#17 イメチェン ※ヒロイン挿絵あり
あれから早くも1週間、特筆するような出来事は起きず、協力関係だけが築かれた
そんでもって、今日はいつもと違って俺一人での登校。
朝の教室には、まだほとんど人の気配がなかった。
窓際の席に腰を下ろし、ぼんやりと外を眺める。
春の柔らかな日差しが差し込んでいるのに、教室の空気はどこかひんやりとしている
⋯⋯彩華はまだ登校しておらず、真海もいない
彩華と一緒に登校しなかった理由としては、彩華が寝る間も惜しんで練りに練った計画を夏目さんに話す為だ
真海の本心を知るだけならばまだしも、夏目さんの彼氏──しかも節操がないバスケ部エースを見返すとなれば、物事が急激に複雑化する
夏目さんは学年トップを争う美女⋯⋯
そう言った意味では、彼を一筋縄で見返す事は出来ないだろう
早朝にALINEで彩華とやり取りしていて、彼女が考えた作戦、"打倒拓哉"とやらは昼休み、俺にも詳しく話してくれるらしい
無論、一方の俺もただ手をこまねいてる訳じゃなかった
昨晩、彩華に強く勧められて美容室に行き、イメチェンをした所だ
流石に前の陰キャ過ぎる姿で美女二人と同じ土俵に立つのも気が引けたし、いい機会だと思ってな
⋯⋯髪型を変えたからか、妙にクラスメイトの視線を感じるな
それがどういう目なのかは、あまり深く考えないでおくが⋯⋯それにしたって恥ずかしいな
話は変わるが、この高校では校則上どうしてもセットと言うものが出来ない
髪の長さも一定の長さを超えれば校則違反となり、指導の対象となる
まずは身嗜みから整えようと考えて、彩華と夏目さんのアドバイスのもと、校則に抵触しない程に髪型を変えた
確かウルフカット⋯⋯って言ったかな?
男子も女子も出来る万人受けしやすい無難な髪型だが、問題は俺に似合っているかどうかだ
結果としては、昨晩の美容室終わりに会った彩華は頬を赤らめて「かっこいい」と、夏目さんは「凄く似合ってますよ」と言ってくれたが、正直そこまでの自信は無い
と言うのも、これまでろくに自分磨きをしなかった事と自尊心の低さで、なす事自信が湧いてこないんだ
⋯⋯まぁその自信を出すべく始めた男磨きだし、似合わなかったらまた別の髪型を試せばいいだけの話
「よ〜っす」
程なくして雅俊が登校
そのまま俺に声だけかけて席に座る
「うおっ、お前髪型変えたのかっ」
「おはよう。んま、ちょっとイメチェンをな」
⋯⋯綺麗な二度見だな
髪型の変化に気づいた雅俊が俺の顔と髪型を交互に見据えている
「⋯⋯なんだよ?」
「いや似合ってるなと思ってよ。それに裕介、お前⋯⋯垢抜けしたらめっちゃ化けるんじゃねえか?」
「は?」
驚きと困惑が入り混じった声が漏れる
「⋯⋯言っちゃ悪いがよ、昨日までのお前は絵に書いたような陰キャだっただろ?」
「まぁ否定はできないな。それがどうかしたか?」
改めてそう言われると腹が立つが、友人に対しては結構ズバズバとぶっちゃける奴だから悪気は無いんだろう
流石に他にかける言葉があるだろうと言う感想は心の内に留めておく
「陰気臭いはまだ残ってるが、この学年の9割の男子が羨む顔の整い具合だぞ」
「⋯⋯冗談だろ?」
またいつもの軽口だろうと軽く流そうとしたんだが、雅俊とは思えない真面目な口調で言われてしまい、俺の調子が狂う
「嘘じゃねえ大マジだよ。その調子で見た目整えれば女子なんてイチコロだぞ?」
男のお前にそれを言われても説得力が⋯⋯
⋯⋯とはいえ、悪い気はしなかった
普段おふざけキャラの雅俊がこうも真っ直ぐ褒められると、流石の俺も少し考えてしまう
⋯⋯もしそれが本当なら近い将来、真海を見返せるんじゃないかなってな
そこから彩華から渡された手鏡で自分の容姿について吟味していると、程なくして俺がちょうど考えていた人物が登校してきた
⋯⋯真海だ
彼女の席の前で駄弁る女子組に笑いながら「おはよ〜」と声をかける真海
その姿を無意識に見続けていた俺と、こちらに視線を向けた彼女
一瞬だが目が合い、俺は直ぐに逸らす
すると彼女の足音が近づいてきて⋯⋯
「おはよう裕介」
予想外な事に声を掛けられてしまった
「⋯⋯おはよう」
