第42話 姫川さんにはいつか話せる日が (陽菜視点)
プロポーズされた!? ど、どういうこと? わ、私だって元の世界で小学校6年生の時に恭ちゃんからプロポーズされたことがあるんだけど(対抗意識)。
多々良くんの爆弾発言は二人の間にあったほわほわした雰囲気を見事なまでに吹き飛ばした。
「ぷ、プロポーズされたって、多々良くん婚約者がいるの?
婚約者がいる男の子なのに私とあ~んしちゃったの? ダメだよ多々良くん、それはもう浮気だよ」
慌てて私が言い募る。
「あ、いや……そういうマジなやつじゃなくて、いや? アイツは冗談を言う奴じゃないからマジで言ってるんだと思うんだけど受ける気は全くなくて。だから大丈夫だよ。」
多々良くんが苦笑いしながらそう返してくれる。
「じゃあ彼女とかいないの?」
思わず聞いてしまう。私変だ。凄く前のめりになっちゃってる。
多々良くんは私の顔をじっと見た後、ちょっと悲しそうな顔をしてゆっくり目を閉じて首を振った。
「いないよ。今はいない」
なんだかすごく辛そうでもうそれ以上聞くことが出来なくなってしまった。
ひょっとして私の顔を見たせいでまた気分が悪くなっちゃったのかな?
「まだ緑茶あるから飲んで。少しは落ち着くと思うし」
水筒からコップに緑茶をついで多々良くんに渡す。
物憂げな顔をしてゆっくりとお茶を飲む姿はなんだかすごく大人びて見えた。
その多々良くんの表情を見て、ああ、この人の心の中には誰か大事な人がいるんだなって伝わってきた。
私の心の中にも凄く大きな領域を恭ちゃんという一人の男の子が占めてるからよく分かった。
私の中の恭ちゃんは中学1年生のまま変わらない。恭ちゃんは元の世界で元気に暮らしていると信じているがどういう風に成長しているのかは想像もつかないし、もう会うことも出来ない。
私の心の中の恭ちゃんまでまとめて受け止めてくれるような人じゃないと私は恋愛をすることが出来ないし付き合い続けられないと思う。
きっと多々良くんと付き合う人も同じように大変だと思う。多々良くんの心を全て手に入れられなくても多々良くんのことを愛する覚悟を決めることが出来た人だけが多々良くんの隣にいられる。
「姫川さんにはいつか話せる日が来るといいな……」
多々良くんが小さな声でボソッとつぶやく。