#19 我慢の限界
彩華の話は一通り聞き終え、五限六限と終わり、今は1人で下校中⋯⋯
俺は昼休みに彩華から伝えられた話を考え、オレンジ色の夕日の色に照らされた歩道を歩いている
⋯⋯碧羽学園高校バスケ部エース、五十嵐 拓哉──
彼のプライドの高さは筋金入り⋯⋯それも男の中では群を抜くほどの
彩華の話によると、拓哉は1年ほど前から、皆に隠れて碧羽学園高校バスケ部のマネージャーと付き合っていたらしく、数ヶ月前に理由は不明だが破局
思い立ったマネージャーが彼を呼び出して振ったらしく、プライドの高かった拓哉は振られた事に激昂
後日、バスケ部の取り巻き達を集め人気のない場所で彼女を陵辱
マネージャーはその事件でトラウマを抱え、身体にも深い傷を負ってしまい表に歩く事を拒絶する程の自体に陥った⋯⋯
その話の最中、夏目さんが肩を震わせていた
浮気の瞬間──それも身を重ね合う場面を目撃しているからか、悲しんではいなかったが⋯⋯どちらかと言えば、俺は彼女から燃えさしのような静かで強い怒りを感じた
彩華の情報収集能力は素晴らしく、その凄さに俺ですら出処を疑ってしまった
彼女が言うには情報源は碧羽学園高校に通う現生徒──しかも拓哉と過去に一悶着あった旧友から。
⋯⋯戻ってきて早々、別高校の男子と接触できるなんてどういう人脈してるんだと言う感想が出るが、彩華のコミュ力は人一倍抜けているからまぁあまり驚きはしなかった
話を戻すと、何故か表沙汰にならなかったその事件を皮切りに拓哉の悪い噂が立ち始めたようで、そして現在に至る
思い返せば返すほど、胸糞悪くなる話だ
女癖が悪い所の話じゃない、もはや人間性を疑うレベル
⋯⋯まぁ、夏目さんが復讐する更なる理由も出来たって訳だが、このまま無闇に拓哉を振れば夏目さんの身も危ない
昼休み、彩華に出された指示通り俺も明日、行動に移す
その明日ってのが、浮気が発覚する前に予定を立てていた夏目さんと拓哉のデート日
彩華と俺はそれを追いかけ、夏目さん達を遠くから見守る⋯⋯
万が一の時に頼れるのは男の俺しかいないって事で、俺も同伴を頼まれたのが明日って訳だ
⋯⋯俺もそんな力強くないんだけどな
夏目さんは極力浮気の事は伏せて慎重に行動
夏目さんの遠回しの質問などをしてもらい、その時の拓哉の対応次第で、今後の動きを彩華が見定めてくれる
俺はいわゆるボディーガード的な役割に当たる
「⋯⋯さてと、帰ったら勉強でもするか」
待ち合わせ場所と時間帯が決まり次第、彩華が連絡してくれる
それまでは特にする事が無いし、そろそろ家も近いし夏目さんにALINEでもしておくか──
「──!」
スマホを取ろうとポケットに手を入れる直前、俺の視界に入る女性と制服姿の男性⋯⋯
────彩華の警告通り⋯⋯って訳か
拓哉真海、そしてその彼氏と思しき人物⋯⋯間違いない、真海が俺の陰口を言ったあの時の男だ。
再び、あの時の出来事がフラッシュバックするが俺は左右に頭を振り、その記憶を払う
ここに来て見せつけられてる気分だな、随分と楽しそうに話してやがる⋯⋯
「ふぅ⋯⋯」
平常心、もしも顔が合ったとしても取り乱さない心構えで素通りする
何も気にしない、声をかけられても軽い返事で済ませる。その場面を頭の中でイメージ
「あっ、裕介⋯⋯」
やがて真海が俺に気づき、独りなのを確認してから声を掛けてきた
「⋯⋯よっ」
今更何も話すことがない俺は軽く返事し、そのまま通り過ぎようとするも、真海はそれを許してくれない
「⋯⋯ちょだと冷たすぎない?。もう少し私と話してくれてもいいじゃない」
「悪い、俺急いでるから⋯⋯」
俺の前に立ち塞がる真海
待ってよと止められるも、それでも俺は真海を相手にせず横をすり抜けようとする
しかしそこで邪魔者が1人増え、俺の行く手を阻む。
「待てよ。真海ちゃんがこう言ってんだから話ぐらい聞いてやったらどうだ?」
⋯⋯コイツ、何の道理があって邪魔してきてんだよ
一刻も早くこのクソみたいな場所から離れたいってのに、イチャつくなら他所でお好きにやってくれってんだ
男の方にはまるで反応を示さないで無視を決め込むと、そいつは俺の胸ぐらを掴んできた
「おい待てや」
「⋯⋯なんだよ」
「てめぇ、真海に告白したダメダメ幼馴染の裕介ってんだろ?」
「⋯⋯だったらどうした?」
俺が答えると、男は鼻で笑った。そして直ぐに掴んでいた俺の胸ぐらを荒く離し、俺はよろめくように後ずさる
そこから男は真海の肩に手を置き、どうだと言わんばかりに見せつけてきた
「残念だったな!お前が告白した時には真海は俺のもんだったんだよ!」
突然肩に手を置かれた真海は抵抗、しかし満更でもない様子で頬も赤らめている
そしてチラチラと俺の方を見ては、直ぐに男の方へ視線を戻す
「⋯⋯⋯」
ズキズキと言った苦しい感覚が胸を駆け巡る──
⋯⋯そんな幸せそうな顔、俺に見せてくれた事、1度もなかったよな
男の方は優越感に浸りたくて俺に見せつけてんだろうが、一方のお前はなんなんだ
彼氏が居たにも関わらず受験期だから付き合えないと曖昧な答え方をして俺に煮え切らない気持ちを植え付けて⋯⋯
その癖、振った後にカッコイイとか俺をその気にさせるような発言して⋯⋯お前は本当に何がしたいんだよ
僅かな希望を持たせ、そこから絶望に染まる俺の顔が見たいだけなのか?
⋯⋯俺はお前が幸せなら何でも良いって思ってた。でももしその魂胆があるなら、俺はお前を嫌いになっちまう
⋯⋯お願いだから、もう俺に関わらないで欲しい
このまま長く立ち往生していては俺の精神が崩壊しかねない
直ぐに立ち去ろうと、それにすら無視を決め込んで駆け足で素通り
⋯⋯ようやくこの場を切り抜けられる
そう安堵したその時
「裕介ッ!」
⋯⋯なんなんだよ、しつけぇな⋯⋯!
辺りに響く高い声に、俺は多少の距離を取れていたにも関わらず、何だ何だと彼らの方へ振り向いてしまう
すると、どうやら彼氏の方が満足したようで電柱に背をつけてスマホを弄り始めている
────俺に彼女を見せつけられればそれでいい⋯⋯そんな感じか
一方の真海は満足した彼氏を置き、俺の方へ駆け寄ってきては勝手に話を始めやがった
「裕介、悪いことは言わないからあの子⋯⋯彩華に関わるのだけはやめなさい」
「⋯⋯何が言いたいんだよ?」
俺は込上がってくる様々な感情を抑えるため、握り拳を作る
「あの子、普通じゃないのよ。あんたがいない時に1度会ったけど⋯⋯目がもう、おかしかった」
その瞬間、俺の中で溜まりに溜まっていた何かが爆発した──
「お前さ」
お読み頂きありがとうございました!
次回は余裕があれば今日中に掲載予定です!
また拓哉と裕介は面識がない為、真海の彼氏が誰だかはわかっていません。
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