第86話 朝にランニングするようにしようかな(陽菜視点)
「ああ、そうだ。今年の夏休み光画部で海に撮影旅行するんだけど陽菜も来ないか?」
電車に揺られながらうじうじと悩んでしまって黙り込んでいた私を恭介くんが旅行に誘ってくる。
いいの? 私がついていっちゃって邪魔にならないの?
「え……部員じゃない私がついていっちゃっていいの? 邪魔にならない?」
心の中がそのまま素直に出てしまう。本当はさんご先輩と一緒にいるのに邪魔にならないってストレートに聞いてしまいたい。
「えっと……陽菜とはずっと疎遠になってて遊びにとか行けなかったから、もし陽菜が部外者だからダメって言われたらモデルってことにしてもいいし、いざとなったら部員になっちゃえばいいんだし。
それに俺が陽菜のことを邪魔にすることなんて絶対にないから」
なんだろう、恭介くんがすごく私に来て欲しそうにしてるのが嬉しくて気持ちがふわふわ浮き上がってくる。
「免疫抑制剤を使ってるから日焼けがダメなのも知ってるし、海水浴も気をつかうのは分かるけど体調をみながら楽しめばいいと思うし。日焼け止め塗るのが大変なら手伝うし」
なんだか必死に言ってくるので思わずクスクス笑ってしまう。
「そんなに私の水着姿を写真に撮りたいの? 恭介くんのエッチ。それに……日焼け止めを塗るとかとんでもないこと口走ってるよ」
からかうつもりで言ってみたら想像以上に恭介くんが真っ赤になったのでつられて私まで真っ赤になってしまった。
この前のパジャマの写真みたいに私の水着姿をオカズにされちゃうのかもしれないって思ったら頭がクラクラしそうになる。
「いいよ、私も久しぶりに海に行ってみたい。海……楽しみだなぁ」
なんだかモヤモヤしていたのが全部吹っ飛んじゃった。心臓の手術してから一度も行けていない海。行くんだったら好きな人と、恭介くんと一緒に行きたい。
それに悩んでることだってそうだよね。さんご先輩って人と恭介くんの関係だって他人は他人で自分は自分に出来ることをしていくしかないんだから。
恭介くんとまた一つ新しい約束が出来たことが純粋に嬉しかった。
駅に着いたら私は家から自転車に乗って来ていて、恭介くんは徒歩で来ていたけど恭介くんが家まで送ってくれるという。
自転車を押して歩こうかと思ったら自転車に乗っていいよって言われた。
買い物したディバッグと恭介くんの荷物をママチャリのかごに入れて走ると恭介くんが走ってついてくる。
恭介くんがペースを上げると自転車の私の方がついていくのがやっとかも。なんとなくマンガで見た部活のマネージャーみたいで楽しい。
「そういえば3日前の夜、走っていたよね?」
窓から見たランニングに出ていく恭介くんの姿を思い出す。
「男の子はあんまり夜遅くにランニングしない方がイイよ。痴女の人が出るんだって」
恭介くんが襲われたらいけないから言うと恭介くんが頷いて
「じゃあ朝にランニングするようにしようかな。とりあえず春休みは朝走ることにするよ」
っていうので私も自転車で一緒に走ろうかと思う。
そしたら春休みも毎日会えるからきっと楽しいよね。
もう一つ約束が出来るかもしれないことを嬉しく思いながら今は二人で一緒に走れているこの時間を大切にしようとペダルを踏む脚に力を込めた。