第80話 そのパーカー貸して貰っていいですか?
待ち合わせの10時まで30分も早く着いてしまったので、今俺は中古カメラについてネットで検索している。
桜島先輩は光画部部長らしく今どきのデジタルカメラやデジタル一眼についてもある程度知識があるようだが、俺には予備知識すらないので少しでも予習して迷惑をかけないようにしないと。
「あのさ、君一人なの? だったら私と一緒にお茶しない」
声をかけられて顔をあげると年上のおねーさんがいた。大学生くらいか? トップスにノースリーブのセーターを着て下はチェックの生地のミニスカートのなかなか露出度の高いおねーさんに声をかけられたようだ。
ひょっとして生まれて初めての逆ナン?
「えっと……待ち合わせ中です」答えると
「そう? でもスマホ弄ってて退屈そうだし、ここが見えるお店がすぐ近くにあるからそこで待ってれば待ち合わせてる相手も見えるから大丈夫だよ、行こうよ」
ちょっと強引だな。と思っているとどうも目線がずっと俺の胸元……特にシャツの合わせと胸のあたりに集中している。
入院中も思ったが、性的な欲望のこもった目線というのは凄くよく分かる。今日は普通のシャツを着てきてるから大丈夫だと思ったんだけど。
「多々良くん、お待たせ~」
桜島先輩が時間より15分も前について声をかけてくれた。チっと舌打ちしながら女子大生(?)が離れていく。
「多々良くん、待たせちゃってゴメンね……ってまだ待ち時間前だよね? それにその格好……今日ってひょっとして本当はデートのつもりだったの?」
赤い顔をして桜島先輩がチラチラこっちを見てくる。ちなみに桜島先輩の格好はジーンズを裾をまくって履いていて足元はスニーカー。トレーナーの上にパーカーを合わせるというかなりボーイッシュな格好だった。
凄く似合っているが男友達とのお出かけという感じの男女のデートを意識させない感じ。この貞操逆転世界ではよくいるオシャレに力を入れないタイプの女子っぽかった。
「えっと……多々良くんっていつもそうやって素肌の上にじかにシャツを着てるの?……しかも白くてちょっと透けちゃう地のシャツってエッチすぎるよ……うう、目を合わせられなくなっちゃうよ」
純情な童貞少年のような表情で下を向いてしまった。そこで俺はやっと自分のミスに気付いた。
しまった! 完全に元の世界と同じ感覚で服装を選んじゃってた!? 今の格好ってノーブラで胸元の空いた服を着て駅前で乳首スケスケの格好で相手を誘ってる痴女女子高生の裏返しだった。
それは処女で彼氏いない歴=年齢の桜島先輩が誘われてるのかと思って緊張して真っ赤になるし、道行く女性にチラチラ視姦されるし、女子大生(?)がヤリ目と思ってナンパしてくるよ。完全に俺が悪いじゃん!
俺は急に恥ずかしくなって胸の前で自分の腕で抱きしめるようにガードすると……
「す、すみません桜島先輩……ちょっとそのパーカー貸して貰っていいですか?」
絞り出すようにそういうのがやっとだった。