第111話 惚れさせておいてまだそういうことを
ファミレスを出て藤岡をマンションまで送ってから今俺と小烏は電車に揺られている。
近くのスタジアムで男性アイドルのイベントがあったとかで電車の中は満員に込み合っていた。それも女子で! アイドルのコンサート終わりで興奮した女子の群れに放り込まれた。
小烏と一緒なので俺だけ男性専用車両に乗るわけにもいかずに一般車両に乗り込んでいる。
ガタンガタンガタンガタン……
そして今、俺はドアを背に小烏から両手で壁ドンされている。右にも左にも逃げ場はなく周りは女性だらけ。どうしてこうなった~~!?
少し回想してみると俺たちが電車に乗ると後ろから大量の女子が同じ車両に流れ込んできた。小烏と一緒に流されるようにして車両の一番奥、入口の反対側のドアまで押し込まれる。ぎゅぅ……小烏の無い乳が押し付けられる。
本当に胸ないんだなどというちょっと失礼な感想を抱いた瞬間、ドンッと小烏が俺の顔を挟むようにして両手をドアに当てて手を突っ張った。
「大丈夫か、多々良? すまないな、お前ひとりだったら男性専用車両に乗れたのに」
竹刀を背負っている小烏の方が謝ってくる。失礼なことを考えた自分が恥ずかしい。
「こういう車両では痴女が出ることがあるから私が守ってやる。こう見えても素手での格闘も護身術程度ならたしなんでいる。
多々良に何かあったら絶対守ってやるから」
なにこの人……めちゃくちゃ男前なんですけど。
ちょっとドキドキして顔が赤くなってしまった。貞操逆転世界だからこうなのか、小烏ひよりという女の子だからこうなのか……
キキーーーーーッ
何らかの理由で電車が普通よりも強くブレーキを効かせる。
車内がぐぅッと流れるように動くが小烏だけはその場に杭でも刺さっているかのようにびくともしていない。女子にしては高めの身長で顔がほとんど俺と同じ高さなので真正面から向き合っているような距離感。
まだ藤岡に施されたイケメン美少女剣士のメイクのままなので、こんなキスできそうな距離にその引き締まった口元があるとドキドキが止まらない。
思わず俺の下半身が反応してしまう。小烏に少し当たってしまったのか、ンッ? と変な顔をして下を見たが見て見ぬ振りをしてくれている。
この貞操逆転世界の女子が充満した満員電車の中で勃起してるとかマジで貞操の危機的状況(満員痴女電車?)だと思うけど小烏が守ってくれているこの安心感。
次の駅が俺が降りる駅だ。小烏はそのまま電車で6駅ほど先の駅まで向かうことになる。
「そろそろお別れだな。今日は本当にありがとう。このお礼をどうしたらいいのか分からないが本当に感謝している」
すぐ目の前の小烏からちょっと潤んだ目で言われるとこちらのドキドキが止まらない。
「気にするなよ、友達だろ。それにこれで道場が再建できれば俺と結婚なんて考えなくてもよくなるわけだし」
そう言って俺が笑うと小烏が俺の顎をクイッと掴んだ。
「そうか、ここまで惚れさせておいてまだそういうことを言うのか《《恭介》》。明日からもずっと一緒だから覚悟しろよ」
ちょっと凶悪なそれでいて悪戯っぽい顔でいきなり恭介呼び……小烏の顔がどんどん近づいてくる。俺は思わず目をつぶってしまう。
「私のことは《《ひより》》って呼んで欲しい。いいだろう恭介?」耳元で囁くように小烏の声がした。
プシューーーー!!
電車が停まり俺のもたれていたドアが開く。思わず転げるように車両を降りる。
「それじゃあ、恭介。また明日学校で」
真っ赤な顔をして手を振る小烏の前でドアが閉まる。
ガラスの向こうに見える凛々しい小烏はカッコいい。
顔が真っ赤でなければもっとカッコよかったと思うが俺にはものすごく可愛い女の子に見えた。
「あ、ああ、また明日、ひより……」
走り出す電車を見送り俺はしばらくその場でボーーっと立ち尽くして動くことが出来なかった。
初壁ドン、初顎クイ回でした。やっぱり初めてってイイですよね。
恭介くんちょっと濡れちゃってるかも?
これにて小烏道場編はいったん終了!
次回は陽菜ちゃんお弁当バトル(?)です。
(110話の投稿が遅れました。バタバタしててすみません)