第31話 嫉妬に似たモヤモヤ(陽菜回想)
そういう生活の中で分かったことは自分が元の世界とは違う世界の自分の体と入れ替わったこと。
元の世界とこの世界では貞操観念が逆転していて、女の子の方が男の子よりエッチなこと。
そして向こうの世界とこっちの世界で同じ日同じ時刻に二人の姫川陽菜が心臓移植手術を行ったということだった。
仮説だけど私は「隣り合ったすぐ近くの二つの世界で同時に死にかけた魂が体を取り違えて入ってしまった」のではないかと思っている。
そんなことが起こるなんて信じられないが、信じられないことなら今現実に起きている。
死ぬ直前に見ている夢という可能性もあるけど自分の知らないこととか、新しい授業の内容に十分以上の整合性があるのでとりあえずこの異世界との本人同士のとりかえばやだと思って生きていくことにした。
一番つらかったのは恭ちゃんがいなくなったことだった。正確には多々良恭介という男の子はこの世界にもいた。でもその人は多々良くんで私の知っている恭ちゃんではなかった。
生きようとする意志が魂を近くの体に入り込ませたのなら、元の世界の私の体にこちらの世界の姫川陽菜の魂が入っているのではないかと思う。それは凄く羨ましく嫉妬に似たモヤモヤを抱えさせるものだった。
きっとあっちの恭ちゃんはあっちの世界の私を幸せにしてくれる、そこに疑いを持っていないからこそ長いこと引きずった。いや、今も引きずっている。私って重い女だったんだなって思う。文字通り世界が違うから手も足も出ないけど。
こちらの世界の多々良くんとは疎遠になった。恭ちゃんを思い出すから近づくのが辛かったというのが一つと、何よりも多々良くんが私を見る目が小動物が捕食者を見る目なのでそんな目で見られたくなかったのだ。
もし万が一、元の世界に帰れたら恭ちゃんに恥じないように生きたいと思って毎日頑張りながら恭ちゃんへの手紙を書くつもりで日記をつづった。
日記を書くことが自分を見つめるきっかけにもなり、私がこの世界で起こる色々な事を客観視して受け入れるためにも役立ったのだと思う。
小学生の頃の日記については思い出せる限り再現して日記帳に書き記して残している。今の私にとってあっちの世界にいたころの恭ちゃんとの思い出は宝物だ。
心臓移植後は免疫抑制剤を飲まなくちゃいけなかったけどずいぶん元気になって体も成長した。
私が「エロビッチ師匠」だという誤解を信じた男の子に敬遠されて男友達がほとんどいなくなってしまったのは少し寂しかった。
元の世界では恭ちゃんのおかげでクラスの皆が仲良く体の弱い私でも皆の遊びに誘って貰えていたから。
特に噂に怯えていたのは多々良くんだったのは言うまでもない。