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#29 執着には決別

 

 彩華の料理、それはお弁当に限らず全てが格別で男子からすれば、それは皆が羨むもの。


 手巻き寿司、唐揚げ、サラダ、締めにはデザートのケーキ⋯⋯やけに用意周到


 それから彩華と手を取り合って作った料理は全て平らげ、先程に2人だけの祝宴は終わりを告げた


 勇気を束ねた協力の申し出

 粗い点に目を潰れば当面は成功と言える。


 とりわけ大きく失敗した点はなく、人前に躊躇なく出せる出来具合には仕上がった。


 サラダに使う野菜ってんで他の料理には手を出さず、ひたすら包丁を動かしてた訳なんだけど、親の手を一切借りず自炊している彩華にしてみれば、まだ初歩の初歩。


 筋は良いと、今度からは彩華が夏目さんに代わって手取り足取りを教えてくれると言ってくれたのは頼もしかったな。


 そこから苦戦はしつつも何やかんやで料理は見事に完成。


 ⋯⋯美味しいと感じたは感じたんだが、過去の話に釣られるあまり、お弁当ほど味は楽しめなかったな


 食事中は幼馴染同士、2人の昔話で盛り上がり、引越し先での経験や生活など、俺が知らない彼女の一面を更に知れた機会。


 転校先の学校では陸上に通っていて運動音痴を卒業。

 戻ってきて早々、部活動の勧誘を多方面から受けている様子で、残り一年と短い期間で加入するかは未だに悩んでるらしい


 んで、その張本人は使った食器を洗い終えてから一日の疲れを流すと、現在はシャワーを浴びている⋯⋯

 恐らく、そろそろ上がる頃だろう


「まさか、だよなぁ⋯⋯」


 それにしても上手いこと流されてしまったが、結局は泊まりが確定か⋯⋯

 避けられない運命かと腹は括った、ただ今日はどうも波瀾万丈すぎる日

 体力は既に限界を迎えようとしてる



『流れもいいしお風呂、一緒に入る〜?』



 特にダメージが大きかったのは冗談半分で言われたこのセリフ。

 これが脳内に焼き付くように胸に突き刺さった。


 俺だって、他と何ら変わらない年頃の一男子

 下心がないと言えば、それは真っ赤な嘘であり、そう言われて想像してしまうのは⋯⋯彼女のあられもない姿


 必死になって断ると満足気に諦めてくれた

 とはいえ、今の俺には冗談としては少し荷が重い


 常に力んでいた肩を休めようと、俺は花の香りがするソファーの上で寝転がる。

 天井を見上げ、何気なくスマホに電源を入れると──


 そこには目を疑う光景。


「はっ!?」


 思わず声を上げてしまい、寝転がったばかりだと言うのに、バネにも劣らない速度で飛び起きる。

 俺の視界に映ったその光景が、あまりにも信じられないものであったから──



 ──新着メッセージが300件あります。



 ALINE(アライン)の通知が、俺の通知欄を全て埋め尽くしていたのだ。

 ソシャゲ、アプリの広告、漫画の更新通知


 それを尽くかき消すそのALINE(アライン)のメッセージ、送り主は⋯⋯案の定、愛月真海


 ⋯⋯マジでどうすればいいんだよ

 無視を決め込んだら決め込んだで、明日にその分の災いが降り掛かってくる

 かと言って返信をすれば、何かあらぬ誤解や予想だにしない出来事が起きる


 だって相手は腹の読めないもう1人の幼馴染、愛月真海だから⋯⋯

 

「なんなんだよもう、勘弁してくれよ⋯⋯」


 腹の奥底から出る深い溜息

 前までは新着メッセージが来てはウキウキでALINE(アライン)を開く事すら億劫になってしまう変わり様


 ⋯⋯心身共に疲れ切って、スマホを動かす指は全く動じない。


 既読をつければ選択肢の幅は一気に狭くなるし、追い打ちはかけたくない

ただ、ここまでやられては突き放す言葉もありか⋯⋯?



