第211話 ほすと側というやつだからなかなか難しそう
小烏が今お風呂に入りながら電話をしている。
多分小烏のことだから自分が入浴中に電話を受けたからと言って俺がエッチな気分になるなんて全然考えてもいないはず。
くっ、このまま画面にあるFaceTimeのアイコンを押すだけでビデオ通話に切り替えることが出来ると思えば、ドキドキが止まらない。
小烏の入浴シーン……見たい、見たいが信用してくれてる小烏を裏切るわけにはいかないし、陽菜のことを考えたら他の女の裸を見るとか絶対ダメでしょ。
欲望はギリギリ理性で我慢できるがその代わり全身を耳にするレベルで聞き耳を立てながらの通話になってしまう。
「なあ、ひょっとしてお風呂で電話してる? さっきから水音が聞こえてるんだけど」
『ああ、ひょっとしてこうやってちゃぷちゃぷするとそっちにも音が聞こえるのか? なんだか恭介がそばにいるみたいで面白いな。うちの風呂は広くてな。お湯を張るのも時間がかかるし、今だにしゃわーもないから大変だぞ。流石に薪で炊いたりはしていないがな』
小烏家のお風呂事情を説明する小烏がお湯をちゃぷちゃぷして水音を立てるのでなんだか股間が反応してしまう。
『陽菜ちゃんちくらいのお風呂で十分なんだけどな。まあうちは道場だし昔は門下生が一度に入浴したり住み込みの弟子もいたらしいからな。
ところで電話してきた要件は何だったんだ?』
小烏の入浴ASMRに興奮して当初の目的を見失う所だった。脱線した会話を元に戻してくれた小烏に感謝する。
「ああ、竜王旗剣道大会を知っているか? あの大会から小烏あてに参加して貰えないかってメールが来てるから相談しようと思って」
『竜王旗剣道大会……ああ、知っているぞ。女子中心の5人1組の勝ち抜き戦の大会だな。うちの県からなら車で3時間くらいの会場だな。6月15日は剣道部の近郷練習会と重なってはいるな』
剣道部の女子は難しいか。いや、練習会なら何人か借りられないかな。
『ふむ、そういうことなら確認してもいいがうちの父親も指導員として駆り出されるし当日はうちの高校はほすと側というやつだからなかなか難しそうではあるな。地域の大人から子供まで参加できる剣道行事だからな。剣道の普及のためにみんな頑張っているから』
「そうか、小烏のカッコいいところを全国のみんなに知ってもらうチャンスだと思ったんだけど、そういうことなら地域で刀剣女士を売り込んだ方がいいか……」
『か、カッコ……そ、そうか。恭介がそう言ってくれるは嬉しい……ちょっと小烏道場のことを相談させて貰ってもいいか?』
「ああ、もちろん。俺がひよりの相談を聞かないわけがないだろう」
『実は父にはまだ刀剣女士という活動やねっとでの動画配信について十分に認めては貰えてないんだ。』
「え!? だってこれだけ視聴数もアップして実際に剣道場に興味を持ってくれる人も増えただろう」
『うむ、確かにそうなのだが。今道場まで来てくれているふぁんたちは厳しい稽古にはなかなかついてこれなくて父の指導に耐えられず辞めてしまうのだ』
「ちょっと待って……刀剣女士の写真や動画から興味を持ってくれた若い子にそんな厳しい稽古をつけちゃってるの?」
『ああ、残念ながら私は師範代だが未だに実戦的な戦績も上げていないし、あっても中学時代の全国大会までの成績だ。中学までは突きも使えなかったし全国優勝までは出来なかった。
とてもではないが剣道の指導員としての資質があるとは認めて貰えない。だから父のやり方に口出しが出来てないんだ』
しまった。上手くいっているとばかり思っていた小烏の刀剣女士活動。
このままじゃ小烏道場の再建どころか口コミ最悪になって下手したら潰れちゃうぞ。
親父さん相手に説得する方法を考えるしかないか。