第186話 本当に俺のワガママだから(陽菜視点)
私たちは今、しずくちゃんの家を後にして雨の中を二人で家に帰っている。
理央ちゃんの家はしずくちゃんの家の近くだったから恭介くんと私でちょっと遠回りになるけど送っていった。高校生になる前にこの辺りに引っ越してきたそうなので元の世界でもこっちの世界でも私と会ったことがなかったみたい。
理央ちゃんは「私みたいな女を襲う人はいないからきょうすけの方が心配」と言っていたから「私が付いてるから大丈夫」と自分の胸を叩いておいた。私だって痴女除けくらいにはなれるのだ。
恭介くんは結局最後まで疑似セーエキ?っていうのを私には触らせてくれなかった。
でもあの臭いってあの日、お風呂場で嗅いだ臭いと一緒だよね。っていうことはあの日の恭介くんはうちのお風呂で射精したってこと?
恭介くんが隣を歩いていて傘と傘がぶつかりそうなくらい近くにいるのに顔を見ることが出来ない。
お母さんからは『お土産お願いね』というメッセージが来ていたが、恭介くんが絶対阻止、断固阻止と言い張って持ち帰りは禁止にされた。
生モノだから早めに処分するようにと恭介くんが強くしずくちゃんに言っていたけど本気でそう考えるなら恭介くんが持って帰って処分するべきだなぁって思っていた。
だけど、しずくちゃんが一生懸命アイコンタクトしてそれを気付かせない様にってお願いしてきたので仕方なく黙っておいた。
多分また恭介くんがひどい目にあうんだろうなと思うけど、私に飲ませてくれなかった恭介くんにはちょっとだけイジワルすることにした。
多分ばい菌とかは入ってないから、なんでかは分からないけど恭介くんが私にセーエキを飲ませたくなかったんだと思う。
傘を持っていない開いてる方の左手で恭介くんの裾をクイッて引っ張る。
「そんなに私にセーエキを飲ませたくなかったの? 私恭介くんが望んでくれるならマズくてもいくらでも飲むよ。私だって頑張れるもん」
ちょっと寂しかったからワガママを言ってみた。マズくても恭介くんのためなら疑似精液でも飲めると思う。
すると恭介くんはその場でうずくまって10分帰るのが遅れた。
「えっと……ゴメン、仲間外れはイヤだったよな。でも本当に俺のワガママだから……今日は俺のワガママを聞いてくれてありがとう。陽菜は俺の特別《ただ一人》だから」
そう言って歩きながら傘をよけて私の頭をなでなでしてくれたので、今日のことは全部どうでもよかったことにして気にしないことにしようって思えた。
「あ、でもでも、しずくちゃんに持続勃起症のお世話して貰うんだったら先に私に言って欲しい。私もちゃんと頑張る。幼馴染だしなんだってするから」
幼馴染だしってつけちゃうところが私がヘタレな所だと思う。
恭介くんはまたしゃがみこんでしばらく立ち上がれなかった。
家に帰るとお母さんからずいぶん遅かったのねとからかわれて、恭介くんは「陽菜を雨の中こんな時間まで連れまわしてスミマセン」と真面目に謝っていた。
恭介くんとならいつまでだって一緒にいたいのにね。
次の日、学校に行ったらクラスの女子が全員一口ずつ恭介くんが作った疑似精液を味わったらしくて大騒ぎになっていた。そのあと、伝言ゲームで誤って伝わった「恭介くんの精液はくそマズイ」という噂が2年生女子全員に広がっていたのはちょっとかわいそうだった。
伝言ゲームって怖いですよね。