「──ゆうくん」



「はいっ?!」


「わぁ!?なになに、急に驚かさないでよっ」


彩華が上がったことに気付かず、突然声をかけられ、背筋がビクッと震え上がる。


「わ、わりぃ⋯⋯」


「それにしても凄く顔が暗いなぁ。ゆうくんらしくないよ?」


 眉尻を上げた彩華、タオルで首元を拭きながら俺の隣に腰を下ろした。


 髪をおろしてタオルを首に巻く寝巻き姿

 座る瞬間、少し見惚れてしまうが、真海の件があるので直ぐに我に返る。


 もはや見せるのを渋る必要はない

 夏目さんの件について話し合う時間も必要だから、とっとと真海の話しは終わらせてこう


「これ⋯⋯見てくれるか?」


「ん〜?」


 スマホを彩華に差し出すと、彼女はそれを取り、通知をタップした


「えぇなにこれ、()()()()()⋯⋯」


 日頃は明るく振る舞う彩華の目からハイライトが消えると、そこから暗い部分が露呈

 顔が引き攣り、何かに困惑している⋯⋯


 口が悪くなるのは驚くわけもない、それ以上の物を見てしまった上、理由があれじゃあな⋯⋯


「ゆうくんも知っておいた方がいいかも。気は進まないと思うけど、読み上げてもいい?」


 ⋯⋯彩華がそう言うなら聞くしかない


「内容は気になるが、いざ前にすると億劫になってな⋯⋯この際、ひと思いに頼む」


 真海からのメッセージは何日も開いておらず、ずっと未読無視を続けている

 だからこそ忘れていられていたが、訪れてしまった今にそのツケを払う覚悟をし、唾を飲む


 流石に300件全てを羅列するには行かないのか、彩華が読み上げる分を見定め、やがて読み上げる


「え〜っと⋯⋯」



『裕介、今日もお弁当作ったんだけど食べる?今日はあんたが好きなの盛り合わせて来たわよ』


『一緒に帰らない?たまにはファミレスか何かにでも寄って気晴らししたくてさ』


『改めてその髪型似合ってる。私でも少し惚れそうだった』


『なんで無視するの?気づいてない訳ないわよね』



 えぇ⋯⋯なんて言えばいい?言葉が、出てこねぇ

 彩華に感想を言おうにも、真海に返信をしようにも開いた口が全く塞がらない



「ここから今日の内容だね⋯⋯うわぁ、こっちもやば⋯⋯」


 これでも彩華が数ある中から抜粋したとのだけ

 来ているメッセージは読み上げた数を遥かに凌駕してる⋯⋯それを全てを確認しようものなら、頭がおかしくなっちまいそうだ


『私、何か悪いことした?これまで裕介に尽くしてきたつもりだったんだけど。振った事への腹いせ?それとも私の彼氏が何か気に障るような事言ったの?』


『もしそうなら私も謝るし謝らせるから正直に話して。あと今日言っていた思わせぶりだなんだなんて、それは裕介の()()()よ。私はいつも通り接してた』



 ⋯⋯⋯



『誤解解きたいから話したい。今から家に行くから待ってなさい。もちろん、2人だけで話すわ』


『なんで連絡したのに家に居ないのよ?無視するなんて最低のやる事、私はそんな事してこなかったじゃない』


『もしかしてあの忌々しい女の家にいるの?アイツは頭が異常だからやめなさい、迎えに行ってあげるから返信してよ』



 終始上から目線⋯⋯

 一時は泣いてたから心の片隅でほんの微かに申し訳ない気持ちはあったが、そんな気は風に吹き飛ばされるように失せてしまった


 俺の勘違いだったとしても、いや万が一にもそうかもしれないけど⋯⋯


 だからと言って、居るはずの彼氏を明言せず、ましてやその彼氏と笑いながら陰で悪口言って、いえ誤解ですだなんて、まかり通る訳がないだろうが


 思わせぶりが本人の素だったとしても、彼氏持ちの女子高生が見せる態度じゃない

 それが例え、長年の幼馴染だったとしても


 なんでお前は俺に執着するんだよ

 俺の方はとっくに泣きながら諦めたって言うのに


「⋯⋯勝手だと思うから聞くんだけど、よかったら私に返信させてくれる?」


 真海については何だろうと、心底どうでもよくなってしまった

 悪口だけならまだ俺が悪いと考えられた

 しかしここまで横柄だと、悪いと思うのがどんどんと癪に感じてきて⋯⋯遂に思考放棄に走る


 これって傍から見て、俺はクソ男なのか?

 いずれにせよ、返信は任せておきたい



「むしろ頼む。これ以上関わるとイライラするにまで達しそうでならないんだ」


もう関わりたくない、その一心

穏便であるうちに事を大きくせず、終わらせられればそれでいい。

感情的になっては良くない、これで他の人と陰口でも言ってしまえば同じ穴の狢だ


「分かった。ただお願い、なんて送るかゆうくんも見届けて欲しい」


「勿論、彩華がそう言うなら従う」


「⋯⋯行くよ」


 彩華の指が動く

 その指の動きを俺は目で追い、入力欄に続々と付けられていくひとつひとつの文字


 程なくして出来上がるメッセージ



『悪いが彼氏持ちのお前と関わりたいと思わないし、もう俺に付き纏わないでくれよ。それに俺、失恋した時に慰めてくれた彩華と付き合ってるんだ』



 送信──


 続けて次の文へ


「言っておくが彼氏と小馬鹿にするように話しておいて関わりたいって、発言と行動が矛盾してる。今までに世話になった恩は直ぐ形にして返すからもう返信は不要だ。それでもしてくるならブロックするからな」


 彩華が打ったとは思えない、俺の書き癖も把握してる完璧な文⋯⋯

 横から口出しはしてないはずなんだが、この短期間で⋯⋯すげぇの一言


 そしてまた、彩華の指先が送信ボタンに触れた

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― 新着の感想 ―
彩華ちゃん素晴らしい ストーカー真海は彼氏に悪いと思わないのかな 彼氏の方がまともに見えてきた
歴史はゆっくりではあるが、確かに進んでいる。 kakuyomuでのあなたのニックネームは何ですか?
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