第212話 小烏にまで俺の本音の独占欲を見せてしまった
今の時代、本気で剣術を学んで強くなりたいなんて一握りだろう。そういう一握りに強くなる術を叩きこんで鍛え上げるならそういうやり方もありかもしれないが、少なくとも事業として収益を上げて道場の存続を望むなら時代に合わせていくしかない。
楽しみながら体を動かしたい人にはスポーツチャンバラではないが楽しく体を動かす剣術を。
護身術を学びたい人には実践的でいて成果の上がる即効性のある技術が身につく剣術を。
そしてきっかけは刀剣女士でも本気で強くなりたいと思う男女には小烏道場の本気の稽古をつけて本当の剣術を身に着けて貰えばいい。
そうすることが剣道の裾野を広げるはずだ。
『ああ、そうか……本当に恭介は私とうちの道場のことを考えてくれているのだな』
なんだろう……俺の考えを小烏に伝え終わったところで小烏の声に涙が隠れている気がする。
『すまない、恭介のことをほんの少し疑っていた。
最近は「みんなの恭介くん」とか言って女子にちやほやされていたり、ちょっと前はクラスの女子全員にふしだらなことをしていると噂が流れていたりその解決のために、その……偽物とはいえ精液を私以外の女子に飲ませたり。
私だって女なのにいつものけ者にされて傷ついていたんだぞ。いや、あれを飲みたかったわけじゃ決してなくて……そもそも恭介の以外に興味なんてないし』
最後はすごく小声だったのに高性能なスマホのマイクは全部拾って俺の耳に届けてしまう。
「ご、ゴメンな。ひよりはああいうのイヤだろうと思ったし、その……ひよりが偽物でも俺以外の精液を舐めるとかなんだかイヤで……って変なこと言ってゴメン。ひより!? おいっひよりっ!!」
スマホの向こうから返事がなくてブクブクというあぶくが立つ音が聞こえたので大慌てで大声を出してしまう。
『あ、ああ。すまん恭介。ちょっとのぼせてしまったみたいだ。風呂から上がったら電話するからちょっと待っていてくれ』
通話が切られて小烏が風呂を上がるまでしばらく待ち時間が出来た。……やってしまった。小烏にまで俺の本音の独占欲を見せてしまった。だいたい陽菜に告白するって決めてるのに他の女子にまで独占欲を見せるとか俺は本当にダメで気持ち悪い男だと思う。
しずくの見合い話の時も他の男と一緒にいるしずくを見たくないって思いから行動しちゃっただけだしなぁ。
はぁ……まだまだ修行が足りないどころか煩悩だらけだ。俺の方こそ小烏に鍛えて貰って何も考えられないくらいしごかれるべきじゃないだろうか。
着信音が鳴って小烏から電話がかかってくる。20分くらいでかけてきたけどあの綺麗で長い髪の毛は乾かせたんだろうか?
『ああ、恭介。さっきは見苦しいところを見せたというか聞かせてしまってすまなかったな』
「いや、こっちの方こそおかしなことを言ったし忘れてくれ」
『忘れるわけがないだろう。さっきも言ったが私だって女なんだ。欲しいものを欲しいと思うのは仕方ないだろう』
小烏のちょっと悪戯っぽい声。珍しいけどドキッとしてしまう。
「ああ、それでこそ俺の知ってるひよりだな。
それじゃあ話を戻すけど小烏道場再建のための第二段階! 刀剣女士小烏ひよりが最強だってことを世間に示してやろう。
親父さんの説得と護身術として見た時の小烏道場の強さの証明! 一気に世間に広めてやろう」
あと一か月後の大会で結果を出す。無謀と思うけど小烏となら案外できるんじゃないかな。