第93話 仲良くやっていけそうだね
さんご先輩のカメラ修業は過酷を極めるものだった。
黒い自転車に乗ってハリセン、メガホンを手にしたさんご先輩に先導されてたどり着いた公園でピント合わせの特訓が始まった。
「はいっ、次はあの烏の目!」
さんご先輩が指定する被写体をすばやくファインダーに入れて、手動でレンズのピントを合わせてシャッターを切る。
動く被写体が多いので、しっかり脇を締めてカメラをホールドしてピントを合わせないと手ブレとピンぼけでひどい写真ばかりになる。
「う~ん、まだまだ失敗してる写真は多いけど……ほら、これなんてすごく上手く撮れてる。
ピントもあってるし撮りたい被写体をうまい具合にファインダーに入れて余白まで作れてるでしょ」
上手く撮れると一緒に液晶を覗き込むさんご先輩がこんなふうに褒めてくれるのでモチベーションが途切れない。
隣で液晶を覗き込んでいると距離が近くてちょっとドキドキする。
そんなこんなであっという間に3時間も経っていた。
ずっと首から下げていた「私は朴念人です」プレートは段ボールがもうよれよれだし、腕はカメラを構えてピントを合わせるのに力が入りすぎてパンパンになっていた。
ふぅ~と一息つきながらベンチに座る。今日はこれで解散らしい。
ピトッ
後ろからいきなり冷たい缶をほっぺたにつけられる。
「うひゃぁ」変な声が出てしまった。
「アハハ……ゴメンゴメン。喉乾いたでしょ? コーラでも飲みなよ」
真っ黒でごつい自転車のスタンドを立てて離れていたさんご先輩が俺の後ろから冷え冷えのコーラの缶をほっぺたに押し付けたらしい。
ちなみに自転車は光画部の備品らしくて過去の先輩の寄贈だそうだ。昔の特撮映画に出てくる《《ドリル戦艦》》の名前がついているらしい。
「いきなりハードでビックリしました。写真部って文化部だと思っていたから光画部がいきなりスパルタでビックリしちゃいましたよ」
俺が言うと先輩は苦笑いしながら
「昔の先輩はもっと厳しい人もいたくらいだよ。今はデジタルだから失敗しても録りなおせばいいだけだけどね。
フィルムは失敗したかどうかが現像するまで分からなかったから本当に大変だったしね。
まあ、最初のうちはこうやって、オートフォーカスにしておいてカメラのシャッターを半押しにしておいてピントがあったらもう一段押し込んでシャッターを切ればいいから」
そういうと俺の手から取り上げたカメラでパシャっと俺の顔を一枚とるとニコッと笑う。
「ね、簡単でしょ? とりあえずピント合わせの練習の時以外はこうやってオートで撮っちゃえば好きな写真が撮れるからまずは写真を撮ることを好きになって欲しいな」
心が折れかけていた俺に最後にそんな簡単な方法を教えてくれる。
「向こうでみおちゃんも写真撮ってたよ。後でみおちゃんが撮った写真を見せて貰えばいいよ。彼女がうちの部のエースだから。絶対勉強になる」
俺が頷くとさんご先輩が自分の分のコーラを一口飲んでから言った。
「仲良くやっていけそうだね」
今日一の笑顔が花開くようだったので、俺は思わずカメラを向けてシャッターを切っていた。
シャッタースピードとかフィルム感度とかは割愛!
カメラの話はさらっと流します。間違っている部分は作者の責任なのでご指摘あればご教授ください。
ドリル戦艦の名前が知りたい方は「海底軍艦」で調べてね。