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第12話 顔も見たくない

 ……知らない天井だ。

 いや、一度言ってみたかっただけ。今目の前にあるのは本当に見知らぬ天井だけど。


 目が覚めると病室だった。個室で照明は薄暗くされていて腕を見ると点滴が繋がれている。

 脈拍や血圧などを映しているモニターが見えた。


「これってトラック事故で運び込まれたって感じじゃないよな」

 川の水を飲んだ記憶も残っているが、流石にあのトラック事故で体に痛みもないのは不自然だ。

 しかし、あの事故の感触と絶望的な痛みとが夢だったとは思えないが。

 身体を動かしてみるがどこかが動かないということもない。ちょっと体がいつもより重い気がするのとずっと寝ていたせいなのか腕が細い気がした。


 ガチャッ。

 個室のドアが開いて女の子が病室に入ってくる。その後ろに続いているのは俺の母親だ。

「母さん……それに陽菜?」

 陽菜への呼びかけが疑問形になってしまったのは陽菜の容姿が今までと全然違っていたから。

 黒ギャルで茶髪のショートボブだったはずなのに今の陽菜は色白で黒髪、髪はロングのストレートで肩甲骨の辺りまで長さがあるようだった。


「あら、恭介。気が付いたの?」

 母さんがのほほんと話しかけてくる。

 頷く俺に陽菜が抱きついてくる。半分泣いてるような表情。

「恭ちゃん! 恭ちゃんが無事でよかったよ! 私のことを助けてくれてありがとう」

 ぎゅぅっと力がこもる……が、その感触を楽しむまでもなく俺の体がガクガクと震え始める。


「ご、ゴメン陽菜……ちょっと離れてくれ」

 絞り出すように声を出すと陽菜の肩を掴んで押しやる。抱きつかれた瞬間、トラックの事故と最後の瞬間の衝撃が鮮明に蘇った。

 絶対にあれは夢じゃない……自分の死んだ瞬間(?)がフラッシュバックしてめまいがする。


 震えが止まらず吐き気までしてくる。ヒナに浮気された時とは違い生命の危機に対する恐怖からくる震えに吐き気。

「陽菜ゴメン……今は顔も見たくない」

 俺が必死で絞り出せた言葉はそんな冷たく聞こえる言葉だった。

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