第193話 今日からマネージャーとしてお願いします
ふぅ……なんとか無事に放課後になった。授業中や昼休みなんかの休憩時間は委員長たちとクラスのみんなががっちり守ってくれるから俺の学校生活の8割は平穏に過ごせている。
この騒動の発端になったのはうちのクラスではあるけど俺は自分が2年5組だったことを本当に幸運だと思っているし感謝している。
ちさと先生もHRの終わりに必ず俺の顔をじっと見て頷いてくれる。この人は本当に俺たち生徒のことを考えてくれている。
教員としてもなかなか打てる手もないみたいだけど元々問題を起こしたのは俺たちだからね。
「陽菜、行こうか。ゆかり部長に話は通してあるから女子水泳部の部室、えっとプールの女子更衣室に行けばいいから。俺も一緒に行くからまずはプールに向かおう」
「うん、恭介くん。私頑張るから」
グッと両手を握りしめてる陽菜が可愛い。
今日は陽菜の考えた作戦「陽菜ちゃんは恋人の上、水泳部でもマネージャーでラブラブなんだよ大作戦」を実行することになっている。
作戦名を付けたのは陽菜だ。作戦名まで可愛い。
陽菜が問題視しているのは俺が部活する時にプールのフェンスの外側から囃し立てる女生徒たちだ。水着の俺を見て下品な言葉をあげ続けるのでゆかり部長や先生たちが追い払うがいつの間にやって来てまた覗いている。
フェンスの外から覗いて俺に向かって挑発するような言葉を叫ぶような女子と何かしらのロマンスがあるわけがなく、男が欲しいなら普通に男子に優しくしてやった方がよっぽど建設的だと思う。
まあ、元の世界にもああいう心無いことを言う男たちもいたしどこだって同じということだろう。
そういう女子にマネージャーとして陽菜が男子の俺とイチャイチャすることでまともに男子と交際するとはこういうことだということを見せつけて心を折る作戦だ。
着替えを終えてゆうきと一緒に外に出る。ラッシュガードも身に着けた上でスパッツタイプの競泳水着。もうイヤらしい目線で見られることはない……こともないけど少なくとも問題はない。
今日は幸い曇っているから陽菜が直射日光を浴びまくることはない。もっとも曇天でも紫外線というのは意外と雲を抜けて地表に届いているので陽菜には日焼け止めもしてもらっている。
外野の声が多少うるさいはずだが全く気にならなかった。だって今目の前にはジャージのズボンとTシャツを着て野球帽のようなキャップをかぶった陽菜が目の前にいて、その陽菜に見惚れていたから。
「恭介くんお待たせ。今日からマネージャーとしてお願いします」
俺とゆうきにぺこりと頭を下げた後、陽菜はトテトテとプールサイドを小走り(？)のつもりなのかなってスピードで移動してゆかり部長のもとへ。
陽菜がペコリと頭を下げて挨拶している。
「はじめまして、北野部長。いつも恭介くんがお世話になっています。恭介くんの彼女の姫川陽菜です。今日から男子水泳部のマネージャーとして頑張らせて貰います」
「あ、ああ、ひょっとしてキスマークの……？」
次の瞬間、ゆかり部長が鼻を押さえてまた四つん這いになる。その競泳水着の巨乳の谷間を見た時、俺の脳裏に4月頭のあの光景がフラッシュバックする。
まさにあの日の『傾部の男子、水泳部の魔の10分』の再現だった。
「だ、大丈夫ですか？ 北野部長」
「ゆかり部長大丈夫ですか？ 今度は何が？」
陽菜と俺が同時に駆け寄ると、ゆかり部長が真っ赤な顔をして「恋人同士が何をしても勝手だが見える部分の素肌にああいうものをつけると水泳部だと困るからほどほどにしておけよ」という謎のアドバイスを貰った。ああいうものってなんだ？
残念ながら恋人同士じゃないし……ん？ フラッシュバック？ 『水泳部の魔の10分』？
バズった動画？ 火消しにダイナマイト？ 木の葉を隠すには森へ？
今何か頭をよぎったぞ！ このアイディアでいけるか？ 逆転の一手！ 打てるかも！？
まずは部活が終わったらあの二人に連絡だ！
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ちょっとした小話
ゆかり部長と水泳部女子2年生の会話
「はぁ……あの二人が腋にキスマークを付けるほど進んでるのか……はぁ、多々良のことちょっといいなって思っていたのに……また失恋か……」
「ゆかり部長、どうしたんですか？ ため息をつくと幸せが逃げますよ？」
「ああ、私の幸せは私の手からするりと逃げて行ったところだ。胸には自信があったんだけどね、上には上がいるんだね」
「するりって……部長の幸せってウナギみたいな感じなんですか」
「いや、あれはウナギというよりは巨大なカメの頭……ブッ！！！」
「きゃぁぁ！ ゆかり部長が鼻血を噴いて！？ 誰か来て～」
(20分経過)
「大丈夫ですか？ ゆかり部長」
「ああ、ありがとう……鼻血には慣れてるから。
(2年なら知っているかな？) 多々良と姫川は付き合っているのか？」
「ああ、そうみたいですよ。なんか多々良って二年生で一番性欲の強い男子って言われてるんですけど、あの陽菜って子が全部うけとめてるって噂ですよ」
「ブシュゥゥゥゥゥッ！！！！」（鼻血噴水の音）
「だ、誰か～！ 救急車！ 救急車を呼んで～」
という会話が恭介と陽菜が帰った後の女子更衣室であったとかなかったとか。
