第141話 フランクフルトとチョコバナナが食べたい
それからの俺たちは怒涛の勢いで出店の食べ物を制覇していった。
実は神社の神主さんが小烏の奉納舞にいたく感動して、俺たちに出店用の関係者引換券をたくさんくれたのだ。
すぐに帰る小烏はいらないというし、さんご先輩と藤岡は2枚ずつもあれば十分というので俺の手元に15枚以上の引換券が残っていたのだ。
小柄な丸川を肩車して遠くまで見えるようにしてやると
「きょーちん、8時の方角8軒先にはしまき発見!」といった感じで丸川が叫ぶので俺は周囲の人にぶつからないように気をつけながら急ぎ足でその店に向かう。
俺が注文すると丸川が引換券を一枚渡して、貰ったはしまきを俺に一口食べさせてくれたあと俺の頭の上で丸川が平らげていた。
俺が一口なのは昼の弁当のせいでもう結構お腹いっぱいだったためだ。
俺に妹がいたらこんな感じだったのかなぁと思いながら出店の通りを移動していく。あっちにタコ焼き、こっちでたい焼きと丸川の指示に従ってどんどん買い食いしていく。
手元のチケット枚数が心もとなくなってきた頃には次の岩清水と約束した茶会の時間が迫っていた。
「まる、残りチケットが2枚なんだけど最後に食べたいものあるか?」
「最後にフランクフルトとチョコバナナが食べたいんだよ」
う~ん、最後の最後で絵的に大丈夫なのかエッチなのか分からないものを食べるつもりらしい。
いや……俺が悪いんだ。こんなに小さくって可愛い丸川に変な目を向けちゃダメだろ。
幸いその二軒が並んでいたのでチケットで両方買う。そろそろ肩車から下ろすべきだろうか。そう伝えるとぴょんッと飛び降りるように後ろに着地した。
そのまま、両手に持ったチョコバナナをしゃぶりフランクフルトを咥えている。
うん、俺の心が穢れてる。さっきの小烏の奉納舞を思い出して心を鎮めることにしよう……神々しくも胸がぺったんこで全然イヤらしくない素晴らしい巫女さんのおかげで丸川で元気になるという人の道に外れた行いをしなくて済んだ。ありがとう小烏。
俺が脳内小烏に感謝の祈りを捧げたところで丸川が食べ終わったらしい。ぽっこり突き出したお腹を撫でながら満足げに笑っている。
「こんなに楽しかったお祭りは初めてなんだよ。ありがとうきょーちん」
まあ楽しかったなら何よりだ。俺も妹が出来たみたいで楽しかったし。
ちょいちょい
丸川が手招きしている。口元に両手を丸めるように合わせて内緒話のポーズをしている。
耳を近づけろってことかな? 丸川の口元に右の耳を近づける。
ちゅっ
耳を近づけたタイミングでほっぺたにキスをされた。
思わずほっぺたに手を当てて丸川から少し離れるようにして顔をみると丸川が真っ赤になっている。それでも嬉しそうに微笑んでいる。
「きょーちん大好き」
丸川はそれだけ言うと逃げるように走り去ってしまった。人ごみの中あっという間に見えなくなる丸川の小柄な背中に俺は何もできないまま赤い顔で佇むだけだった。