第32話 俺には彼女の幸せを祈ることしかできない
クラスは別だけど明日からよろしくなと挨拶を交わして陽菜とは別れた。
何とはなく胸の奥が温かい。ぽかぽかすると言っておこう。やっぱり陽菜はどこの世界にいてもいい子だ。
元の世界のヒナだってあんなことになっちゃったけど、ファッションに頑張って自分を磨こうとする凄くいい子だったし……どうしてるかな?
元の世界で生きていてくれさえすればそれだけでいいと思う。こっちの世界に来てしまった俺には彼女の幸せを祈ることしかできない。
ブンブンブンブン……頭を振っていろいろなことを振り払う。忘れなくちゃいけないこともきっとあるんだ。
この世界の陽菜とは姫川さんとしてちゃんと友達付き合いしないと。
いくらこっちの世界の陽菜が超肉食獣女子(略して超獣娘)だからって、どこの世界の陽菜でも自分のものにしたいなんてケダモノになったら元の世界の陽菜に合わせる顔がない。
流されて童貞を奪われたいなんて思っていても実行しちゃいけない。この世界の陽菜は性欲を押さえて真摯に対応してくれた。
男子の体を弄ぶチャンスを棒に振って俺を安心させてくれたのだ。今の俺のおちんちんの写真を撮らせてくれくらい言われるかと思って覚悟していたのに……
ん? 連絡先を交換したのは自撮りでおちんちんの写真を送れっていう催促だったりしないか?
目の前に女の子がいると繊細な男子は勃起しない場合が多いから《《朝勃ち》》とかの生理現象は貴重って言う(らしい)し、朝勃ちおちんちんの写真を送れってそのうち脅迫されたりして……
イヤイヤ、陽菜を信じよう。きっと大丈夫。大丈夫だよね。大丈夫かなぁ……
心のどこかで不安を抱えながらベッドに入るとスマホに通知音が一回。
開くと陽菜から可愛いネコのスタンプで「おやすみ~」と送られてきていた。
小学生の頃の陽菜もネコ大好きだったなぁっと懐かしく思いながらこっちも《《ちょっとやさぐれた黒ネコ》》のスタンプを購入して「おやすみ…」とスタンプを返しておく。
たまたまだがこのやさぐれ黒ネコ、昔小学生の頃に俺と陽菜の家のそばにいたノラ猫のボスにゃんにそっくりだった。
陽菜が喜ぶといいなと思いながら目を閉じた。