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第73話 遠慮されてるみたいで寂しいから

 とまあこんなことがあったのは元の世界の話で、こっちの貞操逆転世界でさちえさんとお風呂に入ったり目の前で勃起したことがあったかどうかは定かじゃない。


 むしろこっちの世界の多々良恭介が姫川家と疎遠になった時期から考えても()()とは思う。

 それにこっちのさちえさんが相手だと目の前で勃起なんかしたらあっさりその場で筆おろしされちゃいそうだし(偏見?)


 前の世界での俺の筆おろしはヒナがしてくれたし、初恋もハジメテのエッチも全部幼馴染相手だったと言い切れるけど、精通だけは陽菜ママに持っていかれているわけだ。


 こちらの貞操逆転世界のヒナママから今日の昼に手紙と一緒にオカズとして渡された写真3枚はそれぞれ肌色が多くてとてもエッチで、きわどいところこそ写っていないもののこの貞操逆転世界に来てから男向けのオカズの少なさで苦労した俺には一撃必殺で心を持っていかれてしまうものだった。

 写真が収められた制服の左の内ポケットを胸の上から押さえる。宝物にしよう。


「た、多々良くん?……いきなり心臓を押さえて目をつぶってどうしたの? ひょっとして心臓が苦しいの?」

 隣を歩いている陽菜が心配そうに声をかけてくる。おおッと……陽菜に余計な心配をかけるのはよくない。

「大丈夫だよ……今からの話し合いのことを考えてちょっと緊張しちゃって」

 嘘ではないが当然さちえさんから貰った写真のことは伏せる。

 陽菜のお母(さちえ)さんの写真が最高だからポケットを押さえていたとは口が裂けても言えない。


「ふ~ん……そうなんだ。そういえば多々良くんってクラスの女の子と結構下の名前で呼び合っているよね?」

 陽菜の家がだいぶ近づいてきたところで陽菜が聞いてくる。言われてみるとそうだな。あだ名で呼んでくれと頼まれている女子以外はほとんど入院中に遊びに来てくれた時に下の名前呼びになっていた。

 例外はお見舞いに来なかった小烏こがらすくらいか?


「ああ、入院中に何かそういう話になって……俺もクラスに早く馴染みたかったから」

 貞操逆転女子(野獣の群れ)に馴染み過ぎた気もするけど。

 陽菜がちょっと唇を尖らせながら、

「私は一回もお見舞いに行けなかったのに……」

 とつぶやいているがこればっかりは俺のPTSDの原因が事故とヒナ(俺の死亡理由)だったのだから仕方がない。


「それで姫川さんはクラスの女子と俺との名前呼びが気になってるの?」

「気になってるのは『姫川さん』呼びの方だよ。多々良くんが皆のことを名前で呼び合うなら私もそうしたい、私だって『恭介くん』って呼びたい」

 陽菜に「恭介くん」って呼ばれた。元の世界では出会ってすぐに「恭ちゃん」呼びになって、中学で疎遠になってその後付き合いだしたら「恭」で、こっちの世界に来てからは「多々良くん」だったから「初()()くん」だ。

 陽菜に呼ばれるとなんだか新鮮でドキドキしてしまう。


「い、いいけど……もしも姫川さんがそういうなら俺も『陽菜』って呼ぶけどいいの?」

「ひ、陽菜……う、うん。望むところだよ、それになんだかかしこまってるみたいな話し方も遠慮されてるみたいで寂しいから変えてくれると嬉しいかな」

 そこまで言って陽菜は真っ赤になった。

 やっと「陽菜」と「姫川さん」の使い分け間違いをしなくて済むと喜んでる作者がいます。

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