第37話 クスリを使って子種だけでも貰えると嬉しい
こちらの世界で意識が戻ってからの筋トレの成果を誰かに認めて貰えて褒められたのは純粋に嬉しかった。
この世界で生きてきた多々良恭介には悪いがあのままではいざという時に陽菜のことも守れないのではないかという思いが強くあった。
実際に川で溺れたときに体が重く体力も足りなかったので、少しでも陽菜が暴れたりしていたら確実に二人とも溺れて死んでいただろう。
「筋肉は裏切らない」という言葉があるが、この言葉には筋肉というものは鍛えれば鍛えただけ着実に積み重なっていくという意味もある。
トレーニングの成果を小烏のような実践的な武道家でもある女子に認められるのは嬉しかった。
けど、プロポーズはマズい。小学六年生の時に向こうの世界で陽菜にプロポーズして真っ赤な顔で頷いてもらっているからこれ以上の結婚は重婚罪だ。こっちの世界でも重婚罪のはず(だよね?)
向こうの世界だからノーカンなんて意見は聞けない。俺の一番大切な約束の一つだから。
「えっと、どういう意味?」
勘違いでプロポーズと思い込んでいる可能性もあるので一応小烏に確認する。
勝手にプロポーズだと思い込んで独り相撲するなど恥ずかしくて黒歴史確定だ。
「うむ。昨今は剣道場など後継者不足でな。
久しぶりに会ったが今のお前と番えるならば小烏道場の再興も夢ではないのではないかと思ったのだ。
二か月前とは何もかもが違う。特に目が違っているな。目に力がある。まるで別人のようだ。
男子三日見ざればという言葉、男には過分な言葉と思っていたがハジメテ実感したよ」
ヤバい、本当に別人です。見抜かれてます。武道の達人の目はごまかせなかったよ。
ついでに本気でプロポーズだった。貞操逆転世界の女子、男前すぎる!(混乱)
「えっと、俺は竹刀なんて握ったこともないんだけど。」
「2か月でその体を作ったのだろう? これから剣の道に進んでも遅すぎるということはない。それとも私みたいな貧相なカラダの女の相手をするのはイヤか?」
そう言いながら少し悲しそうな目で自分の体を見下ろす。元の世界でもそうだったが小烏の胸は見事な無い乳でその身長も相まって素晴らしいモデル体型に見えた。
えっと……元の世界で例えるとあそこの大きさに自信のない男子って感じか? 本当にストレートだな。
「いや、そこは関係ないし俺は小烏は凄く魅力的だって思ってるけど……とりあえず高校生に結婚は早すぎるって言うか」
言葉を濁すが、自分自身は小学六年生でプロポーズしていることは棚に上げるしかない。別の世界の話だし心に棚を作ろう(自己矛盾)。
「そうか、もし私に魅力がなくて結婚する気になれなくても、その時はクスリを使って子種だけでも貰えると嬉しい」
いつも凛々しい小烏からはにかんだ顔で微笑まれ、耳まで赤くなってしまった。
男前すぎて羞恥心の基準がおかしいイケメン剣士女子にタジタジだった。