#37 拗れていく歪んだ感情
※今回は真海視点で、心情を大きく描写する為に動作などの細かな要素は省いております。
また、後書きにて作者による真海の感情について軽く説明があります。
今回は感情面を強く描いたためなので、苦手な方はスキップいただいても大丈夫です!
裕介を奪った忌々しい女の印象を悪くする為なら、どんな手だって使ってやる
私の手から裕介を奪う愚挙は自分の身を滅ぼすというのが、過去の経験から全くもって学べてないようね⋯⋯
私を怒らせたらどうなるか、これからじわじわと思い知らせてあげる
せいぜい今は短い時をエンジョイしていなさい。
ふふっ、やがて訪れる崩壊の瞬間が待ち遠しくて仕方がない⋯⋯あの女の傷ついた表情が見たくて堪らないわ
大体、裕介も裕介よね
1度振られた如きでメソメソしちゃったりして、陰口に関しても拓哉くんとの体裁を保つ冗談として捉えることも出来ないのかしら
そういう情けない所が放っておけないのだけれど、裕介の貞操がありすぎる性格も少し考え物ね
まぁ、私を裏切った報いは受けてもらわないと示しがつかないわ
────あまり彼を巻き込みたくない
けれどあの女と交際を始めたってんなら、話は別⋯⋯容赦はしないわよ
今日の昼休みだって私に隠れて何かしていたようだし、そっちがその気なら受けて立つ
⋯⋯最終的には、絶望し切った彼のもとに見捨てたはずの幼馴染が救いの手を差し伸べてくる────
裕介を再度惚れ込ませるには、いいプランじゃない。我ながら自分の頭脳には惚れ惚れしちゃう
さぁて、ある程度あの女の悪い噂は流し終わったし、気晴らしに拓哉くんの家にでも行こうかしら
〜
「拓哉く〜ん、帰ってるかしら?」
私の家から3キロほど離れた拓哉くんの家
日は暮れ始め⋯⋯
あたりがゆっくりとオレンジ色に染まる中、無骨な民家がぽつんと立っている
風雨にさらされた木壁は色あせ、角ばった輪郭が夕焼けの中にはっきりと浮かぶ
小さな窓からこぼれるわずかな灯りだけが、 そこに人の気配を伝えていたわ
飾り気はなく、ただ静かに夕焼けを受け入れている、そんな佇まい
その玄関から、私の呼び声に応じて拓哉くんが顔を出す
「⋯⋯んだ、お前か」
「何だとは何よ?」
私との間には笑顔が絶えなかった拓哉くん
しかし今日はどうしたのかしら?彼は見るに凄く暗く、私の顔を見るや否や落胆の顔
「なんでもね。んで藪から棒にどうしたんだよ、今日は会う予定なかっただろ?」
「愛しの彼女が顔を見せに来て上げたのに酷いわね?突然来ちゃ悪いのかしら?」
「⋯⋯まぁ特段することねぇし、そこまで言うなら家に上がってくれても構わんぞ?」
「じゃあ遠慮なく上がらせてもらうわ」
ふぅん、この様子じゃ何かあったわね
直ぐに明かさない──加えて私の顔を見て動揺もしない所から、私には無関係なようね⋯⋯ま、心底どうでもいいけれど
あぁ、拓哉くんは勿論好きよ。対してその周りの連中は、私と反りが合わないってだけで⋯⋯
バスケ部の部員、元カノの春原夏目⋯⋯全部が全部、私と釣り合いが取れない存在
魅力溢れる拓哉くんならまだしも、低俗な人間とは関わりたくない
裕介も彼のようになればいいのに⋯⋯そうすれば直ぐにでも拓哉くんと別れて付き合ってあげてもいいのに、勿体ないわ
靴を脱いで玄関を上がり、そのまま拓哉くんと一緒にリビングに移動
制服のスカートを正し、座布団の上に正座
それを見る拓哉くんは相反して腰を下ろさず、リビング入口の壁によしかかる
⋯⋯裕介に会うのも色々憂鬱だし、今日は大人しくしておこうかしら
「今日は1人なのね。なら泊まりでも問題ないわよね?」
頬杖をつき、もう片手の爪先を使いテーブルで音を立てる
「おぅ、急すぎるが構わねぇぞ。となると、アレでも買いにいっちょコンビニ行かねぇとな」
鬱憤晴らしに、愚痴に愚痴を重ねたかった私は宿泊を提案⋯⋯あと、裕介とも今はあまり顔を合わせたくない
提案と同時に拓哉くんの雲がかっていた表情が僅かながら晴れた感じ
突拍子もない事で多少は困惑されるかと思っていたけれど、思いの外と彼は私と一緒にいたい様子
一宿一飯の恩義とも言うし、話ぐらいなら聞いてあげようかしら⋯⋯
二人でコンビニに行くがてら、お互いの心情を打ち明け合う。ええ、いい機会じゃない
