第130話 三時のおやつの時間なんだよ!
水泳部でのトレーニングで汗をかいた後は光画部の部室に寄る。
夕方にさんご先輩と藤岡の二人に桜祭りの撮影依頼をするために時間を取って貰っていた。
部室につくとさんご先輩はまだ暗室にこもって現像作業をしていて、藤岡は膝の上に丸川を乗せて髪をセットして遊んでいた。
「悪いな藤岡、待たせちまったか?」
「ああ、大丈夫。まるっちと一緒に街で遊んでから戻ってきたところだから。みっつーパイセンもそろそろ出てくると思うよ」
丸川と遊んでから戻って来てくれたとか律儀すぎる。本当に世話焼きでいいやつだなコイツは。
「桜祭りのひよりっちの奉納舞と剣舞の撮影だよね。剣舞の許可は下りたんだ」
丸川のセットを終えた藤岡が俺に声をかける。気付くと丸川の髪型がいつものポニーテールからパイナップルみたいになっていた。
パイナップルみたいにおかしな髪型なのに可愛く見えるところが流石藤岡といったところか。
「ああ、剣舞のほうは真剣の使用許可まで下りたよ。本当に琴乃刀自って何者なんだよ」
「あ~、あの人はね~……うん、あんまり考えない方がいいよ。あーしも怖いから近づかないし」
二人で顔を見合わせて頷き合う。このことはあんまり考えないようにしよう。
「カーニバルだよ! チェリーブロッサムカーニバルだよ!」
藤岡の膝の上で大人しくしていた丸川がぴょこんと立ち上がるとクルクル回りながら騒ぎ出した。桜祭りに反応したらしい。
「射的にくじ引き、金魚すくいに綿あめにタコ焼き、焼きそば、りんご飴、はしまき~」
節をつけながら部室の中をクルクルと回っている。
そしてパイプ椅子に座っていた俺の膝に手をついて言った。
「まるとカーニバルに行くんだよ、きょーちん」
俺の目の前でパイナップルがぴょこぴょこ揺れている。満面の笑み、すごく楽しそう。
え~と、まあいつも丸川の明るさには助けられてるし背が低くて胸も小さい丸川は妹的な可愛さがあるのでついつい甘やかしたくなる。
「ステージが終わって一通りの片付けが済んでからだから午後三時くらいになるけどいいか?」
どんどん当日のスケジュールが埋まっているな。女子同士がバッティングしても爆弾とか爆発しないところだけが救いか。
「三時のおやつの時間なんだよ! お腹を減らしていっぱい食べるんだよ」
午後三時というのは丸川にとっては最高にちょうどいい時間だったらしかった。
わかったわかった。それじゃあ丸川と屋台巡りだな。
俺と丸川が約束してるのを見ながら藤岡が肩をすくめている。
ガチャッ
そのタイミングで暗室の扉が開いて強烈な臭いとともにさんご先輩が出てきた。現像に使う氷酢酸とかの薬品の臭い。この臭いにはなれそうにないなぁ。