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第235話 恭ちゃん……来て……

 陽菜が全力でおめかししようとしているので慌てて止める。俺の母さん相手におめかしする必要なんてないし、そもそも体調が悪くてお世話していたはずなのにおめかしした陽菜が訪ねてきたらスルースキルがいかに高いといっても母さんがびっくりしてしまう。

 まあ、それを言うんなら陽菜の体調不良のお世話をしに行ったはずの息子が彼女になったって連れて帰って来たら結局ビックリされるのか? 今日話さない方がいいんだろうか?


 なんて心配してたけど全くの杞憂でした。

「日奈子さん、息子さん(恭介くん)と付き合うことになりました」

 たまにメチャクチャ男前な陽菜が挨拶もそこそこに母さんに宣言する。

「陽菜と付き合うことになったから……本気でずっと付き合うつもりだから応援して欲しい」

 俺も頭を下げる。と母さんの返答は軽いものだった。


「あら、まだ付き合ってなかったの? お腹が減ったでしょ。ほら、早く席に着きなさい」

 あれ……俺たちが両片思いだったのって他の人にはバレバレだった? 下手するともう付き合ってると本気で思ってる人たちもいるの?

「あ、あの……恭介くんとは今日キスしたばかりで、まだエッチなこともしてなく……ムグゥッ」

 逆にあっさり過ぎるくらいあっさり母さんから認められた陽菜がテンパってまたとんでもないことを口走っているので慌てて口を押さえる。


「陽菜ちゃんが一緒にいてくれるなら恭介も安心だわ。最近のこの子って何かあるとすぐに暴走するみたいになっちゃうから、陽菜ちゃんみたいに落ち着いた子が一緒にいてくれるとすごく安心できるわ」

 まあ、元の世界の()()()カップルみたいなものだからな。この世界的には逆転してるなりに男と女の関係としてしっくりして見えるんだろうな。


 それから帰ってきた父さんにも陽菜が挨拶して夕食を皆で食べて、俺が自分の家のシャワーで汗を流した後で陽菜の部屋に戻る。

 陽菜の熱も下がってきているし、明日は体育祭の振り替え休日で時間もたっぷりある。

 さちえさんはまだ帰りは遅くなるらしいし、俺は今陽菜の部屋の前ですごくドキドキしてしまっている。


「いいよ、お待たせしました。部屋に入って」

 陽菜がパジャマに着替える間、部屋の外で待たされていたので声をかけて貰って部屋に入る。

 ピンク色のパジャマを着た陽菜がすごく可愛い。


 陽菜はもう寝るつもりなのか躊躇なくベッドに向かう。ベッドに横たわって薄手の毛布を引っ張り上げてから、毛布に俺が入れる隙間を作って俺に声をかける。

「恭ちゃん……来て……」

 え!? ひょっとして俺誘われてる? 慌ててズボンのポケットを確認する。財布があるからコンドームが一つはあるはず。


 おずおずとベッドに入り込むと俺の腕の中に潜り込むように陽菜が体を摺り寄せてくる。そうだよね! 「恭ちゃん」って(幼馴染の名前を)呼んだからには甘えたかったんだよね。

 俺も病み上がりの陽菜とエッチするのはどうかと思うし、今日は理性の力で己の欲望をねじ伏せるから。


「ああ、本当に恭ちゃんの匂いがする……恭ちゃんだ……恭ちゃんだよ、えへへへ」

 なんだろう、寂しかったから中学校一年生のころまで戻っちゃったのかな? おっぱいは凄く立派に育っちゃってるからそんな風に抱きつかれると大変なんですが。

 でも、性欲よりももっとずっと陽菜のことを大切にしたい気持ちが強いから今日はこのまま一緒に寝ようかなって思う。


「陽菜……話したいことがいっぱいある。元の世界で陽菜がいなかった間の話とか、こっちの世界で陽菜と再会してから俺がどんな風に思っていたかとか」

「うん、私たちいっぱいすれ違っちゃってみたいだもんね。でもこれからはずっと一緒だから大丈夫だよ。明日は体育祭の振り替え休日だから一日中いっぱいお話しよう。おやすみなさい……あれ? これから私は恭介くんのことをなんて呼べばいいの? 恭ちゃん? それとも恭介くん?」

「好きな方でいいよ、どっちだって(恭ちゃんも恭介くんも)俺なんだから。おやすみ陽菜」


 ちゅっ


 軽く口づけして二人で目をつぶる。陽菜が寝息を立て始める。今日は体育祭で動いた後でペンダントを買うために走ったから俺も疲れてる。

 難しいことは明日考えることにして今日はゆっくり寝よう。おやすみ陽菜。何か忘れていることがあるような気がするけどそれも明日考えればいいや……




 夜中に帰ってきたさちえさんが陽菜の様子を見に来て、一緒に寝ている俺を見つけて大騒ぎするのはその2時間ほど後のことだった。

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