙いであるからだ
望む結果としては最上位カーストから引き摺り下ろし、ひいては権利を携える令嬢としての失脚⋯⋯目標は大きく高くだ
ちなみにそれと同時に夏目さんの拓哉への報復も付随して行われる
特に拓哉の浮気の暴露は真海に向けられる目もまるで違ったものになるし、当然拓哉の人気もガタ落ち
その為にはボロを出させるよう、根回しとして俺と夏目さんが交際関係を演じるって訳だ
逸らずに時間をかけて慎重に駒を進めてる
拓哉を確実にどん底に突き落とそうとする心意気、身にしみて伝わってくるよ⋯⋯
夏目さんの行動方針が慎重なので、俺達の現状は様子見と証拠集めのみと
行動の幅は非常に狭い
「え〜っと、そこで時雨さん⋯⋯真海ちゃんが流してる噂ってご存知です?」
会議は滞りなく進む中で、ふと気になる会話内容が耳に入り、2人の方へ顔を向けた
どうやら彩華もそれが耳に止まったようで、俺と行動が被る
彩華も時を同じくしてあちらへ向いていた
「愛月の噂っすか?愛月の噂なら⋯⋯確か〜」
何かがずらりと書かれたメモ帳、時雨はそれに捲っては目を通す
これは違うと、どんどんと後半のページに近づき、彼女はお目当ての物を見つけ出した
「えーっとすね、サヤッちが裕介を寝取った、生粋の尻軽で放課後に複数の男子の家に向かっている⋯⋯とかあるっすねぇ」
「それは⋯⋯全て真海ちゃんが流した噂なんですね?」
夏目さんが自身の耳を疑って、目を大きくしながら聞き返す
横聞きする俺も驚きを隠せない。洒落にならない悪質さ⋯⋯すげぇ徹底ぶりだな
それにしても寝取ったって⋯⋯俺と真海は付き合ってないぞ。お前から振ったってのに、どういう事だよ⋯⋯
「そうっすねぇ。サヤッちの前に本人を尾行したんで間違いないっす」
「⋯⋯⋯」
貞操を重んじる生徒会の会長として思う所があるのか、夏目さんが腕を組んで思案顔
その話を俺の横で聞く彩華も、曇りがかった表情は忽ちに悪化。
弱った所に追い打ちで吐き気を催し、俺の反対を向き、彼女は口を抑えた
⋯⋯復讐に凄く意気込んでいたとはいえ、やはり彩華も1人の女の子
特に友達を失うトラウマを思い出した現在、心は深刻に弱っていってるのが一見して分かる
得意じゃない女性に対する気遣い──俺は一度考え、数秒と立たず、この場から一旦離脱させようと思い至る
「夏目さん。ちょいと彩華とコンビニ行ってくるんですけど、何か飲みます?」
頭をひねる夏目さんに聞くと、彼女は虚をつかれてピクリと反応
直ぐに、はい?と返してきたので、俺は飲み物が何がいいかと再度伝える
「あ、じゃあレモンティーをお願いできますか?」
「了解です。時雨は何か飲むか?」
「あ、私はジュースであれば何でもオッケーっす!わざわざあざっすです!」
「はいよ〜」
⋯⋯雅俊は、別にいいか。
アイツ、場にいるだけで会話にはまともに参加してないし、気を使う意味は無い
「彩華、立てるか?肩貸すぞ」
俺は席を立ち、青ざめた顔色の彩華に寄り添うも、話を聞く余裕を失っていた彼女は困惑
「だ、大丈夫だよ?」
「⋯⋯いいから」
困惑しつつも、俺の肩に腕を乗せてくれた
彩華が立ち上がったのを確認すると、そのままリビングの出口へと向かう
見ると、彩華の目は虚ろに変わり果ててる
あれほど意欲的な姿勢を見せてたのに、俗に言うトラウマって奴か?
はぁ、全く⋯⋯
終始煮え切らない真海への感情、それは最初の無関心から時間が経ち、次第に怒りになりつつあった
〜
「⋯⋯ごめんね」
「いや、いいんだよ。お互い様だろ?」
彩華には満足に歩ける程の余裕は無いので、玄関の前の外階段で休ませた
⋯⋯外の空気を吸った途端、込み上げてきていたそれは喉にまで来たようで、彼女は近くの草むらに全てを戻しちまった
青くなった顔が多少マシになった気もする
メンタルの方は依然として宜しくない感じ
⋯⋯⋯
「こう2人で座ってると、あの時を思い出すよな」
「⋯⋯ゆうくんと再会した時のことだよね?」
物思いに浸って、暗闇となり星の綺麗な夜空を見上げる
⋯⋯俺が失恋したあの直後の出来事、思い返すと、あの時も似たような空をしてた気がする
「そうそう。真海に振られた時、今みたく二人で隣り合わせに座っただろ?」
「⋯⋯今は立場が逆転してるけど、確かに落ち込む1人と慰める1人⋯⋯すっごく似てる」
「まぁな。こう、逆側になってみて落ち込むお前を見ると少し自信が湧いてくるよ」
少し、いや⋯⋯男として大それた発言
相手が彩華であるから、それは気遣わずに口にする
「えっ、なんで?」
彩華が落ち込む姿を見て何故に自信が湧くのか疑問の様子
俺の横顔を見て、首を斜めにしていた
「活力満々で俺をからかうお前でも、こうして大きく気落ちするんだなって思っちまったんだ。昔じゃ、俺が殆ど泣いてた側だったから余計な」
「⋯⋯ふふっ、え〜なにそれ?」
彩華にとって、俺の発言がどう言った捉え方をするものなのかは分からない
しかし楽しそうに笑ってくれてる様子から、不快な思いはしていないようだ⋯⋯
それだけに留まらず、元気を失っていたのも忘れるように俺の頬をつつき始める
「もっと私に落ち込めって言うのか〜?」
「ちげえって!見てたらそう思っただけだってのっ」
⋯⋯とりあえずよかった、体調の方もすっかり良くなってきてる
青ざめていた顔も、まだ完全とは言えずも治りかけてはいるし、常日頃みたく笑みを零してくれた
からかわれるのは好きじゃないが、それで元気を確認できるならされたっていい
「ほんとかなぁ〜」
うん、空元気の様子も無さそうだ
「────さて、そろそろ立てるか?」
念の為、笑顔を確認できた瞬間から少し間を置いてから起立
顔色が完全に戻った彩華に、以前にやった要領で手を差し伸べる
その手を見るや否や、握ろうとするが、彩華が踏み止まる
彩華が自身の手が汚れていないのを念入りに見て、そこから手を握り、元気に勢い良く腰を上げた
⋯⋯どうやら、さっき口を抑えた際に使った右手は使いたくなかったようだ
「ふふっ、ありがと。ねぇねぇ、このまま戻るのもなんだし、少し繋ぎながら散歩しない?」
「おういいぞ。とはいえ抜け出す口実としてコンビニへ行くと言ったから、するとしたらそれがてらだな」
付き合って間も無い俺と彩華
あまり公然でカップルのような動きを見せてしまうと、夏目さんとの計画が台無しになってしまう⋯⋯
だが、今日ばかりは彩華の言う通りにしてあげたかった俺は、その場で周りの目がないかしっかりと目を配り、繋ぎ方を恋人繋ぎへと改める
「⋯⋯ゆうくんの手、温かいな」
手の繋ぎ方が変わると、彼女の顔も変わる
青ざめた顔は治るを通り越し、ほんのりと赤くなった⋯⋯
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