#1 失恋
『受験期だからその⋯⋯今は恋愛してる余裕ないの。ごめんね⋯⋯』
思い切り落ち込んだ。チビの頃から俺に優しく、お世話をしてくれた幼馴染『愛月真海』に心からの拒絶をされてしまったダメージは相当大きかった。
1度、2度と執拗く告白をしてきた俺『小鳥遊裕介』にとっては当然の末路だ
告白終わり、自分の教室の机に戻っては項垂れ孤独に涙を流していた。
1度目は急がなきゃと答えをはぐらかされ、2度目に至ってはまた今度話そうと、後回し⋯⋯
もう⋯⋯これ以上は真海に迷惑をかけるだけだ。
小さい頃からイケメンとも言えない俺と一緒に居てくれた、時には喧嘩したりもしたけどそれでも俺の家に来てご飯を作ってくれたり⋯⋯家事周りを請け負ってくれたり。
思えば真海からしたらそれは小さい頃からの"習慣"で、それ以上でもそれ以下でもなかったのかもしれない
────正直、自分自身でも嫌になった。
こうやって断られてもなお、未練タラタラで真海の笑顔を思い浮かべてしまうんだから
これからの自分への戒めとして、頬を思い切り引っぱたき──
「⋯⋯よしっ!」
苦し紛れの決意で何とか次へ踏み出そうと席から思い切り立ち上がった。
それが俺を次なる一歩へと踏み出してくれる、その一手になると信じて──
〜〜〜
校門を出て、家路に就いた頃。
何だか、心に大きく穴が空いた気分だな⋯⋯
夕陽が建物の隙間に沈み、街の灯りがぽつぽつと灯り始める。
いつもなら好きだったこの時間が、今日はやけに寂しく感じた。隣には毎日居てくれた真海はいない。
目を閉じれば、ついさっきの言葉が頭の中に思い浮かんで⋯⋯クソッ、さっきからこんなこと考えてばっかだ。
「ッ⋯⋯」
気がつけば涙すら出てきていた
思った以上に精神的なダメージが大きい⋯⋯
生涯一緒だった女の子から拒絶されるのがこんなにもキツイものだとは⋯⋯思ってなかったなぁ
それに寂しく重い足取りで帰り道をゆく俺の姿、他の人から見たらどう映ってるんだろう⋯⋯
「ん⋯⋯あれって?」
ふと顔を上げれば、そこには綺麗で目が釘付けになってしまう、そして──見覚えのある後ろ姿があった
真海⋯⋯?
真海と俺の家は向かい同士
鉢合わせすれば気まずくなる、と俺は普段よりもかなり遅い時間に校門を出た
しかしこうして彼女の姿があるとなると、真海も俺とほぼ同時間帯で校門を出たのだろう
「真海と、あの制服⋯⋯別の高校の男子か?」
真海の隣には、俺達の高校とは別の学校の制服を着た男子が居た。
足並みを揃えて歩いている事から一緒に下校中って感じか⋯⋯
「まさか⋯⋯」
⋯⋯俺の頭の中には、嫌な憶測が飛び交う
言葉にするのすら辛い、真海とあの男子の関係⋯⋯
俺はダメとは分かっていても自身の身体を止めることは出来なかった
────気配を殺して物陰から物陰へ。
まるで手馴れたストーカーのように、2人の後ろの物陰へと張り付いた
聞き耳を立てて、会話を聞こうにもまだ距離が遠く、具体的な会話の内容は聞き取れなかったが⋯⋯
凄く⋯⋯楽しそうだ、な⋯⋯
横顔から見える、これまで俺に向けてきた笑顔よりも楽しそうな表情⋯⋯
俺の傷口はどんどんと抉られる。塩を塗られる感覚に似た痛みが心に。
『⋯⋯くんったらもう〜!』
⋯⋯聞こえてきた。真海の声が
俺にはもう男側の声を聞き取る余裕すらなかった。俺の耳に入ってくるのは真海の声だけ
楽しそうな声を聞けば聞くほど、心には新たな傷が作られる
『アイツは私の幼馴染ってだけ!"浮気"だなんてあんな根暗な奴とは万にひとつもないって〜!』
⋯⋯⋯
根暗で真海の幼馴染、俺の事を話しているのか⋯⋯?
その言葉を聞いた瞬間、俺の感情はどこかへと行ってしまった
心の傷口は変わらずどんどんと増えていく
感情だけがどこかへと消え、まさしく痛覚の無くなった俺は次の物陰へと移動
『幼馴染ってだけで付き纏われてさ?流石にもう限界!今度告白してきたら、不満ぶちまけちゃおうかなーってっ』
『やっぱりそれが良いと思う!?もう釣り合ってないってだけ言っちゃおうかなぁ⋯⋯』
⋯⋯⋯そう思われてたん、だな
小さい頃からずっと、ずっと真海が好きで追いかけて来たこの足は今、そこで歩みが止まった
真海が嫌いになったから、失望したから⋯⋯とかそんなしょうもないそんな理由じゃなく。
俺が不甲斐ないばかりに、俺に優しくしてくれていた真海はずっと俺に愛想笑いをしてくれていたんだと。
自分の情けなさから来るその思いから、動き続けていた足は勝手に歩みが止まったんだ
そっか、そうなんだな⋯⋯
真海にとって俺は邪魔な存在
"浮気"とか言っていたし、恐らくあの隣にいる男が真海の現彼氏なのだろう
ずっと彼氏持ちの幼馴染を想い続けて失恋しては傷つく。
なんと自分勝手な男なんだろうな⋯⋯
ただ、これで決心はついた気がする
真海が今で幸せなら、"単なる幼馴染"である俺は彼女の幸せ願うのが筋と言うものだ
「⋯⋯末永くお幸せに」
出来た心の穴を今の瞬間で塞げた訳ではないけれど⋯⋯でも、何かが変わった気がする
諦めて彼女の幸せを願う──その心だけは先程よりも揺らぐ事の無い物になった気がした
俺、未だに泣いてたのか⋯⋯
俺の頬には沢山の雫が流れている
会話に集中するあまり自分へ意識を集中できてなかったから気がつけなかったのだろう
「少し、思い出浸りにでも行こうかな⋯⋯?」
このまま家へ帰ろうとすると場合によっては真海と鉢合わせしかねないし
それに気づかれず家に帰ったところで、傷心のあまりずっと泣き続けて真海の事を考えてしまう──そんな気がしてならない
そう思って2人から目を逸らし、俺はかつて幼馴染の真海とよく遊んだ近くの公園へと足を運び始めた
最後にこれまでの思いを馳せるのも失恋を乗り越える足がかりになると信じて。
お読み頂きありがとうございました!
続きが気になる!面白い!など思ってくださればよろしければ評価、感想やブックマークをいただけますとすごく励みになります!
2日に1話を目処に更新予定です!