第48話 唯一の目撃者の陽菜
「失礼します。谷垣先生はおられますか」
カラカラと職員室の扉を開けると、一番近くにいた女性の先生に質問した。この先生は元の世界でも上級生の授業を受け持っていた気がする。
「谷垣先生~、生徒さんが来ておられますよ」とちさと先生の前に送り出される。
ちさと先生はデスクで何か書き物をしていたが「それじゃあ応接室に移動しましょう」というと職員室の奥の扉からも入れる応接室に俺を連れて行った。
コンコンとちさと先生がノックして応接室に入ると、中では刑事さんと陽菜が向き合って話をしていた。
大きなソファに沈み込むようにちょこんと座っている陽菜は小動物みたいで可愛い。
体の一部、お胸の部分だけは小動物と言ってられないくらい大きいが……遺伝か? 遺伝なのか?
「良く来たね、少年。学校に復帰できたんだって? おめでとう」
入院中に何度も病室まで聞き込みに来た女刑事さんに挨拶される。
この人は俺が橋から落ちた事故について捜査してくれて顔見知りになっている水元みなもさん(26歳・独身)だ。
川に落ちて溺れた後で目が覚めて最初に俺の母親から聞いたのは、俺が川に落ちた時に陽菜が「橋の欄干から身を乗り出して写真を撮ってた俺が、おしゃべりに夢中でよそ見しながら歩いてた女の子たちにぶつかられて橋から落ちた」のを見たと証言したという事だった。
俺自身には残念ながら川に落ちるより前の記憶は一切存在していないのでどんな状況だったのか全く分からない。
気付いたら橋から落ちていた、何も見ていないし覚えていないと話を合わせて繰り返し証言させて貰っている。多分だが実際に落ちる前の多々良恭介は何も見ていないと思う。
事件性はない上に、どうやら川に落ちた俺と陽菜の二人に関して消防に通報したのはこの突き落とした三人組らしく、おかげで護岸に泳ぎ着いた俺たちをすぐに消防士さんが救助してくれたらしい。
悪意はないけど結果として通報後逃げ出しているので「業務上過失致傷」の疑いで警察が捜査していたという状況だった。
ちなみに三人組と聞くと頭に三バカトリオが思い浮かぶが、流石にそれは違うらしくお手軽な意外な犯人という展開はないそうだ。陽菜によるとOL風の服装をした三人組だったそうだ。
「今回はキミたちが生きていることもあって残念ながら犯人不明のまま捜査は打ち切りということになった。
今後は新しい情報が得られた場合などのみ動くこととなる。最後の確認のために来たが申しわけない」
みなもさんが頭を下げるがこればっかりは仕方ないことだと思う。
真冬の薄暗い夕方の時間だったし唯一の目撃者の陽菜も動転してすぐに飛び込んじゃってるからね。迷宮入りというわけだ。
え!? 意外な犯人が陽菜じゃないかって? 陽菜自身あんまり泳げないのに助けに飛び込んでるんだぞ。真犯人なわけがない。
ここからカクヨムでは「 第一部 四章 貞操逆転世界の大人って?」と章分けされていました。
なろうでも細かく章分けしたいです。