第189話 恋人の私が全部受け止めます
疑似ザーメン試飲事件から二週間が過ぎたが、噂は沈静化するどころか悪化の一途をたどっている。
幸い2年5組のクラスメイトの皆は自分たちが噂を広める元凶になってしまったという負い目もあるし、元々1年5組で俺の入院見舞いに来てくれて仲良くなっていた女子も多く在籍しているから俺のことをよく分かってくれていて変なちょっかいやからかいをしてこないので凄く助かっている。
今は自分のクラスが2年5組で良かったと思うし今の俺にはこのクラスが学園内での唯一のオアシスのようになっている。
2年生については他のクラスでも1年5組で一緒だった女子が多少噂を押さえる役をかってくれているのか最初に噂が広がったにしては若干沈静化の動きを見せている。
1年の時の同じクラスだった文芸部の矢澤優香なんて俺が2年の他のクラスの女子から心無い言葉をかけられているのを聞いて飛び蹴りをかまして説教してくれていた。
ロリっ子ツインテールは俺のストライクゾーンじゃないけどすごくいい子だと思う。
問題なのは1年生と3年生だ。もともと俺のことが下ネタが好きでたまに勃起してる姿を目撃されてエッチな男子として中途半端に噂されていた3年生の間では、誰それが誘ったらホテルまでついて来たとか、しゃぶってやるって誘ったらザーメンサーバー(※注)みたいにいくらでも飲ませてくれるとか酷い噂が広がっている。
救いなのはさんご先輩や水泳部のゆかり部長は一切そんな噂に動じないでくれたことで、特に水泳部は俺のせいでエロ目的のギャラリーが増えてしまったにもかかわらずみんな嫌な顔をもせずに俺を受け入れてくれていた。本当に感謝しかない。
1年生は入ったばかりで|夢に溢れている《エロ妄想ばかりしている》ところに俺のエッチな噂が広がったので、保健室で寝ていると保健委員の多々良恭介がやって来て、そのタイミングで「アソコが疼いて辛いんです」という合言葉をいうと処女卒業できるという噂がまことしやかに広がっており、毎日授業中に保健室に行く女子が後を絶たないんだとか。
俺は「保健室の恭介さん」ってお化けか何かなのか?
教師側もこんな問題は前代未聞で対応に苦慮しているそうだ。ちさと先生には苦労をかけて本当に申し訳ない。
「恭介くん大丈夫? 最近ちょっと顔色悪いよ。ちゃんと寝られてる?」
登校中の通学路で陽菜が心配して聞いてくれるが、夢の中の陽菜がサキュバスみたいに搾り取ってくるせいだとは言えないでいるのでなかなかもどかしい。
ちなみに昨夜の陽菜は競泳水着で俺の夢の中に出てきた。競泳水着の股間をずらすとツルツルで、興奮した俺は夢の中の陽菜とのエッチが気持ち良すぎて多分二回分夢精している。
「大丈夫、噂は噂でしかないしクラスのみんなとか部のみんなとか分かってくれる人も増えてきてるから」
とりあえず現実的に対処できる噂に関してどうにかしていくべきなんだろうな。でも本当にどうしたものか。
「多々良~、クラスメイトだけじゃなくて先輩のアタシにもしゃぶらせてよ~」
また今日もちょっとガラの悪い3年生女子が心無い声をかけてくる。「磯野野球しよ~ぜ」みたいに言われても……
と、陽菜がその先輩の前に立ちはだかる。
「あなたみたいな人に恭介くんは興味がありません。それに恭介くんがしたいと思ったら恋人の私が全部受け止めます」
……そうなのだ、俺を守るためにこんなことになってしまったのだ。
ニセ恋人……陽菜が俺のそばにいつでもいること、今回の疑似ザーメン試飲事件に一切絡んでいない陽菜と小烏の二人ならみんな納得するといったため、陽菜とニセ恋人になってしまった。
告白もしてないし、本当の恋人になりたいのに……どうしてこうなったぁぁぁ!!!
※作者注 ザーメンサーバーは元の世界での「精液便所」の裏返し的な意味だと思われます