#22 隠された一面
※4月10日
失念していた過去を緊急追加いたしました。
いじめに関連する部分です
はぁ、はぁ⋯⋯やっと辿り着いた
うん、この独特な見た目⋯⋯間違いない。彩華の家だ
外壁が水色と独特な塗装がされていて、かつ天窓のついた屋根に、彩華の父の趣味だった盆栽が沢山あり、いつになく手入れされている
かつてと比べて、多少古びた雰囲気に変わってはいるが、それでも外観から見て分かる裕福な家庭感だけは変わらない
そして、周りと比べても浮く程度に派手である彩華の家を流し見していると、二階にある彼女の部屋のバルコニーが視界に入る
するとそこには、そわそわと辺りを見回す彼女の姿があった
「お〜い彩華〜!」
二階にも届くよう、一際大きい声で彼女の名前を呼んだ
それに反応した彩華は俺の顔を見ては、パッと顔を明るくしてバルコニーから自分の部屋へと戻る
時間を置かず、家の中からは騒がしい足音が立ち始めて直ぐに玄関の扉が開いた
「ま、待ってたよ!」
「⋯⋯だ、大丈夫か?」
そこから現れた彩華の姿⋯⋯
見ると彼女は凄く汗だくで息切れしている
帰る際に身体を動かした事で暑くなり、バルコニーで涼しんでた所を俺が声をかけた⋯⋯そんな所だろうか
「う、うんっ気にしないで!まぁ、今はとにかく上がってよ!」
何かを悟られたくないかなように焦り、誤魔化しては、彼女は家に上げてくれた
「じゃあ遠慮なく上がらせてもらうよ」
玄関の中に入ると、途端にほんのりと香り出す薔薇のような匂い
⋯⋯うわぁぁ、懐かしい
物の配置とかは変わっているが、雰囲気とかはまるで何も変わってない
ここにいると、昔に戻ったと錯覚してしまいそうだ
外装は非常に派手だったが、それに反して内面は落ち着きがあり、玄関はごく一般的な家庭と何ら変わらない⋯⋯
清潔感あるその内装、超絶派手な外塗からは全くもって想像がつかないものだ
緊張する最中で靴を脱ぎ、数年ぶりに彩華の家の床に足をつけた
彩華の部屋は確か二階にある部屋の2番目だっけか、昔は何気なく遊びに来てたけど
、なんだか今は異性として意識しちまうから⋯⋯
思い馳せるように彩華の家を見回していると、彩華がこっちこっちと俺を手招きしてくる
「手、繋ご?」
部屋へ向かうべく階段を上がる彩華に誘われるがまま頷いて、手を繋いだ
そのまま彩華に引き連れられるように二階へと上がり、やがて彼女の部屋に到着した
「⋯⋯やっぱり変わってないんだな」
────女の子のその神聖な領域に足を踏み入れると同時に心臓が高鳴る
彩華の部屋も子供時代に比べて、当然大人びてはいる
ただ凄く女の子らしい部屋ってのは変わりがない
ベッドの端のぬいぐるみや壁に掛けてある家族の写真、整頓された難しそうな本に少女漫画⋯⋯
男が思い描く女の子の部屋そのもの
俺の想像と一致しすぎてるし、雰囲気も女性特有の物があってすごく緊張する⋯⋯
「⋯⋯こうして彩華の家に来るの、ざっと何年ぶりだっけ?」
心の高まりを紛らわせるために、知っている事柄にも関わらず質問し、話を膨らませた
流石にこのまま黙りこくったままだと俺の気がどうにかなってしまいそうで⋯⋯我慢できなかった
「えっと、確か6年ぶりだよ。最後に私の家で遊んだ時、ゆうくんのいじめについて話してたの、覚えてる?」
すっごい昔の事だが、よく覚えてるなぁ⋯⋯
「ゆうくん、誰に対しても言う事聞いちゃう節あるから見てられなくてさ?私、つい口出ししちゃってたんだよね」
常に学校中から⋯⋯特に女子からいじめられていた時代の話、助けてくれていた彩華が引越しちゃうと、俺はいじめの格好の的
それで引っ越す前に彩華が、いじめられない方法を考えてくれたんだっけ
男なら反撃して思い通りにさせないって言う、人によっては極めて簡単な内容
残念ながら、俺はその限りではなかったがな
だけど彩華と約束しておきながら、それを果たさない訳にも行かず、思い立ったその瞬間がひとつの人生の転機だった
彩華が引っ越してから心持ちは激変
反撃はおろか鬱になりかけ、真海に相談するも結局は知らんぷり⋯⋯
俺を庇えば彼女もいじめに巻き込まれるかもしれないから、致し方なかったとはいえ⋯⋯今考えると、あの時の真海は少々冷たすぎたと感じる
果てには窮地に追い詰められた俺は、彩華の言葉を思い出して反撃⋯⋯それからいじめは完全になくなりこそしなかったが、多くの人間は俺をいじめの対象から外した
不思議なのはその一件を境に8割ほどの人間が俺をいじめなくなった。それはいいんだ
ただ反撃しただけでこれだけ変わるものか?と疑うぐらい学校生活が急変した記憶がある⋯⋯
「彩華の助言があったからこうして生きられてる。彩華が居なかったら俺、多分⋯⋯本当にどうにかなってたと思うぞ?」
ありのまま俺が思った事を伝えると、彩華が照れくさそうに目を逸らす
「え、えへへ⋯⋯そう言われるとよわいなぁ⋯⋯」
俺が意識している張本人と対話すると、少しだけだが緊張がほぐれた
緊張で気にしていなかったが、ずっと棒立ちしていると俺の足も疲れてきた
⋯⋯音を立てないよう、ゆっくりとカーペットに腰を下ろす
⋯⋯⋯
────やっぱり気まずい⋯⋯!!
