第156話 目の前にカツ丼を置いている(陽菜視点)
ノリノリのお母さんが私の部屋から机用の電球が入ったライトを持ってきて、冷凍していたトンカツを使ってカツ丼を作り始めた。
トンカツはレンチンだけど、甘めのだし汁で新玉ねぎを煮るいい匂いが食卓の方まで漂い始めている。
尋問はみおちゃんが、まるちゃんの後ろには小烏さんが逃走防止の刑務官として立っていて、しずくちゃんは離れたリビングの机にノートを広げて記録係らしい。
あっという間にライトも置かれて私の家の食卓が取調室になってしまった。
……ひょっとして私がキスしたのがバレたら次は私が尋問される番なのだろうか?
絶対バレるわけにはいかない。
「それでは取り調べを始めます。まるっちには黙秘権はありません。全てを正直に話す義務があります」
「いいんだよ。何でも聞くといいよ」
「それでまるっちはいつ恭っちとキスしたの?」
「お祭りの日に買い食いしてフランクフルトとチョコバナナを食べた後なんだよ」
「どっちからキスしたの?」
「まるからだよ」
「どこに? 唇と唇? それとも……」
「まるの方からほっぺにだよ。こうやってコソコソ話するみたいな格好をしてきょーちんの耳を近づけさせてほっぺの方から来てもらったんだよ」
「まるっちの方からほっぺ……」
明らかに部屋の空気が弛緩した。
みんな恭介くんがまるちゃんと……その……口と口でマウストゥマウスな本気のキスをしてる可能性が頭にあったからそれに比べたら全然マシな状況という事だろう。
「良く話したね。正直に話せたご褒美だ。食べていいよ」
みおちゃんがまるちゃんの目の前にお母さんが作ってくれたカツ丼を置いている。
わーいと言いながらいただきますして食べ始めるまるちゃん。これってまるちゃんが得しただけなんじゃ……
「ほら、まるがキスとか言うから陽菜ちゃんが真っ赤になっちゃったじゃない」
しずくちゃんが言ってくれるが私が真っ赤になってるのは自分がしちゃったことを思い出しているからであんまり追求しないでほしい。
「あれ? エロ師匠なのに陽菜っちってこういう話耐性ない? エロ師匠なら恭っち以外なら誰でも落とせそうだし経験豊富だろうから、余裕っしょ?」
みおちゃんがちょっと不思議そうに聞いてくる。
「……です」小さな声で答える。
「え?」みおちゃんには聞こえなかったらしい。
「私は……だし、そのまだ……をしたことなくて」
恥ずかしくて大きな声が出ない。今回もみおちゃんには聞こえてないようだ。
「姫川は「私は処女だし、まだ唇同士のキスはしたことがない」って言っているが」
小烏さんって耳までいいんだ。私の小声を聞きとって通訳してくれる。
「「「ええ~!!!」」」
今度は私の幼馴染三人の声が一つになった。