第40話 あ~んと私の口元に寄せてくる(陽菜視点)
多々良くんを呼び出して中庭にあるベンチに誘って二人で腰かけてからお弁当箱を渡す。
「はい、どうぞ。お茶も水筒に入れてきているからこっちも飲んでね。緑茶なんだけど平気?」
多々良くんのお茶のコップを渡しながら私は考える。
元の世界で恭ちゃんに食べて欲しかったな……と。
恭ちゃんと会えなくなったあの心臓の手術の日、あれ以前の私はまだ全然お料理なんて出来なかった。
だからおママゴトでいっぱいア~ンってやって食べて貰う練習はしたけど本当に自分で作ったお料理を食べて貰ったことはなかった。
こっちの世界に来てからお母さんにいっぱい料理を習った。恭ちゃんに恥じない自分になれるように頑張った。
こっちの世界のお母さんは「男を捕まえるのは胃袋から。まずは餌付けしてから兵糧攻めよ」と訳の分からない勇ましいことを叫びながら私に料理を教えてくれた。
おかげで多々良くんの前の弁当箱にはハンバーグや卵焼き、ちょっとしたお野菜まで色とりどりのオカズが並んでいる。自分で言うのもちょっと恥ずかしいけどすごく美味しそうに出来た自信がある。
「おお、すごい。美味しそう。姫川さんって本当にお料理できたんだ」
多々良くんの嬉しそうでそれでいて安堵した表情に首をかしげる。何に安心してるんだろう。
パクパク食べる多々良くん、やっぱり男の子なんだなぁ。私のお弁当箱よりずっと大きいのにどんどんお弁当の中身が減っていく。
もっと作ればよかったかな? その気持ちいいまでの食べっぷりに見ているこっちまで気分がよくなる。
パクパクとどんどん食べている多々良くんが私のお弁当箱を覗いて質問する?
「あれ?……姫川さんの卵焼き色が違う?」
そう、私のお弁当箱に入っていた卵焼きはうちの家の味付けでお砂糖を使った甘くて黄色い卵焼き。
それに対して多々良くんのお弁当箱に入れたのは多々良くんのお母さんからうちのお母さんが聞きだしてくれた多々良家レシピのおしょうゆ味で茶色っぽい卵焼き。
卵焼きは家によって味が違うから相手の好みに合わせた方がいいわよっていうお母さんのアドバイスだ。流石はお母さんだと思う。
「へぇ……味が違うんだ。そっちも食べてみたいって言ったら困っちゃう? 半分個ずつにしようよ」
ゴソゴソした後、そう言いながら自分の弁当箱の卵焼きをお箸で半分に切る多々良くん。
そのままお箸で卵焼きを掴むとあ~んと私の口元に寄せてくる。
どどどどどうしてこうなった~~~!? ……にやりと笑うお母さんのにくたらしい顔が顔が脳裏に浮かんだ。