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#32 デート開始


登場人物が多い為、2人組の時は鉤括弧を分けています。

・彩華と裕介▶通常通り

・拓哉と夏目▶二重鉤括弧


 

 真海の件は一旦保留。今にでも問い詰めたいところだが、目前となった拓哉への制裁に今は集中する⋯⋯そう彩華と話し合った


 そして3人の相談は、無事に時間内で終わり、脳内には想定の範囲内ならば柔軟に対応できる手引きシートなる物が完成

 よほどの事がない限り、その時その時に適切な対処が出来るはず

 

「そろそろ刻限です。拓哉も到着する頃ですから、私は先んじて待ち合わせ場所に向かいますね」


 現在、勘定を済ませ今はファミレスの前で夏目さんを見送る所

時刻は11時25分、夏目さんの拓哉との合流は11時半の予定だ


「────頑張ってね、夏目ちゃん」


 俺含め、2人は真剣な表情

 遂に訪れた、決行の時


 万が一、人気のない場所に連れ込まれそうになった時は、未然に2人の前に介入

 警察も手段の内だったが、それだけでは十分な復讐にならないと、手の施しようがない場合の最終的な策に


 身に危険が及びそうになれば、そこは俺の出番

 穏便に済みそうならば彩華が、事情を知らない友達を演じて帰宅を促す⋯⋯


「俺達は物陰から見守ってますから安心して臨んでください」


「最悪の場合、拓哉には顔が知られてない私も割って入るね」


 夏目さんはこういう正念場でも仕草の端々は整っていて、妙な緊張感を感じさせない

 そこから、軽く頭を垂れて俺達に背中を向ける


 振り向いた後の後ろ姿は、髪がなびき華麗


 それに加え、事情を知る俺達にしか見えない、静かな強い怒りを背中からひしひしと感じさせる⋯⋯


「私達も準備につこっか」


「鉢合わせたら面倒だし、急ぐか」


 デートの舞台は広大なショッピングモール

 通路がどこまでも続いているように広く、見失いづらい外よりも作戦に最適の場所


 ガラスのショーウィンドウが並び、広場の中央ではエスカレーターが静かに上下。

 カフェの香りや店舗の音楽が混ざり合い、人々の足音がゆったりと響く


 人混みに紛れやすいと言う懸念点もあるが、そこは夏目さんの服装が補ってくれる

 ショッピングモールの中でも、特に異彩を放つ彼女の麗姿は、道行く人々の目を釘付けにする


「時間だ。そろそろ拓哉の姿が見えるはず⋯⋯」


 待ち合わせ場所は、ショッピングモール中央の吹き抜け広場。そこに設置された大きくそびえ立つデコレーションツリーの前


 広場は開けた場所なので、俺達はファミレスから出た直ぐの柱の前で身を潜めている

 ここならば会話内容も届くし、顔を出し続けなければ気づかれる心配もない


「ゆうくん、多分あれ⋯⋯」

「ん?」


 俺の肩がトントンと叩かれると、夏目さんの更に奥を指を差す

 細目で拓哉の姿を探すと、それと思われるガタイの良い1人の男性を目にする


 ⋯⋯やっぱりか。あの男は真海と話した際に俺に絡んできた彼氏と同一人物⋯⋯五十嵐拓哉だ


「アイツ、なかなか張り切ってるな⋯⋯」


「久々のデートって言ってたしねぇ。髪までセットしちゃって、あんなのを1度でも好きになった夏目ちゃんの気が知れないや⋯⋯」


「⋯⋯それは真海にも言える事だな」


 それが拓哉と見るや否や、若干の引いた雰囲気を匂わせ、顔が引き攣る

 1度遭遇していた俺は、大した反応が出来なかったが⋯⋯確かにチャラい印象は根強い


 その服装ってのが、黒いパーカーの上に薄手のナイロンジャケットを重ねて、下半身はダメージの入ったデニム

 キャップの後ろにはブランドロゴ、手首のブレスレットが歩くたびに大きく鳴っている


 黄金色のピアスにブレスレット⋯⋯


 その服装のあまり気取ろうとしない軽さが、俺達にとっては余計に悪く見えるのは彼の本性を知っている故


『よう、久しぶりだな。最近は生徒会で忙しいってんで俺に会ってくれなくて寂しかったぞ?』


 やがて、夏目さんと拓哉が接触

 拓哉は夏目さんに向かって手を振り、彼女はそれに軽く手を挙げて返す


『ごめんなさい、時間を取ろうとは思ったのだけれど体育祭が近いからその会議と準備で忙しくて⋯⋯』


 2人が距離を縮めて言葉を交わすと、彼らの目に見えて表情が変わる

 久々のデートに心躍らせ歯を見せて笑う拓哉と、どことなく申し訳なさそうな表情で反省の雰囲気を漂わせる夏目さん