夏目さんと2人きりになった時もそうだ、俺は少し⋯⋯女性に対して弱すぎやしないか
意識して目を合わせると、直ぐに上がってしまうのは、もう性格上仕方ないと割り切ってるが⋯⋯
そうとは言っても、意中の相手だからこそ目を合わせていたいもんだ
「⋯⋯そうだ、お茶入れてくるね!」
ひとつの部屋で気まずさを共有している俺と彩華
男である俺が先んじて何か話を切り出そうとすると、彩華が慌てた様子で部屋を出ていく
「あ〜お構いなくな⋯⋯」
その後ろ姿に何も気にしない事を伝えたのも束の間、こうして再び一人の時間が訪れた
⋯⋯せっかく家に呼んでくれたのに、この調子は男として恥ずかしい⋯⋯彩華が戻ってくる前に、いくつか話題を考えておこう
「⋯⋯真海の事、話すとするか」
話題と言えば、まず真っ先に思い浮かぶのはこれだな
最初から暗い話になるのもあれだが、彩華は真海との関係を一番に心配してくれている
⋯⋯彼女との出来事を伝えれば、多少は安心してくれるはず
その次、夏目さんを見守る明日の計画もある程度おさらいしておこう
もし時間に余裕があれば、あわよくば彩華と2人のデートプランを練るってのももしかしたら⋯⋯本当にもしかしたらだが、ありかもしれない
会話の段取りを頭の中で決めて、俺から話を切り出せるように、返事のレパートリーをいくつか考えておく
「⋯⋯⋯」
考える一方で彩華の部屋が気になって仕方がない
玄関のバラとは違った良い匂い⋯⋯これは何の匂いだろう。
玄関は玄関で、薔薇の芳香剤が置かれていた
何気なく匂いの正体が知りたくなった俺は、彩華の部屋を舐めるように見ると、俺の目に止まる不審なものがひとつ
あれは⋯⋯
「⋯⋯真海⋯⋯?」
開きかけのタンスから垣間見える真海の顔
気になった俺は立ち上がり、彩華には悪いと思いながらもそれを覗き込んだ
そこには何と、何度も⋯⋯何度も何度もナイフで傷つけられたと推測ができる真海の写真があった
俺は固まり、目を凝らしてそれをよく見る
しかも覗き込んだだけで写真は3枚、予備の制服や可愛らしい服に隠れてあまりよく見えないが、確かなのはいずれの写真も顔が傷付いて惨い事になっている
それに、これは────中学生時代、引っ越す前に撮った3人の写真⋯⋯?
特に酷いのはこの写真だな⋯⋯
俺と彩華の部分は何ともなく、真海の部分だけ綺麗にナイフの傷跡が残ってる⋯⋯
彩華の奴⋯⋯ここで一体何をしてたんだ────
「ゆうくんお待たせ〜、お茶入れてきた⋯⋯」
「あっ⋯⋯」
彼女の声がして咄嗟に振り返るが、時は既に遅かった
タンスを覗き込んでいた俺の姿を見て、突然と呆然と立ち尽くし始めた彩華
彼女からは目の光が消え、脱力してお茶が乗ったお盆を落とす。俺は何も言えず、何も言わず、ただ沈黙だけが場を支配した
その中で寂しげに転がる湯呑みの音が空気をひときわ重くする
時間が経つにつれて、カーペットにはお茶が染み込んでいく。それは俺達の関係にヒビが入っていくのを表すかのように──
⋯⋯だけど、彩華がそんな事をする子だとは思えなかった
何か真海に対して思う所がある
こんな呪うような真似をしたにしても、相応の理由があるはずだと考えた俺は、1度冷静になり、そのままもう一度膝を曲げてカーペットの上で正座をした
お読み頂きありがとうございました!
ご感想に添うように、真海と彩華の関係性が次の話で明らかになります!
彩華視点、かなり真海に憎悪を抱いていましたが、それの具体的な説明と真海の行動がよく分かります!
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