第91話 全力で土下座に切り替える
「こちらお借りしていたパーカーでございます」
俺は正座したまま、スススっと借りていたパーカーの入った紙袋を差し出す。もちろんちゃんと洗ってある。
さんご先輩は右手で持ったハリセンをパシパシと左手で受け止めながら
「それが怒られてる原因と思ったのかな?」と聞いてくる。
これ絶対違うやつ……なんだろう、藤岡が言った通り自分で気付かないといけないと思うのだが全く心当たりがない。
確実に日曜日のデジカメ購入の際に何かしてるはずなのだが……
「はぁ……本当に自覚がなくてやってるんだね。……ブツブツ……こんな人のために一晩思い悩んでテストで赤点取りかけたなんて……」
後半小さな声で聞こえなかったが、やっぱり俺が無自覚にやらかしているのは間違いないらしい。
「えっと……月曜日に部室でみおちゃんに全部聞いたんだよ。
多々良くんが撮影旅行に行きたいのは村上祐樹君っていう男の子の水着の写真を撮りたいからっていうことで間違いないのかな?」
さんご先輩に聞かれる。ん?……日曜日にそう説明してなかったっけ?
「そうですけど……?」俺が間抜け顔をしてるのが分かったのだろう。さんご先輩がもう一度ため息をつく。
「あのね、多々良くんは日曜日に水着の撮影会の話をした時、祐樹君の話を一切出してないっていうのはわざとじゃないんだよね?
光画部の撮影会に部員じゃない子を連れて行こうとしてることが気まずくて黙っていたとかじゃないんだよね?」
聞かれるので頷いておく。そもそもゆうきの話をしていなかったという自覚がなかった。
「分かった? 年頃の性欲も普通にある女子に向かって、男子が二人っきりで水着の撮影会に行こうって誘ってる様にしか聞こえなかったんだよ?
前も言ったけど 年齢=彼氏いない歴の処女の私が期待して夜も寝られなかったのは私が悪いんじゃないよね?」
さんご先輩に言われて、血の気が引く。童貞男子が女の子から二人っきりの水着撮影旅行に行くことを提案されたら普通その後色んな展開があるって想像するだろう。
それはすごく進んで想像しちゃうだろうし勉強が手につかなくても仕方ない。これはまたいつものパターンか!? さんご先輩無罪! 俺有罪!
「すいませんでした~」
俺は正座していたので全力で土下座に切り替えるのはめちゃくちゃスムーズだった。