第14話 この状況に適応するための第一歩
年号が違う。俺が知っている今年は令和4年だった。そして新聞に書かれている年号は礼和4年。
新聞がそんな初歩的なミスをするはずがないからこの新聞は正しいのだと仮定する。
そうすると今の俺は礼和4年の世界に生きていることになる。さっきから母親が話していた小学校の頃の陽菜の思い出の食い違いも別の世界ということならあり得るかもしれない。
……が、あまりにも突拍子もない発想なので言葉にはしなかった。
新聞を見て青くなっている俺に「あんたの事故みたいな小さな事故までは載ってないわよ」と軽口をたたく母親。今手にしているのは昨日の新聞だし、こっちの世界では川で溺れかけただけで記事になるような事故ではない。
「とりあえずさ、病室内でスマホ使っていいらしいから俺のスマホ持って来てよ。防水だから壊れてないでしょ」
とりあえず病室から動けない以上は情報収集用のツールとしてスマホが欲しい。
「ああ、そこのベッドのわきに置いてある床頭台に貴重品入れがあるからそこにスマホも入れてあるわよ。これが貴重品ボックスの鍵」
と言いながらプラスチックの板状の鍵とスマホの充電器を渡してくる。
「サンキュ」受け取ってガチャガチャ鍵を開けて貴重品ボックスからスマホを取り出してタップ……画面にテンキーが表示されてパスコードを叩くがエラー表示が出る。
今目の前にあるこの世界の俺のスマホは偶然か必然か俺が使っていたものと同じ機種。赤いiPhoneSEだった。
だが、パスコードが一致しないというのは溺れる前と後で俺の中身の方が違ってしまっているという説を補強する事実かもしれない。
ちなみに元の世界の俺のパスコードは陽菜の誕生日の6月25日の0625と俺の誕生日6月6日の0606を足してひっくり返した1321だった。
こっちの世界の俺が陽菜との接点を無くしている以上は同じパスコードになることはないだろう。
幸いなことに俺の機種はTouch IDで指紋認証できる機種だったので指紋を当ててホーム画面を表示することが出来た。
これで情報収集が出来る。まだ点滴が外れず精神的にも少し不安定らしい俺がこの状況に適応するための第一歩を踏み出すことにした。
まずは礼和について検索してみよう。