#36 新たな協力者
真海の徹底的な監視は昼休みから6限にかけて長々と続いた
授業の合間に至っても休憩肩の力を抜いて彩華と言葉を交わせない窮屈さに、俺は微妙な苛立ちを覚えた⋯⋯
ちなみに雅俊に打ち明け話をする許可は無事頂けて、現在は彩華や夏目さんと一緒に校門前で待機中
雅俊を間延びしながら待つ途中、彩華は真海の監視に延々とぼやき続けていた
ねちっこいだの告白を振っておいて未練がましい⋯⋯など、学校内の爽やかで明るく振る舞う彩華からは予想できない多種多様な罵詈雑言
夏目さんは悪口の向けられる相手が拓哉の浮気相手である事が起因してか、窘めず、まさかの同調⋯⋯
そして問題の雅俊⋯⋯彼女のもとを訪れてからすぐ向かうとALINEで伝えてきたものの、一向に現れず、俺達は30分もの間、生徒達の目に晒され続けていた
「遅いですねぇ、雅俊くん⋯⋯」
「アイツのことです。どうせまた彼女と一緒に道草食ってるんでしょうよ」
夏目さんがスマホで時間を確認して、深い息を吐き出す
ため息をつくのも当然と言えば当然。待つだけならまだしも、道行く生徒達全員の目に留まるのは、如何せん気分がいいものとは言えない
⋯⋯真海の吹聴の影響だろう
俺と彩華の姿を見てコソコソ話を広げる女子が多数
今でもなお、そういう目障りな連中が校門の前でたむろしている
「⋯⋯そろそろ不愉快ですね。2人とも、ちょっと前、いいですか?」
溜め息後、夏目さんは鞄をその場に置いてから俺達の前に立つ
「え?な、夏目ちゃん?」
彩華はそれを歯牙にもかけていないが、見かねた夏目さんが彼女らに圧をかけ、自ら抑止力になった
何か文句でもあるのかと、腕を組んだ堂々とした佇まいで連中に対して主張
「────私達に何か?」
流石は生徒会の重鎮──
「春原会長じゃんやばいって⋯⋯」
「いこいこっ」
ヒソヒソと陰口を言ってるであろう女子達はなりふり構わず、慌てて帰宅路へついていく
俺と彩華は、佇む夏目さんを遠目で見て呆然と立ち尽くす⋯⋯
陰湿そうな女子達を一瞬にして退けるその存在感たるや、まさに荘厳
「さてと、これで心置き無く待てますね」
間を置かず、校門付近の壁によしかかる
気を張って直ぐ疲れたような様子を見せた
このように身分をひけらかすような事、夏目さんの性格からはまず考えられないので、俺達を助ける為に行動してくれたんだと確信
⋯⋯地位や立場に大きな差はあれど、真海とは大違いだな
「────わりぃわりい〜!遅れちまった」
何やかんやで、次々と変化を見せる状況
雅俊は玄関から出ると、こちらに声を上げて手を振った
駆け足で来ようともせず、へらへらとして悪びれる気配も見せない⋯⋯
「⋯⋯おい?」
流石の俺も申し訳が立たないので、近くに来た雅俊の頭を軽く鷲掴み
「んあ!?」
何すんだという表情で俺に訴えかけてくるが、対して俺は険悪な顔で、顎を使って謝罪しろと示唆
雅俊と出会って間もない彩華の表情は至って真顔⋯⋯
一方の雅俊と交流のある夏目さんは少し眉間に皺を寄せる
それに強烈な圧力を感じた雅俊⋯⋯
やべっと顔を変え、直ぐさま頭を下げた
「ホントーに悪かった!」
それに反応して、彩華は両手の平を見せて大丈夫だよとジェスチャー。間髪入れず隣の夏目さんが下がっていた雅俊の頭を優しく平手打ち
「全く、少しは人の気持ちを考えてくださいね」
「は、はい⋯⋯面目ないです⋯⋯」
女性の尻に敷かれるのは雅俊の宿命か
恋人にも、夏目さんにも頭は上がらない
⋯⋯俺達が仲のいい女性陣は皆何かと気が強い。頼もしさで言えばこの上ないな
「さ、いい加減陰口にも言われ飽きてきましたし、行きましょっか」
どうやら夏目さんは雅俊を軽い平手打ち一発で許したようで、理由を言及せず、いの一番に家路に足を置く
彩華は夏目さんと足並みを揃えたと同時に、振り返る俺に早く早くと手招き
それと並行して、校門横で立ち尽くす雅俊が俺に耳打ち
「⋯⋯裕介、お前いつの間に桜木さんとここまで仲良くなったんだよ」
