第229話 聞いている俺が真っ赤になってしまう
翌朝、眠い目をこすりながら学校へ行く準備をして陽菜の家を訪ねると陽菜の代わりにさちえさんが出てきた。
さちえさんも少し眠そうな顔をしている。
「陽菜ちゃんは熱を出して寝込んじゃったの。ちょっと疲れが溜まっちゃっていたみたい。あの子は昔からはしゃぐと疲れちゃうから。
今日は学校をお休みさせるから恭介くんはこれを持って学校に行ってね」
それは陽菜担当分の今日の昼ご飯のおかずだった。
「陽菜ちゃんが熱があるのにお弁当を作ろうとしてるから叱って寝かしつけて私が作っちゃった。恭ちゃんの口には合うと思うから美味しく食べてね、しずくちゃん達にもよろしく」
しずくは俺が告白(?)を断った後、GW明けからお弁当作りから手を引くかって確認したらそのまま作りたいって言われて今でもお弁当を作ってもらっている。
「今の『みんなの恭介くん』の状態でいきなり私がお弁当を作るのを止めたら私と恭介くんの間に何かあったのがバレちゃうでしょ? もし陽菜ちゃん一人でお弁当作りなんてしてたら下手したら陽菜ちゃんがターゲットにされちゃうよ。だから私が好きで作ってるんだからお弁当作りはこのまま続けさせて欲しい」
しずくが言うにはこういうことだった。
久しぶりの一人での登校、教室につくと教室のプロジェクターを使って藤岡が昨日の竜王旗剣道大会の様子を上映していた。
結局ビデオカメラ一台を三脚で固定したものしか撮れなくて、「あーしが撮影係だったらみんなのカッコいいところを全部バッチリ撮れたのに」とみおが悔しがっていた。
ただ、腐ってもトップクラスのインフルエンサー、来年以降の大会でのプロモーションや映像撮影、刀剣女士をうまく使った剣道の普及案などを剣道協会のお偉いさんに吹き込んで帰って来たらしく後日そういった方面での打ち合わせをすることになっている。本当に抜け目がない。
画面では陽菜が会場の隅に小さく映り込みながら「恭介くんっ! 負けちゃだめぇぇぇえっっ!!」と叫んだところだった。
聞いている俺が真っ赤になってしまう。教室に入ってきた俺に対してクラスメイトが男女問わず盛大な拍手で迎えてくれる。
「多々良くん、凄いね」
「優勝なんて凄い、見に行きたかったよ」
「陽菜ちゃんの応援が効いたんだよね。おめでとう」
宿泊訓練で一緒だった野田さん、早川さん、松本さんが祝福してくれる。この三人はみんなの恭介くん協定の中でも俺のことを多々良くんと呼んで適切な距離を取ってくれるいい子達だ。というか陽菜とのことを応援してくれてるみたいに感じることがある。なんでだろう。
松葉杖をついたひよりが左足をかばいながらひょこひょこと教室に入ってくる。その瞬間に俺の時の倍以上という凄い拍手が。
そうか、俺の試合を皆が見てたってことはもっと早い時間からひよりが活躍してるところを皆は見ていたのか。後でビデオをダビングして貰おうと心に誓う。陽菜の応援が何回でも見たいからとかじゃない……わけじゃないけどね。
結局そのまま陽菜は3日間寝込んで体育祭当日も学校に来なかった。俺もひよりも実力を発揮できなかった体育祭でうちのクラスの成績はボロボロだった。