第121話 ここは私に任せて、恭介と姫川は先に行け
しずさんを先に行かせてから、亭の手前の曲がり角の陰で陽菜と小烏の二人と合流。
藤岡と丸川の二人はまだ姿を見せていない。
小烏はきちんと木製の柄のデッキブラシを買ってきていた。
「なあひより、このデッキブラシって振り回すのに問題ないか?」
「頭を外した方が棍として見たときにバランスがよさそうだな。それにつけたままだとちょっと当たり所が悪いと怪我をさせてしまいそうだ」
ブンブンを振り回した後でそういうので、俺が受け取ってデッキブラシの頭を引っこ抜いてただの木の棒にする。
小烏に渡してやると二三度振ってバランスを見たと思うとクルクルクルクルっと手で高速回転して見せた。そのまま中国武術の演武のような動きで棍を使った鮮やかな舞を披露した。
おお~っと俺と陽菜が思わず拍手をする。俺たちに向かって一礼した後、
「今まで棍は使ったことがないから見様見真似では今ぐらいの動きが限界だな」とのたまうので度肝を抜かれた。
本当に剣術や体を動かす体術に関しては真の天才なのだろう。
さて、こっちの最高戦力の補強が完了したところで料亭の入り口に向かう。
本日貸し切りの札が下げてある。この状況で乗り込むと最悪の場合不法侵入になるだろうが、虎穴に入らずんば虎児を得ずということわざもある。こっちの世界にもあるよな?
横に開く引き戸を開けると、ごめんくださ~いと声をかけて靴を脱いで建物の中に上がらせて貰う。
店員さんが出て来たので「西園寺しずさんの連れのものです。忘れ物を届けに来ました」と言って奥に入ろうとする。
「少々お待ちください」という話をしていると4人の黒服さんがやってきた。女性ばかりなのは貞操逆転世界だからか?
君たちは何をしに来たんだと聞かれるので同じ答えをもう一度返す。俺たちが奥に行くのを妨げようとするのですっと小烏が前に出た。
「ここは私に任せて、恭介と姫川は先に行け」
と言って棍を構える。黒服さん達もそれぞれ警棒などの得物を手に小烏と対峙する。小烏がブンッと棍を振って出来た隙に陽菜の手を繋いで突っ込む。
俺と陽菜が奥に向かう廊下に飛び込んで、その廊下を今度は小烏が塞ぐ。
「お互いに怪我はしたくないだろう。残念ながらそちらの実力では私には勝てない。中にいる人間に危害を加えることはないからあの二人を行かせてくれ。お嬢様の友達だからな」
小烏の声が聞こえる。本当にカッコ良すぎだろ。惚れ直すわ。
って言うか人生で一度は言ってみたかった「俺に任せて先に行け」を取られてしまった。