ろくな会話をしていなかったせいで、その挨拶から俺の二人の間にだけ気まずい空気が流れる
何か話すことがあるのかと、口を開こうとした瞬間
「────その髪形すっごくかっこいいわよっ」
一体何なんだ。
彼女は言い残し、小走りで自分の席へと戻って言った
突然の褒め言葉に、俺は顔を赤くしてしまう
「⋯⋯⋯」
その場面を横目で見ていた雅俊がほらな?と言わんばかりに、自信満々と眉を上げている
真海の情緒が全く見えてこない──
お世辞なのか?しかし誤魔化すように女子と早口で話す様子とあの後ろ姿⋯⋯俺には恥ずかしがっているようにも見えた
真海から直々に言われて、照れてしまう自分
場を切り抜ける為の場当たり的な発言──そう言い聞かせ、勘違いしないように自らの頬を打つ
「⋯⋯何やってんだお前?」
「何でもない、気にしないでくれ」
真海の発言に気を取られて頬を打ち、何とか我に返った頃⋯⋯
ふと教室の外を見てみると、そこには彩華の後ろ姿が
アイツ、いつの間に⋯⋯
教室の外で夏目さんと話していて、少しもしないうちに2人は笑顔で手を振り合い、別れる
残念ながら、俺らと夏目さんはクラスが別
俺らは3年2組で、夏目さんは隣の3年3組
夏目さんは自分の教室へ向かい始め、手を振り終わった彩華は俺らの教室の中に入る
「「⋯⋯⋯」」
⋯⋯ん?
彼女が真海の後ろを通る際、瞬間的に険悪な空気が流れたように見えたが、気のせいだろうか
そんな事を気にしている間もなく、彩華が自分の席へと辿り着く
「ゆうくん、雅俊くん、おはよう!」
俺と雅俊に無邪気な笑顔で挨拶してくれた彼女からは暗い気配を全く感じさせない、そんないつもの彩華が目の前にいる
⋯⋯やっぱり考え過ぎか
「ん、おはよう」
「おはよう彩華ちゃん!」
俺の友達って事で、彩華に雅俊を紹介するとそれなりに仲良くなってくれたのが1週間前の出来事だ
流石に友達関係って事で、俺と彩華の本当の関係は雅俊には伏せている⋯⋯
飾り気のない彩華の性格からなのかは分からないが、こいつの前で多少堂々とイチャついても疑われないのは不思議だけどな
カバンを机の横に掛ける彩華を見詰め、そんな事を考えるていると俺の前の雅俊が口を開く
「なぁなぁ彩華ちゃん」
「ん、なに〜?」
続けて雅俊が俺の髪の方を指差す
「⋯⋯めっちゃ似合ってると思わね?」
「えっ?」
彩華の目線が雅俊から俺の髪へ
「う、うん!かっこいいと思うよ!すっごくっ!」
雅俊の差した方を見た直後、途端に上擦る彩華の声
しどろもどろになりながら赤く染まった彼女は逃げるように顔を逸らし、教科書などを乱雑に机へ突っ込む
⋯⋯もしかして、また照れてるのか?
その異様な焦り具合の彩華を見ていた雅俊
俺の机に椅子を近づけて、唇を控えめに動かしながら言葉を紡ぐ
「あれ、お前がかっこよくて赤くなってるんじゃねえか?」
彩華に聞こえない程度の小さな声⋯⋯
昨晩、この髪型を見せると彩華は隠さず照れてくれた
一度見せているから2度目はないと思っていたんだが、今回も照れてくれたのなら⋯⋯俺は凄く嬉しく思う
⋯⋯彩華が照れてくれた事も、真海が俺に初めて「かっこいい 」と言ってくれた事も自信に大きく繋がった
周りに雅俊やクラスメイトがいなければ、俺も彩華に対して赤面し、目を逸らしているはず
彩華がそう反応してもなお、こうして冷静を保ててるのが不思議なぐらいだ
「ホームルーム始めるぞ〜、さっさと席につけ〜」
おっと、もうそんな時間か⋯⋯
思いがけない事態が連発すると時間の経過があっという間だ。クラスメイトのほぼ全員が教室内にいるに加え、知らぬ間に担任が教卓に立っているし⋯⋯
それにしても、イメチェンは思いの外成功とは驚いた⋯⋯
モチベーションはどんどん上がる一方
次はどこを直すべきか、昼休みにでも2人に相談しようかと考えていると、皆が席につく
そして担任の一声で、長い1日が始まる
お読み頂きありがとうございました!
前書きにて2人のイラストを掲載しましたが、いかがでしょうか!
2人の性格と特徴を、俺絵師様には大いに表現していただけたと思います!
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