第122話 見間違えるわけがないだろう
スーーーーーーッ
フスマを開けるとそこには大きな座卓と言えばいいんだろうか、低い重そうな木材で出来た横長のテーブルがあり三人の男女と一人の黒服さんが座っていた。
部屋の奥側に品のいい老女が、テーブルの長い辺を挟むように向かい合ってしずさんとお見合い相手がいた。老女の後ろには黒服を着た女性が控えている。
「おやおや、ずいぶんと騒がしいと思ったら孫の友達が来てくれたのかい?」
品のいい老女が言う。長い白髪を後ろで一つにくくっている。やはり古くて権力のある家の当主らしく迫力があった。
「それで何の用だい? 用もないのに孫のお見合いを邪魔しに来たっていうんならただじゃ置かないよ」
陽菜が俺としずさんと琴乃刀自の三人を見ながら不安そうにしている。黒服さん達をすり抜けるときに繋いでからここまで繋いだままだった手をぎゅっと握って安心させてから話す。
「お話を聞いてもらいに来ました。学校での委員長《岩清水》のこと、俺たちの友達で《《自慢の委員長》》だってことを知って欲しくてここまで来ました」
「私もしずくちゃんと小学生の頃からずっと一緒ですけど大切な友達だからもっとわかってあげて欲しいです」
俺に続いて陽菜も伝える。
しずさんがびっくりした顔で俺と陽菜を見ている。
「なんで私が岩清水しずくだってわかったの?」
分からないと思ったのか? いくら眼鏡を外そうが髪型や化粧を変えて話し方が違っても俺が岩清水のことを見間違えるわけがないだろう。
「ほう、そのためだけに……しずくのためにここまで来たっていうのかい。その心意気に免じて話だけは聞いてやろうじゃないか。
すまないが席を外してもらえないだろうか……お見合いの席を設けて呼び出しておいてすまないね。この埋め合わせは必ずするから」
琴乃刀自がお見合い相手の男性を下がらせた。
刀自の後ろに控えていた黒服さんが口元のマイクに向かって何か言っている。小烏と相対している黒服さん達への指示だろう。
「陽菜、ちょっと店の入り口まで行って藤岡と丸川の二人を迎えに行ってくれないか、黒い男物の服着てるけどあの二人だからすぐにわかるだろう」
陽菜がうなずく。さて、あとはみんな揃ったら岩清水のことを琴乃刀自と話して分かって貰おう。
分かって貰えなかったら?……そんなわからずやには岩清水は任せられないからさらって連れて帰るだけだろ。
岩清水しずくは俺たちのクラスメイトで友達で仲間なんだから。
作者はこの回に備えて15話に岩清水しずくが登場してから地の文を入れても4回(作者調べ)しか「しずく」と書かずに徹底的に岩清水の名前を隠してきたのでした。
「委員長」じゃなきゃ隠せなかった?