第179話 岩清水の家はごく普通の一軒家だった
『きょうすけくんとしずくちゃん vol.3 ラブラブエッチ編』の中身をパラパラ見た俺はその場で頭を抱えた。
陽菜が中身を見ようとするのでとりあえず委員長の許可を得てから見せようと思い腕を思いっきり上に伸ばして渡さないようにする。
陽菜が俺の周りをピョンピョン飛んで薄い本を取ろうとしているが陽菜の背では届くはずもなく、たまにその大きなおっぱいが俺の体に当たって幸せなだけだ。
「図書室で騒いじゃいけません」と陽菜に伝えると大人しくなった。ちょっと反省している陽菜が可愛い。
「最近はオリジナルの方が良く売れる。アニメやゲームの同人誌《薄い本》は一部人気コンテンツだけが残っているだけ。『きょうすけくんとしずくちゃん』シリーズはうちのサークルの一番人気の商品。モデルになってくれてありがとう」
感謝しているのかよく分からないような無表情で感謝の言葉を伝えられる。
モデルになった覚えなどないけどな!
こういうのは肖像権の侵害というのではないだろうか。
事情を察した俺はすぐさま陽菜の携帯から委員長の家に遊びに行く旨をメールさせて、陽菜たちの図書委員の仕事が終わると同時に委員長の家に向かうことにした。
そんなに遅くなるつもりはなかったが雨も降っているし心配させてはいけないから遅くなったときのために俺の携帯からさちえさんに陽菜と一緒に委員長の家に寄り道すると連絡しておく。俺と一緒なら大丈夫だとお許しが得られた。
学校を出ると芥川は相変わらず何を考えているのかよく分からない眠そうな表情で雨の中を俺たちについて来ている。三人それぞれ傘をさしているが芥川の傘は内側に青空の絵が描いてあった。ちょっと意外な傘のチョイス。
芥川自身はこれだけの爆弾《同人誌》を投下したのに特に何の感慨も抱いていないらしいのは大物なのか人の気持ちにあんまり頓着してないのか。よく見ると可愛い顔をしてるのにもったいない。
岩清水の家はごく普通の一軒家だった。ここは岩清水家つまり委員長にとっては父方の家にあたり、母方の西園寺家は山の手の方に豪邸を構えている。
学校からは徒歩通学圏内で俺と陽菜の家から見ると丁度高校を挟んで反対側に位置している。
距離的には大した距離ではないので小学校の頃の学区は俺たちと一緒だったのだ。
ピンポーーーーン
陽菜にチャイムを押してもらう。俺はドアの覗き窓の死角に隠れている。
ガチャッ
「陽菜ちゃんいらっしゃい。どうしたの雨の中いきなり訪ねてきて? あれ? 理央まで……」
言いかけた委員長のドアノブを握る右腕をギュッと握って摑まえる。
薄い本を見せながら言った。
「しずく……この本はいったい何かな?」
委員長の恐怖に引きつった顔は一生忘れられないかもしれない。