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#33 対面

 

 夏目さんと拓哉、2人が合流を果たしてから数時間が経過


 夏目さんと拓哉はグッズ売り場、洋服屋、書店やゲームセンターなど、ショッピングモール内を転々とし、一見して仲睦まじいデートのひとときを過ごしていた


 達者な演技は俺達すら見紛う高度さ。上手く拓哉の機嫌を損ねないよう、見事な立ち回り


 そのため、特に二人の間で大きな問題や気になる発言等も見られず、俺達は出番の気配すら現れぬまま、順調の一途を辿っている


 今しがたカフェに入店した夏目さんと上機嫌の拓哉

 ショッピングモールで展開される一回り小さなカフェなので基本、通路側はガラス張り

 彼らは入口から一番近い席に座っている


 カフェ内に潜入を提案したが、会話に耳を立てるべく張り込みしようにも、内部は狭くて不向き⋯⋯


 なので、発見のリスクを考えた俺と彩華は、向かい側の洋服屋から監視を続けることにした


「(恥ずかしい⋯⋯)」


 なんだが、身を潜めたここは女性物限定の洋服屋⋯⋯度々周囲から冷たい視線を送られて、顔から火が出そうで仕方がない


 角度的に満足に監視を続けられる場所がここだけってのが何とも⋯⋯


 店内に溶け込もうと、カップルらしく振る舞う。その一環として洋服を見て気を紛らわすこともした

 ⋯⋯チラチラと、きちんと動向を見守りながらな


「んねんね、これ、私に似合うと思う?」


 洋服店から出たいと思う俺に構わず、彩華は洋服を選別して、洋服店を満喫

 ここはちょっとした高級店で、高校生の俺達が入店する機会は滅多にない

 雰囲気も、言い表すなら大人の洋服店で品揃えもそれに近い


 だが、この機会を逃すまいと本来の目的を忘れているのかと思わんばかりに、彼女は洋服選びに躍起⋯⋯

 監視は俺が続ければいいから全くの支障はないけど⋯⋯


「黒色のワンピースか⋯⋯う〜ん、お前には白が似合うと思うぞ」


 そんな中で、彼女が提示してきたのは丈の長い白い花柄の黒ワンピース

 こんな状況は滅多にないので忖度抜きで言うと、彩華は昔から無邪気な一面が強い

 従って、大人びた黒い服はあまり彼女のイメージにはそぐわないんだよな


 この場合、大人の雰囲気を漂わせる夏目さんに着れば似合いそうだ


「そうかなぁ?なら、ゆうくんの好みな色のワンピースも探して来るねっ!」


 もはや目的が洋服選びかと目を疑う程度のテンションで、彼女は再び急ぎ足で店舗奥へ入り込む


「あまり奥に行き過ぎるなよ〜」


 付近であるならば自由行動とはいえ、二人の動向を念頭に置いての行動が必要だ

 店舗奥では素早く動けないので、俺は彼女に注意を促しておく


「分かってるよ〜!」


 順調なデートのおかげで出番の訪れない俺らの方も、拓哉が俺達監視組の視界に入る範囲内であれば好きに動ける

 首尾よくデートが進み、拓哉の気分が上々の今は特に気休めができる


 油断は禁物。しっかり気は張ってるが、対して彩華の方は完全にオフモード。それもカップルのデート中みたいだ


 警戒心が薄すぎると感じる一方、そんな彼女の純粋な姿を久々に見れて、やっぱり可愛いなと、笑みを零す自分

 今度はどんな服を見せてくれるのかななんて、ちょっとした期待も持ってさえいた


「やべっ、集中集中」


 待機中、気を緩めすぎていたとハッとする

 直ぐに今度は意識を彩華から拓哉達へと変更


「(⋯⋯何話してんだろ?)」


 何か二人で話してる最中か

 それも顔を見る限りは真剣な話っぽい⋯⋯上機嫌だった拓哉の表情も、気がつけば心做しか曇りがかったものに⋯⋯


 それな、程なくして、藪から棒に拓哉が力強く立ち上がった


 事態が急変したと考え、触っていた洋服の値札から目を離し、身体をカフェ側の道に向ける


 ⋯⋯拓哉、なんだか怒ってやがるな

 流石にカフェ内だから手荒な真似には出ないと思うけど、こりゃ少しまずいか?