 ⋯⋯彼女の思いを知らなければ、あの演技は見抜けないだろう。実際、認知してる俺ですら目を疑うレベルなんだから


『そーいえば体育祭は生徒会の管轄だったなぁ。おうおう、夏目(なっちゃん)も大変なのはよ〜く分かった』


 上品で仕草の端々に気品を感じさせる夏目さんだったが、それに相反する彼氏の存在

 何故だか上から物を言っていて、悪く言えば夏目さんには釣り合わない男

 しかもなっちゃん呼びか⋯⋯


 それと、軽く説明を入れると俺達の体育祭は生徒会が運営する特殊な体育祭

 教師と段取りを決めたりと、優秀な人材が集まる生徒会は行事関連に携わってる事が多い


 ちなみに勿論、拓哉は生徒会の人間じゃない。なので、内部事情を知らない夏目さんからすれば絶好の口実と言う訳だ


『んまぁ!過去は忘れて、今日は楽しく行こうやっ!なっ!』


 見張りを続けていたその時、拓哉は思い切り夏目さんの肩に手を置く

 拓哉は水面下で始まっている出来事を何も知らない⋯⋯彼自身は物凄く楽しそうだ


『ふふっ、ありがとうね拓哉くん。それじゃあ、どこから行く?』


『それじゃ、まずはなっちゃんの好きな()()()()()から見に行こうぜっ!』


 軽々しいボディータッチに悪びれもしない拓也に、夏目さんは全く動じない


 あれ、夏目さんの家にぬいぐるみなんて好きだったか?家にあったっけ⋯⋯?

 真海の家なら大量に人形やぬいぐるみが置かれてたけど⋯⋯ま、そこは重要じゃないか


『だったら、2階のグッズ売り場だね』


 夏目さんの心構えが素晴らしいもそうだがあの様子じゃ、ボディータッチがかなり常習化してるな⋯⋯


「ゆうくん、私あの男無理かも⋯⋯」


 彩華の声がしたので、漠然とそちらへ見ると、気づけば彼女が俺の左側の袖を握っている

 顔の引き攣りは増す一方


「⋯⋯恋仲とはいえあそこまでベタベタと触れる度胸も凄いが、浮気相手を持ってる点も考慮すれば⋯⋯まぁ、そうなるわな」


 ボディータッチのみならまだしも、彼は夏目さんの目の届かない場所で、他の女性(愛月真海)と致したりとやりたい放題


 ファンも多い分、自尊心も強くなるから終始上から目線⋯⋯本性を知っていると、ここまで見え方が違うとは、驚きの一言


「心底、私の幼馴染がゆうくんで本当に良かったって思う」


「なんだよそれ⋯⋯そりゃ俺にはああ言うチャラい態度は無理だけどよ」


 おっと、気づけば2人が広場から移動し始めてる⋯⋯

 えっと、2階のグッズ売り場はエスカレーターで行くよりも階段で行く方が近道だな


「よし、グッズ売り場に先回りするぞ。先に店内に入れば怪しまれないからな」


「うん。あっでも私、戻ってきたばかりでこの場所に慣れてなくて⋯⋯よかったら手、繋ごっ?」


「え?ま、まぁそれなら仕方ないか⋯⋯」


 夏目さんと拓哉が広場のエスカレーターに乗る頃、俺達の方は尾行であるのにも関わらず、堂々と手を繋ぐ


「えへへ⋯⋯」


 ぷにぷにと柔らかく、小さく脆そうな手

 互いに気まずくなり、少しドキドキしてしまう⋯⋯


 彩華は迷う程の方向音痴ではないと思ってたんだけど⋯⋯今は言及する余裕もない

 ただ、手を繋げば恋人と思われて通行人も怪訝そうに見なくなるし合理的ではあるかも


 それに正直、ちょっとラッキーな気分


「出だしが遅れたし、ちょっと走るか」


「うんっ!」


 2人の現在位置はエスカレーターの中間地点、先回りは走ればまだ間に合う


 予めファミレスで地図を網羅していて正解だった。都合がいい事に、グッズ売り場はエスカレーターよりも階段の方が近い


 両方の手を握り合い、ショッピングモール入口付近にある階段へ、駆け足で向かう

 彩華の手を取って先導


 ⋯⋯少しだけ彼氏らしい一面を見せられているかなと、心の中で想像を広げるが状況が状況なので、その気持ちを首を横に振って、払った




これまで進行速度は少々遅めでしたが、3章は学校などの絡みも含めて、早い展開が続く予定です!

夏目との関係など、タイトルとは逸脱した展開が出ていますが、あくまで今後に繋ぐサブ展開になります!

長いストーリー展開を予定しておりますので、気長にお読みいただけると幸いです!


改めて、お読み頂きありがとうございました!


続きが気になる!面白い!など思ってくださればよろしければ評価、リアクション、感想やブックマークをいただけますとすごく励みになります!


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