ちょうど、あの女へのやり場のない怒りをどこにぶつけようか迷っていた所だし
「コンビニ⋯⋯それならカップルらしく二人で行く?」
「わり、今はそんな気分じゃねえ。すぐ戻るからくつろいでてくれや」
あら、いつもなら喜んで隣を歩く拓哉くんにしては珍しい⋯⋯
拒絶されたのは癪だけれど、今後の動きも考えなきゃならないし、それもありね
不満の吐露は夜にもできるし、後に回ったと考えればいいかしら
「分かった。じゃあ大人しく待ってるとするわよ」
「おうよ、ちょっくらいってくるわ」
やがて壁にもたれかかっていた拓哉くんは返事の後にリビングを後にした
静かとなっていたリビングに、玄関の扉が開いては閉まる音が響く
「⋯⋯さぁてと」
その玄関の奥で、私は優雅な1人のひとときを過ごせると心躍らす
⋯⋯これから雪辱を果たす手立てを講じる喜び──それを噛み締めて口角を上げる
カバンから3人の集合写真を取り出し、油性の黒いネームペンも同時に手に強く握る
続けざまに、あの女の顔に大きくバツ印を加えた
「ふふっ、私の持つ権力全てを以って絶望を送ってあげる⋯⋯」
まずは外堀を埋めるため、この女の持ちうる友人との関係を崩壊させる⋯⋯
彼女にとって何気に一番深い傷を負わせるんじゃないかしら?
あの女の息がかかった人間には、陰口を言っていただの適当な事を喋りに喋りまくって信用させた。今や私の掌の上
今頃、あの子の友人関係はボロボロでしょうね⋯⋯
けれどこれで終わる私じゃない。次なる一手を考えないと気が収まらないのは、強い怒りが未だ滾っているから
「ううん、もっと悪い噂が広がればいいのだけれど⋯⋯」
────新聞部にあの女のデマを伝えて、悪評をより強固のものに?
いえ、ダメね⋯⋯あそこはリテラシーがきちんとしているから事実確認されれば、私の方が一巻の終わり
「⋯⋯悩ましいわ」
難儀を前に、持っていたネームペンを手遊びにクルクルと回して思案
あの女の絶望顔を想像すると、難しい物も軒並み楽しく思えるから思考も効率良く進む
娯楽は一瞬で終わらせては勿体ないし、段階的に絶望を送りたいのよね⋯⋯
拓哉くん達を差し向けるのは最後のお楽しみに取っておくとして、軽く精神をそげる物が望ましい
⋯⋯⋯
────そうだわ!
裏を返せば私は裕介を奪われた被害者よ
そして、裕介と私の関係はあの女の物より遥かに長い⋯⋯
そうよ、私と裕介は常に一緒だった。他の人から見れば、それはカップルとも見紛う程なのよ
そうなると、学校内の信頼度で言えば未だ私が彼女の遠い上を行くはず⋯⋯
私が先んじて被害者として立場を確立すれば、あの女の戯言をその場凌ぎの嘘と思って信用する人間なんていなくなるわ
あの女が私の物に手を出して奪ったと伝われば、ふふっ⋯⋯私でも考えられない壮絶ないじめが起こる事間違いなし
こういう事は明日にでも始めたい所だけど、一生に一度味わえるかどうかの至福のひととき
長く、じっくりと楽しまなきゃね
最後のデザートは拓哉くん達に協力してもらい、女性としての尊厳を奪う事⋯⋯
私の頼みとあらば彼は喜んで動いてくれる
⋯⋯裕介、貴方が私よりあの女 と一緒に生きる道を選んだせいで、貴方の大好きなあの子がどん底へ堕ちていくのよ
それに気がつけるのはいつになるかしら⋯⋯
ふふっ、でもそんな鈍感な裕介でも私は優しく助けてあげる⋯⋯だって、私と貴方は離れちゃいけない──
────家族なんだから
真海の裕介に向ける思いは、行き過ぎた家族愛と形容する方がいらっしゃいましたがあながち間違いではないです。
真海自身、これは間違った行いとは一切思っておらず、彩華と交際を始めた裕介、そして警告を無視した彩華が全面的に悪いと考えています。
しかしその一方で家族愛であるのにも関わらず、裕介の恋愛を完全拒否、独占欲から引き剥がそうとする歪んだ感情⋯⋯
それは、これまでの裕介の真海への執着、そして男とは思えない異常な情けなさが、真海をここまで酷くさせたのかもしれません。
物語終盤に真海、裕介の過去編も掲載予定です。
お読み頂きありがとうございました!
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