「おい彩華っ」


 奥の方の彩華を呼ぶと、彼女がこちらへ振り向く

 気づいた彼女に無言で手招きした後、カフェの方へ指を差して状況を示す


 察した彼女は、手に持っていた白柄のワンピースを戻し、駆け寄ってきた


「⋯⋯んもう、タイミングが悪い男だなぁ」


 楽しみを潰され、少し不満気


「勘づかれないよう、こっそり近づこう。会話内容が聞ければいいから隣の⋯⋯あのコンビニに行くか」


 幸い、2人の座る位置は出入口からも遠くなく、聞き耳を立てれば会話を聞ける程の距離

 それも多分、夏目さんの計らいのひとつだ


 左側のブリッジから向こう側に回れば、拓哉の視界に一切映らず定位置につける


「少し走るぞ」


 彩華の手を握り、彼女がそれを握り返した折に駆け足で洋服屋を飛び出した

 ⋯⋯その時の両方から出た若干の頬の赤みは、俺と彩華共に見て見ぬふり


 ブリッジを渡り終え、まもなくして隣のコンビニに到着

 拓哉の死角に隠れて、そこから2人の会話に耳を澄ました



『────なんでだよ!』



 場所も憚らず、カフェ内で拓哉は周囲に響き渡る怒号を飛ばしていた

 店員の制止する声や、他の客がひそひそと話すことで店内は騒然


『今日のデートがつまらなかったのか!?おい、せめて納得の行く説明しろ!』


 強い口調で夏目さんを問い詰める怒声が、隣のコンビニにまで行き届く


『⋯⋯黙ってねえで何とか言えってんだよ!俺にこれ以上恥をかかせるんじゃねぇ!』


 夏目さんはそれに対して返答せず、無言⋯⋯

 表情は死角で見えないから次の行動は読めない


 困った事に話の全体像が掴めない。拓哉の異様な口調の荒さで考えると、考えられるのは⋯⋯やはり別れ話か?

 う〜ん、でも予定じゃデートの締めにケリをつけるんだったよな⋯⋯



「ゆうくん、夏目ちゃんから⋯⋯」



 耳をそばだてながら考え込む俺の横で、彩華が声をかけてきた

 見せられたそれに顔を向けると、そこには夏目と彩華の会話内容の乗ったALINEがあり、画面を見せられる


 見ると、夏目さんから謝罪と一緒に限界を迎えてしまった旨を伝えるメッセージが送られてきていた


 《ごめんなさい、助けて欲しいです》



「⋯⋯アイツ、なかなか荒っぽいし俺が行ってくるわ」


 自分たちがこっそり楽しんでいた陰で夏目さんが苦汁を嘗めていたと気づき、強く自分を責めずにはいられなかった


 すぐに仲裁に入り、一刻も早く彼のしつこい魔の手から解放してあげたい

 その揺るぎない一心で、身を潜めていたコンビニから身を乗り出す



「──待って」



 突如、それを腕を掴むようにして阻む彩華

 身体が引っ張られ、その場でよろめく


 そこで彼女は頑張ってねと一言、向かおうとした俺を鼓舞してくれた


 五十嵐拓哉は、俺から言わせれば幼馴染である真海を奪った人物⋯⋯

 その男と正面から相対する──眉頭を上げる彩華は、因縁の相手との対面に俺の精神を案じたのだろう


「⋯⋯おう」


 女性を助ける場面⋯⋯俺自身、初めてだ

 念入りに計画を練ったと言えど、実際に前にしてみると足がすくんでしまう

 ⋯⋯俺が男として情けないのは、こういう面が感情や身体に強く出るからなのは自覚してるつもりだ


 大丈夫、深呼吸⋯⋯

 手筈通りにやれば問題ない


 派手な殴り合いに発展する可能性はゼロに等しい。相手の圧に気後れしなければいいだけの話


 偽彼氏として夏目さんの隣に立つのは、計画では拓哉と別れて数日後⋯⋯

 今日は一人の友達として振る舞わないと


 ────そっと腕を離してくれた彩華を尻目に、今度こそコンビニから身を乗り出す


 そのまま勢いに乗り、駆けつけるように、騒がしいカフェの店内に入り込んでは因縁の相手が怒る現地に己の足を立たせた


「「⋯⋯??」」


 夏目さんと拓哉、そして周辺の人達の注意全てが俺に向く中、それを気にも留めずに口を開けた



「やめろよ、嫌がってるだろ?」



 拓哉は予想外すぎる人物の登場、そして乱入に呆気に取られ、ぽかんと硬直

 口裏を合わせている夏目さんは演技を切らさず、まるで何も知らないかの如く、大きく驚いた表情を見せた



お読み頂きありがとうございました!


話は変わりますが、年末までに夏目と彩華の出会い、浮気までを描いた番外編を公開予定です!

現在は夏目がメインヒロインの場を食っている節がありますので、メインヒロインの押し出しと彼女の展開を増やしたいと考えております。


改めて、お読みになってくださりありがとうございました!


続きが気になる!面白い!など思ってくださればよろしければ評価、リアクション、感想やブックマークをいただけますとすごく励みになります!

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