第92話 いつかフィルムカメラで撮れるように
「まあ、誕生日のプレゼントもくれたし、今回だけは許してあげる」
そう言ってさんご先輩は俺の方を向いていた顔を右に向けて耳を見せてくれた。
そこにはプレゼントしたピンク色のさんごのイヤリングがあった。
「ええ、似合ってますよ。さんご先輩にぴったりです」
うん、やっぱり似合ってる。
「ありがとう……それとそのさんご先輩っていうのはこれからも続ける気なんだ?」
聞かれるので頷いておく。
「はぁ……みおちゃんから聞いてたとおりね。多々良くんがとんでもないたらしになってるから気を付けろって言われたけど、本当にこれから要注意だわ」
さんご先輩に呆れ声で言われるがたらしと言われるのは心外である。
女性関係に関しては特にここが貞操逆転世界であることもあり気を付けて生きているつもりだ。
「まあいいよ。今日は1日この部室の外に出るときもその首に吊るしたプレートを付けたまま行動すること。それで許してあげるんだから感謝してよね」
さんご先輩がそう言ってやっと立つことを許された。正座で足がしびれてぷるぷる震えて生まれたての小鹿のようになる。
パシャパシャ! と後ろからシャッター音がするので振り返るとスマホを構えている藤岡がいた!?
「ひょっとして最初からいたの?」俺が聞くと、「いたよ」とあっさりと答えが返ってきた。ギャルのくせに存在感を消していたらしい。何その盗撮用ステルスモード。
正座から土下座までそして生まれたての小鹿モードまで、黒歴史を思いっきり撮影されたらしい。
藤岡は脅して俺をモノにするつもりはないと言っていたがこの写真は脅迫材料でなくて何なんだろうか?
「ああ、恭っちの可愛いところを残しておきたいって思って。クラスの皆にもこの写真が売れたりしないかな?」
絶望的なことを言われる。こっちの貞操逆転世界に来てからどんどん黒歴史が増えている気がする。今回に関しては自分のやらかしがあるので説教モードで藤岡のスマホデータを消すことも出来ない。
「はい、この話はここまで。
ここから先はデジカメ講座だよ。私とみおちゃんでみっちり仕込んであげるから。
今日1日でファインダーをのぞきながら被写体にピントを合わせることが出来るようになるまでスパルタで進めるからね。もう遠慮なんてしないから。
オートフォーカスなしで写真が撮れるように……いつかフィルムカメラで撮れるようにしっかり仕込んであげるから覚悟してね」
さんご先輩はスパルタでヤル気らしい。そして俺をフィルムカメラに転向させることを諦めてないようだ。こうして俺の光画部での特訓の日々が始まったのだった。