雅俊の質問は二つ
畳み掛けるように行われる
「それに春原ちゃんが言ってた陰口って一体何のことだ?彼女、女子の間でも校内一位を争う人気だろ?」
さっきの悪びれない様子もあって、それを鬱陶しく思った俺は変に答えず、瞬時に雅俊の腕を掴んだ
「行くぞ」
「ちょ!?おめ、なにすんだっ」
こうして呑気に話してる時も2人は動き続けてる。更に歩を遅らせては悪いと考え、2人の元へ駆け寄る
彩華は横並びになった途端にこちらへ向き、安心したように軽く口角を上げた
彼女持ちにも関わらず、それに雅俊は頬を染める
毎度思うが、お前の恋人である《一ノ瀬有紗》から若干束縛を受ける理由、分かってんのかよ⋯⋯
「後で諸々説明するからお前は少し大人しくしてろ⋯⋯」
「は、はい」
肘でつつき睨むようにしてそれを咎める俺。正直に言うと若干の嫉妬心を抱いた⋯⋯
知らないとは分かりつつも、実際に今は彩華が俺の彼女⋯⋯
多分、悪戯好きな彩華は俺が嫉妬すると分かっていて雅俊に微笑んだんだろう
まぁ、だからと言って雅俊相手に感情の制御はしないんだがな⋯⋯
「────それじゃ夏目ちゃん、雅俊くんにどこから説明しよっか?」
程なくすると、彩華が例の話を展開
夏目さんが数秒と腕を組んで首を傾げ、答えを出す
「いっそ包み隠さず全部言っちゃいましょう。チラチラと私を見てくる程に、気になるようですし」
4人の間に、何とも言えない若干の静寂が流れる
感の鋭い夏目さんに気づかれた事で、冷や汗を流してこめかみを掻く雅俊
「⋯⋯まじ、すんません」
雅俊に限ってそれはないのだが、傍から見れば夏目さんに恋心を抱く男子だ
多少の美人では動揺しない雅俊も、夏目さんと彩華の美貌の前では男の面が反応する様子
「あ、あはは⋯⋯」
彩華が愛想笑いで和ませようとするも、空気は一向に良くならず⋯⋯
「まぁ雅俊くんにはいずれ話そうと思ってましたし、もうそれはいいんです」
大きく息を吸って、吐き出す夏目さん
意気込んだような表情を浮かべ、口を開ける
「私、少し前に彼氏に浮気されまして⋯⋯」
「──え!?」
何気ない告白に雅俊は大声を上げ、驚愕
俺と彩華は人差し指を口の前に置いて、その大声を止めさせた
「驚くのは百も承知です。でも、肝心なのはここからですよ」
夏目さんは咄嗟に俺に向け、彼に伝えてもいいかと目配せせする
それに無言で頭を頷かせ、許可を出す
「その浮気相手────あの愛月真海なんです、雅俊くんなら真海ちゃんを知っていますよね」
真海の名が上がると、やはり心配の先は俺の方に向かう⋯⋯雅俊は神妙な面持ち
「裕介、おま⋯⋯だから悩んでたのか?」
そうだ、雅俊からすれば、俺は依然として真海に想いを寄せている扱いだったな⋯⋯
「んいや、ちょっと違う。俺が悩んでいたのは真海との恋愛じゃなくて、真海の行動なんだ」
「⋯⋯行動?」
全てを話せば日が暮れる、掻い摘んで話そうと考えた俺は、頭の中でこれまでの出来事を整理
要点だけを伝えようと喋ろうとすると、俺よりも少し先に彩華が言葉を発する
「順を追って私から説明するね。とりあえず前提として、私と小鳥遊くん⋯⋯ゆうくんは真海ちゃんと同じ幼馴染なの」
「⋯⋯あ〜、だから仲がいいのか」
思いの外、今度は驚かない
惚けるように口を開けて、これまでの会話が繋がったと納得
「ま、そういうことなんだ⋯⋯」
1、2年の頃だったか、真海の話で盛り上がってる時に2人目の存在はそれとなく教えたんもんで、彩華の存在自体は認知していた⋯⋯
とはいえ、幼馴染と失恋したから話題に上がることが無くなって、少しなあなあになっていた部分が強いからか、そんな話は一切しなくなっちまったけど⋯⋯
⋯⋯打ち明けた話はまだ序章
前提でもなかなかな情報量だが、問題はここからで、雅俊にとって衝撃の事実を、彩華は続くようにして真海の悪行含め、全てを開示して言った
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