第135話 笑顔で手を振ると手を振り返してくれた
その日からの数日間はあっという間に過ぎた。
今日は桜祭りの当日、陽菜と一緒に朝のランニングを終えて今から俺はお昼のお弁当の準備をしなくてはならない。
軽い下ごしらえは済んでいるから後はおにぎりを作ったりオーブンで焼いたりするだけではあるが。
「恭介くんが頑張ってるところ、舞台の下から見てるから。応援してるから頑張って」
朝のランニングの後、陽菜がくれた言葉が心を弾ませて温かくしてくれる。12時からの小烏との剣舞を見に来てくれる約束。
前の世界ではヒナと付き合っていたはずなのに、去年の夏に水泳の県大会を見に来てくれなくってガッカリしたことを覚えている。なんだろう……本当に付き合っていたのかな?
とりあえずあんまり昔のことを考えると泣きそうになるのでどんどんお弁当の準備を進めて重箱に詰めていく。
4人で食べる約束をしているので結構な分量、小烏は今日は朝から着付けやら準備があるのでアイツのために弁当を作っていると思えば苦にはならない。
もちろん、撮影を手伝ってくれる藤岡とさんご先輩への感謝の気持ちも込めるけど。
弁当を詰め終わって風呂敷で包みスポーツバッグに詰める。最初に神社に寄って荷物を置かせて貰おう。
ランニング後に家に帰ってシャワーを浴びて弁当を作っていたらあっという間に9時半になっていた。
そろそろ出ないとヤバイ。今日は終日いい天気で暖かくなる予報だが、夜は寒くなるかもしれない。多々良家と姫川家の花見は夜桜なので寒かったらいけないな。
着替えに加えてバッグにジャンバーとひざ掛けを入れておこう。陽菜が風邪を引いたら大変だ。せっかくの家族の団らんで風邪を引いたとかなったら陽菜の性格だと引きずりそうだからな。
「母さん、夜は車で来るんでしょ? 花見の時に合流よろしく、いってきま~す」
母さんに声をかけて家を出る。陽菜の家の二階を見上げるとたまたまこちらを見ていたのか陽菜と目が合った。なんだかアワアワしているような気がするが笑顔で手を振ると手を振り返してくれた。
うん、今日は陽菜といっぱい楽しい一日にしよう。
そのためにも小烏との舞台をしっかりこなして、っとその前にゆうきとの待ち合わせだから神社の鳥居の前だったな。
荷物を神社に置かせて貰うと小烏はもう控室になっている作務所の一室に入っていて藤岡が一緒についているらしい。
女性の控室に突入するわけにはいかないし小烏のスマホに「もう会場入りしているから何かあれば連絡してくれ」とだけラインを入れて作務所を後にする。
神社の鳥居のたどり着くとそこにはゆうきが待っていた。
「きょーすけ遅いよ。30分前から待っていたんだから」