第50話 助手席のみなもさんは全然覚悟できていない
「もしもし、姫川陽菜さんのお母様でしょうか? 私は隣のクラスの1年5組の担任の谷垣ちさとと申します。
………ええ、……というわけでして………
……はい、はい、それでは娘さんは責任をもってお送りするのでご安心ください」
思いっきりヨソ行きの声で陽菜の家に電話して陽菜のお母さんのさちえさんと話をするちさと先生。
詐欺だ……この電話での話し方、保護者的には凄く信用できる感じがする。こんな性格なのに。生徒を拉致してる真っ最中なのに。
「多々良が付いてるなら安心だからイイって。
帰りは家に送らなくていいからラブホにでも放り込んでくれてイイって言われたわよ、信頼されてるじゃん」
おい~、さちえさん!? 今の真面目そうな会話の裏でそんなこと言っていたの?
陽菜が「もうお母さんってば……」とブツブツ言いながら真っ赤になっていた。ん? 元の世界の童貞みたいな反応。この世界の陽菜って可愛くってモテそうだし経験豊富かと思っていたけど意外と処女なのか?
俺たち二人の顔を交互に見比べながらニヤニヤする女教師(悪)。ちなみにみなもさん(無能刑事)がタクシーの助手席。後部座席に左から俺、陽菜、先生の順に座っている。
「あ、運転手さんそこの角を右~」
気楽そうに運転手に指示を出して、「さあ、アンタたち、すぐそこに戦場があるわよ。覚悟はいい?」なんて言っている。
助手席のみなもさんは全然覚悟できていない顔でお財布の中のお札の数を数えている。俺が本気を出すと申し訳ないことになりそうだから腹八分目を心がけて、コメをいっぱい食べることにしよう。
俺の隣に座っている陽菜はそれでもちょっと落ち着いてきたのか嬉しそう。
タダ肉が食えることが嬉しいんじゃなくて俺と一緒に昼も夜も食えるのが嬉しいって思っていてくれたらイイななんて思ってしまった。
結局どこの世界の陽菜もその世界で一番可愛いのだ。いっぱい美味しいお肉を焼いていっぱい食べさせてあげようと誓う。
さっきと矛盾しているが陽菜のためなら他の人類の財布など気にする必要はないのだ(暴言)。
タクシーが止まるとそこはかなり高級そうなお店の前。
「さあ、食べるわよ~、アンタたちも溺死せずに生きてたからこそ食べられる肉の味を噛みしめなさい」
悪徳教師が楽しそうに言うが、さっきからみなもさんが元気がない。元気づけるために美味しいお肉をいっぱい焼いて食べさせてあげよう(外道)。
陽菜が高級そうな店構えになんとなく気後れしたのか俺の服の裾をキュッと握って来たので気付かないふりをして陽菜のペースに合わせて店内への道をゆっくり歩いた。