第58話 男が苦手なんだよ。まだ処女なんだから
「大丈夫よ、アタシ達には守秘義務があるからアンタの事情についてもこれ以上の詮索はしないし、アンタのオナニーの回数をカノジョに教えたりもしないから。
だから引き換えに病院内でのアンタのプライバシーに関してちょ~と侵害しちゃったのは許してよ」
急にニヤニヤしだしたので重たい話はそろそろ終わりっぽかった。
「まあなんにせよ、アンタが性欲猿じゃなくて良かったわよ。
うちのクラスの女子も結構アンタに懐いてる子がいるし、いきなりアンタが転校することになったら悲しむ子もいそうだし」
俺がヤリチンだったら転校させられてたってことね。
「そういうクラスの女子全員と関係を持っちゃうような男は考えなしでクズが多いのよ。
それはそうでしょ? 女の子の性欲に付け込んで自分の欲望を満たすことだけしか考えないような男が人間のクズじゃないわけがないでしょ。
アタシたち教師はご両親から大切な娘さんを預かっているのよ、手をこまねいてその子達がクズの魔の手に落ちるのを見てるわけにはいかないの。
男性が積極的じゃないから出生率が……なんてことは言い訳にならないのよ。必要なら人工授精でも何でもあるんだからクズに頼る必要なんてありえないのよ」
俺はちょっと感動していた。レズ風俗に行っていようがギャンブル狂いだろうがちさと先生は信頼できる大人だ。
この世界の多々良恭介と入れ替わってしまったという俺の事情は、頭がおかしいと思わるのが精々だから話すつもりはないが、こちらの事情を無理やり聞き出すつもりはないとも言われた。
つまり、俺が性欲過多の男子高生でもむやみやたらに種付けして回らなければ大目に見てくれるという事だろう。避妊は大事。とっても大事。
「ちさと先生! 感動しました。俺先生のクラスの生徒でよかったです」
思わず詰め寄って先生の手を握る。そういえば昨日先生に手を握られた時、すごい力で振りほどくことが出来なかったのを思い出した。
自分の生徒を守るために日頃から鍛えているのだろう。
この人はガチで尊敬できる大人だ。
「え!?……ええっ!? ちょ…ちょっと待って……近い近い……顔が近いって、多々良!?」
先生が真っ赤になっている。
なんで?……昨日はあんなに堂々と俺のことを誘惑してたのに。
「に、苦手なんだよ……お、お……が……」
「え?何ですか? 聞こえません」
「男が苦手なんだよ。まだ処女なんだから……こうやって男の方から手を握られたことなんてないし。性欲処理にレズ風俗使うのはそのせいだから!」
真っ赤な顔で恥ずかしいことを叫ぶちさと先生。
言われてみると昨日の夜も俺を誘惑していたのは刑事のみなもさんでちさと先生は離れたところから煽ってるだけだったかも。
悲報!レズ風俗に入り浸っている高校教師・谷垣ちさと26歳、男性経験のない処女だった。
いや、朗報かな?……どっちにしろ結婚は遠そうで当分教師を続けてくれそうだ。
ちさと先生のスピンオフとか面白そうだなって無責任な作者は思うの。