第71話 正直に白状しよう……さちえさんだった
陽菜を守ることを決めたのはいいが、緊急の課題はさちえさんだ。
こっちの世界のさちえさんとの付き合いは短いが、元の世界での付き合いを合わせると相当長い。
それこそ物心ついたときには俺のそばには陽菜がいて陽菜のそばにはさちえさんがいた。
陽菜の父親は優秀な代わりに忙しい人で陽菜の手術費用を貯めるという目的もあって陽菜が小さい頃から単身赴任先にいることが多く、家の中では存在感が薄かった。
その分、さちえさんが俺と陽菜を見守り、俺が陽菜を守るという構図が出来上がっていたように思う。
有言実行で必要と思う事には手を抜かないしっかりとした人で、ある意味俺の両親よりもさちえさんに世話になっていた感が大きい。
そんな経験からお弁当と一緒に受け取ったあの手紙(62話参照)の返事を出さないということは本当に陽菜になにかしかねない(肉体的なお仕置ではなく俺に不都合なことをいろいろ吹き込んだりといった後々じわじわ効いてくるヤツだ)危惧が今日の放課後の訪問を俺に決めさせていた。
すごく言いにくいんだけど……あえて恥を承知で言うが、俺の精通はかなり早く小学生の時だった。
その相手はもちろん陽菜ではない。小学6年生男子が小学6年生女子に欲情して精通してたらかなり引く。
それに陽菜は中学に上がって心臓の手術をするまでは本当に成長が遅く、胸なんて本当に膨らみがあるかどうか分からないくらいだった(一緒に入浴した時に確認済み)。
ということで俺が精通をしてしまった対象を正直に白状しよう……さちえさんだった。もちろん元の世界の陽菜の母親であるさちえさんだ。
うん、小6としてはマセたガキだったってことは分かっている。
元の世界での小学6年生の時のことだ。ある日、珍しく陽菜と別行動してた俺は空がひどく曇って来ていて風が吹き出していたことに気付いていた。
その日、俺は家のお使いで同じ市内の祖母の家に行っていたのだが、陽菜はグループ学習の資料を集めるために市の図書館に行っていたのだ。
祖母の家を出るときに雨が降り出した。風も結構出てきていた。
今は亡くなってしまった俺の祖母が「恭くんが濡れんようにカッパと傘があるけぇ、これを着て濡れんように早う帰り」と傘を持たせて子供用のカッパを着せてくれた。
陽菜は図書館にまだいるのかなと心配になった俺は回り道になるが家に帰る前に図書館に向かうことにした。
かなりの風雨の中、図書館にたどり着くと陽菜はまだ机に向かって一生懸命ノートをまとめていた。
今でもそうみたいだがこういう時の陽菜の集中力はすごく周りのことが全く目に入っておらず雨が降り出していることさえ気付いていなかった。
「陽菜、雨がひどくなりそうだから迎えに来たぞ」俺が声をかけると
「恭ちゃん、迎えに来てくれたんだ。ありがとう。」
陽菜が満面の笑みで答えてくれた。俺が大好きだった笑顔で今思い出しても胸が温かくなる。