#24 快活な子への一歩
本来、彩華の両親を深くストーリーに干渉させず名前を記載する予定はなかったのですが、読者様に配慮して名前を記載させていただきます。
彩華の母親
・桜木美由紀
彩華の父親
・桜木拓郎
小鳥遊家、愛月家はストーリーに組み込んで紹介されますので今回の前書き紹介は特例となりますのでご了承くださいませ。
雨粒が窓にぶつかる音ばかりが車の中に満ちていて、お父さんと二人きりの沈黙は、重たくて、逃げ場がない。
ほんの少しだけ横目で見た横顔は、やけに遠く感じて⋯⋯
家に戻る途中なのに、まるで知らない場所へ運ばれているみたいで、あの時のお母さんの顔を思い出すと、今も胸の奥がざわつく。
刻一刻と、お母さんの居る家へと戻っていると、そんな事実があるせいで、私の息がどんどんと浅くなっちゃう
あれから全く口を開かないお父さん、そして私だけの2人の空間。物凄く張り詰めていて居心地が悪い
⋯⋯戻りたくない
あんなで家を飛び出しておいて、お母さんからなんて言われるかな⋯⋯
お母さん、いつも私に優しいからこの一件を打ち明ける時、すごく心苦しかったのかも⋯⋯
心做しか表情もどんよりとしてたし。冷静に考えて見たら、あんな言い方したんじゃビンタされて当然だよ⋯⋯
「────彩華、ついたぞ」
「えっ、あっ⋯⋯う、うん」
お父さんの声で顔を上げると、車のエンジンが止まっていた
続けて車の窓越しに我が家を見て、遂に到着しちゃっただと、これから起きる事の不安が強くなり、心臓の鼓動が早まってしまう
「⋯⋯なぁ彩華」
「──!?な、なに⋯⋯?」
「お前が雨の中で外に居たのって、父さんの、その⋯⋯異動の件だろ?実は運転中、母さんから彩華の事でメッセージが来てな」
どうりでずっと何も喋らなかったんだ⋯⋯
「⋯⋯⋯」
怖くて、すっごく怖くて⋯⋯横顔ですらお父さんを見れない
返す言葉が見つからず、重かった空気が更に私の肩に乗りかかってくる
家での出来事が伝わってしまった以上、お父さんからも叱られるではないかと、恐怖のあまり、止まっていたはずの涙が再び込み上げてきた
涙を流していると悟られないよう、また顔を下げて目を隠す
「念の為言っておくんだが、父さんは彩華には怒ってない」
⋯⋯えっ
「むしろ子供のお前に負担をかけてしまう不甲斐ない親で申し訳ないと、つくづく自分の情けなさに嫌気が差してる」
少し息を含んだような、温もりのあるどこか悲しげな声⋯⋯
「ここ最近のお前は、すごく楽しそうで⋯⋯父さんは、その笑顔を奪ってしまったんだ。お前から責められても仕方がないと思ってる」
お父さんの優しさで、堪えていた涙が溢れて⋯⋯私は、必死の思いで頭を下げた
あの時、私はお父さんの気持ちなんか露知らず⋯⋯
「お父さん⋯⋯ごめんなさい。本当にごめんなさい⋯⋯私、お母さんに⋯⋯」
「彩華⋯⋯」
涙のせいでまるで前が見えない⋯⋯
私はただ、謝ることしかできなかった。
一生懸命、縋る思いで何度も謝っちゃう
罪悪感で押し潰されそうで、謝り続けていないと胸が痛い⋯⋯
「今はとにかく、帰ろうか。今夜、母さんも交えて、こうなってしまった経緯や今後について詳しく話そう」
「う、うん⋯⋯」
〜
「美由紀〜、今帰ったぞ〜」
足が震える私は、お父さんの後ろをつくようにおずおずと玄関に入る
玄関ホールで腕を組んで立つお母さんの姿
家を飛び出した手前、後ろめたい気持ちで口を効く事なんか出来ない⋯⋯
目すら合わせられず、怒られるのを待つだけ⋯⋯
なんて言われるんだろう、然るべぎ報いは受けるって覚悟してたけど、やっぱり⋯⋯怖いよ
また、叩かれちゃうのかな──
「──彩華⋯⋯!!」
えっお母さん、なんで抱きついて⋯⋯?
「ごめんなさいっ!大切な貴方の気持ちも一切考えられていなかった⋯⋯」
「お母さん⋯⋯?」
「小学生の頃から今まで、子供の彩華に負担ばかりかけて、定まった居場所を作って上げられなくて⋯⋯」
裸足なのを構わず、汚いはずの土手に降りてまで⋯⋯
お母さんが泣いてるなんて、すっごく珍しい
でも、胸を刺すような一言を言い放ってしまったのは私なのに⋯⋯
「彩華が生まれて、初めて貴方に普通の学生としての生活を与えられたと喜んでた矢先に左遷が決まっちゃったから⋯⋯ごめんなさい、何もかも頭が真っ白になっちゃったの⋯⋯」
涙が、止まらないよ
私の予想とは違って、むしろそれを通り越して⋯⋯
「ううん、違うの。私が悪いんだよ⋯⋯全部私が感情に流れやすくてわがままだから、雨でお洋服も汚しちゃったし⋯⋯」
お母さんの、私を抱く力が強くなるのを感じて私もそれに合わせて強く抱き返した
「本当にごめんなさいね⋯⋯彩華も雨に降られてるしここは冷えるから、一旦上がろっか」
お母さんの温もり、久々に感じれた⋯⋯
少しは落ち着けた⋯⋯かな?
「⋯⋯うんっ」
「お風呂、湧いてるから先に入っておいでね」
お母さんは涙を拭って続くように私の頭を撫でて、家を上がる
リビングに向かって、何かに気づくように慌ててキッチンへ走っていった
お母さんに注意が向いてて気が付かなかったけど、何だか凄く、焦げ臭い⋯⋯?
「お父さん⋯⋯」
「ん、大丈夫だ。大方料理でも焦がしたって所だろう。無理もないけどな」
それも私のせい、だよね
お母さんは怒るどころか、謝ってきたけれど⋯⋯どうしても負い目を感じちゃう
お父さんが言ってた話し合いの時、しっかり謝らないと⋯⋯
「⋯⋯⋯」
そっと手で涙を拭う
ダメだな私⋯⋯こんなんじゃ、ゆうくんにも顔を合わせられないよね
前向きに⋯⋯生きなきゃっ
決まった事を今更嘆いて、くよくよしたってどうしようもない⋯⋯
頑張ってくれてるお母さんやお父さんに迷惑をかけない為にも、私も少しは頑張らなきゃ
それに何よりもこんな様子じゃ、ゆうくんが安心して見送ってくれないよ
ひとまず、お母さんの言う通り⋯⋯シャワーでリフレッシュしようかな
読者の皆様、大変お待たせしております!
活動報告にて、更新が遅れている理由と今後についての記述がございますのでご興味がある方は一見くださいますと幸いです。
次の更新は11月8日を予定としております
お読み頂きありがとうございました!
続きが気になる!面白い!など思ってくださればよろしければ評価、感想やブックマークをいただけますとすごく励みになります!




