第221話 三人をそれぞれ突き二本ずつで瞬殺してしまう
「治療って言っても……」
「テーピング用のテープなら救急箱に入れて持って来ていますし、テーピングの心得ならあります。
左の足首をガチガチに固定しちゃうことになるし、かかとの感触もテープで変わるから今まで通りに動けるか分からないですが、少なくともこれ以上足首の怪我を悪化させないように少しでも固定しないと。誰か痛み止め持ってないか?」
「多々良! 無理を言わないの! 岩清水《委員長》がせっかく対戦相手のことまで調べてくれたのよ。これ以上の無理は……」
「谷垣先生、すまない。恭介が言う通り、私はまだ試合をしたい。私自身の剣道を……私自身の剣術を恭介に見せるって誓ったから。
先生がもう無理だと思ったら私のことを止めてくれていい。だから決勝を戦わせてもらえないだろうか」
小烏の真剣な表情にちさと先生が気圧されている。
「しずくちゃん、相手のことを調べてくれて本当にありがとう。そうやって調べてくれたからこそ私は諦めたくない。
自分の力がどこまで通用するか試してみたい」
しずくもそれ以上何も言えなくなる。俺は陽菜が持っていた痛み止めを小烏に飲ませ、足首を氷で冷やせるだけ冷やしてから試合開始のギリギリにテーピングを施した。
決勝での小烏は鬼神のようだった。あっという間の三人抜き。足首をひねっているなどと全く感じさせない動きで三人をそれぞれ突き二本ずつで瞬殺してしまう。
「はじめっ!」
迎えた副将戦、面の下で不敵な笑みを浮かべる副将は小烏の突きを後ろに下がりながら捌く。
中堅戦の後、左足が傷んだのか開始線に下がる小烏が足を引きずるようにしていたのを副将は見逃していなかった。
その後鍔迫り合いに持ち込まれる。左足のせいで力が入らない小烏を弾き飛ばすようにして押し返す。後ろに倒れる小烏。
「待て!」
鍔迫り合いの押し方によっては反則が取られることもあるが今回は何も警告なし。
しかし今の転倒で小烏の左足首は完全に踏ん張りが利かなくなり防戦一方に。それでも4分間の試合時間をしのぎ切り試合は引き分けに。
小烏の連勝記録は28で止まったが、相手の大将である石動裕子を引きずり出すことが出来た。
そこからは本当に声を出して応援することが出来ないことが悔しいくらいみんな頑張ってくれた。
「ボク頑張ってくる、見ててきょーすけ」
次鋒のゆうきはその動体視力で躱しまくり、有効打突こそ出せないものの相手の小手を何度か叩いて見せるところまでした。結果は2分半で二本目を取られて二本負け。
「きょーちん、心の中でまるが勝つように応援して欲しいんだよ」
中堅の丸川にいたっては本当に大人と子供としか言いようのない体格差の中で、相手の竹刀を躱しまくって会場を沸かせた。動きがトリッキーすぎて一本に認めて貰えないが胴を打ち込んだりもした。
途中で二度場外に足が出てしまい、一本取られたがそれがなければ4分間を引き分けで終わらせる実質的な大金星だったかもしれなかった。
「恭っち、あーしがちょっとでもネバってくるからカッコいいところは任せたよ」
他の二人ほどのポテンシャルを持たない藤岡も二本取られて負けてしまったものの鍔迫り合いに持ち込んで石動の体力を奪ってくれた。
残るは大将同士の一騎打ち。竜王旗剣道大会決勝の舞台で俺に出番が回ってきた。